行方
東京○ッグサイト、ここで毎年行われるアニフェスは今は世界的にも有名で、海外から日本のアニメや漫画を購入しに来る者、未発表のアニメ情報を見に来る者、お目当ての声優さんに会いに来る者、コスプレを楽しむ者、またそれを目当てに撮影しに来る者、イベントを楽しむ者等、その目的は人それぞれ違うが今年も人でごった返していた。
「凄い人ね。」鈴音は隣の慎司に言う。
「ホント、初めて来たけど、想像以上だよ。」慎司と鈴音は辺りをキョロキョロと見渡す。
「アレ、凄い格好...。」鈴音は以前文化祭でコスプレしたチャイナドレスはまだまだ序の口だったんだなぁと思っていた。
「目の保養だ。」慎司はありがたや〜と手を合わせる。
「お爺ちゃん、逸れないでよ!」鈴音は笑う。
「わかってるよ。」慎司は鈴音に手を引かれながら歩く。
(コレじゃ探すって言ってもムリだな。鼻は効かないし、どうしたモンか...。)慎司はそんな事を思っていた。
「あのさぁ、もし、何か起きたとして、妖気は感じる事は出来るの?」鈴音は慎司に聞く。
「今日は無理だね。能力は全て使えない。一般peopleだよ。今日はすぐに華月を呼ぶよ。」慎司は言う。
「そっか...。ねぇ、人波に逆らわずに大分来ちゃったけど、入り口で待った方がいいよね?」鈴音は慎司に聞く。
「そうだね。中にいるよりは確認しやすいか...。戻ろう。」慎司と鈴音は入り口に戻る。
「Tちゃん、Nちゃんに時間を聞いておくんだったな。」慎司は言う。11時から開催しており、夜の20時まで祭典は繰り広げられる。慎司と鈴音は入り口まで戻って来る。現在の時間は12時を回ったところである。
「とはいえ、ここでただ待つのって、しんどいね。」慎司は鈴音に言う。
「そうね。とりあえず、ご飯買ってくるね。」鈴音はまた、中の人混みに消えていった。
(なんか鈴音ちゃん、沙希ちゃんに似てきたな。)慎司は思ったが、絶対に口には出さない。
(ケビンは何故、日本に来たんだろう?もしかすると、自分の統治下ではない、西の統治下で活発な妖しがいるのか?いたとして、妖しを集めて何をする気だ?百鬼夜行か?何のために?)慎司は考え込む。
(華月の両親が亡くなった時は、百鬼夜行が行われた。未だに首謀者はわからないが...。目的は果たされた。華月の両親の抹殺、及び退魔師の壊滅。だが、少なくともヤツらの被害も尋常じゃなかったはずだ。)
それでもヤツらにとって、それだけの価値のある百鬼夜行だった。という歴史を慎司は父から聞かされていた。
(失った戦力の増強の為に、妖しを呼び寄せているヤツがいる。もしくは、妖しの力を分け与え、頃合いをみて回収しようとするヤツがいる。今、考え得るところはこんなところか...。確か始めのミイラが見つかったのが、13年前。百鬼夜行以前の事だよな。てことは、少なくともケビンは前回の百鬼夜行には参加してないわけで。...待てよ、百鬼夜行が既に計画されていたものなんだとしたら、そこに被害が生じるのは目に見えているはず。もしかしたらケビンは次の百鬼夜行に向けて、日本に呼び寄せられた次世代要員て事か?仮に妖しとして大成しなくても、その力は本来の宿主に戻るはず。そう考えるならば、ケビンの主、そしてこれは憶測だが、華月の両親を殺めた百鬼夜行の首謀者は同一で日本にいる。...いや、飛躍しすぎか...。)慎司はどこを見るともなく、考え込む。
(今今ではないにしろ、一度西の統治者と連絡する必要があるか...。あの人苦手なんだよなぁ。)慎司は西の統治者である、右京 智則(うきょう とものり)の事を思い出していた。慎司と同じく人狼族の長だが、先祖代々伝わる昔ながらの家柄、格式を重んじ、それ以外の輩を軽視する傾向が右京にはあった。同族のよしみで慎司に敵意を向ける事は無かったが、自分よりも特別な白狼族の力に嫉妬している節はある。だがその実力は確かで、西の地に点在する妖しを見事に束ねていた。
(右京さんに限って自分の統治下で暗躍する妖しを見逃すはずはないな。あの人出る杭は打つタイプだしな。やっぱ連絡するのやめとこう。)慎司は空を見上げる。
「お待たせ。ハンバーガーとポテトでいいよね?」鈴音は紙袋を慎司に渡す。
「ありがとう。幾らだった?」慎司は言う。
「この間秋葉原で奢って貰ったからいいよ。」鈴音は言う。
「ありがとう。」慎司は礼を言う。
「まだ来てないよね?」鈴音は聞く。
「あ...。多分...。」慎司は考え事で見てなかった。
「もう!しっかりしてよ!」鈴音はヤレヤレと言う感じで言う。
「ゴメン。」慎司は謝る。
「何か考えてたんでしょ?」鈴音はハンバーガーを口に運ぶ。
「ケビンは何で日本に来たのかな?って。」慎司もハンバーガーを頬張る。
「わかんない。それこそ本人に聞いてみないと。話の通じる相手とは思えないけど。」鈴音は冷めた様に言う。
「だよね。まぁ目的は何にしろ、許されざる行為の数々。妖しの力を持つ者として、統治者として、放っておくわけにはいかない。」慎司は自分に言い聞かせた。
「ねぇ、統治者って何なの?」鈴音は聞く。
「全ての妖しを取り仕切ると言えば聞こえはいいけど、妖しの世界にも秩序が必要なんだよ。人に悪さをしたりしない様にね。その土地毎の管理人とでも言えばわかるかな?」慎司は鈴音に言う。
「華月くんは?」
「華月は刑の執行人。如月の鬼は死んでからあの世の裁きを受ける事を待つまでもなく、閻魔大王直属の部下として地獄の裁きを現世で与える事の出来る執行人。」慎司は答える。
「ふ〜ん。慎司くんの管理下じゃない特殊な妖しって事?」鈴音は聞く。
「そうだね。本来はそうなんだけど、華月は、というか如月の鬼の力を持つ者は、毎回その土地の統治者を立ててくれる。刑の執行前には必ず連絡をくれるよ。律儀というか、そういう決まりなのかはわからないけどね。」慎司は言う。
「じゃあ、私の時も慎司くんの許可っていうか、連絡あったんだ?」鈴音は華月達に助けられた事を思い出す。
「あぁ、あの時もあったよ。」慎司はハンバーガーを食べ終わり、ポテトを食べ始める。
「慎司くんて偉いんだね。」鈴音は笑う。
「偉くはないさ。先祖が統治者の力を持つ者で、それを受け継いでいるだけさ。力を持つ者は力無き者に悪しき形でそれを使ってはならないんだ。」慎司は言う。
「妖しの世界も大変そうね。」鈴音は考える様に言う。
「前にさ、助けて貰ってから考える様になったんだけど、私の特殊能力って妖しの力なのかな?」鈴音は慎司に聞く。
「ん〜、鈴音ちゃんのは違うかな。基本妖しの力は代々受け継がれていくもの。鈴音ちゃんの場合、お母さんと鈴音ちゃんの能力は違うし、鈴音ちゃんがそれを受け継いでいる事もない。強いて言うなら、人の遺伝子が持つ可能性の1つが具現化した物...かな。」慎司なりの憶測であった。
「そっか...。」その答えに鈴音は少しだけ寂しさを覚えた。もしかしたら、自分も慎司や華月の様に妖しの力をその身に宿す者として、彼らと同じ境遇である事に仲間意識を見い出そうとしていたからだ。
そんな鈴音の表情を慎司は感じ取ったのか、
「鈴音ちゃん?」鈴音を気遣う。
「あ、もしかしたら私も同じ妖しの力で仲間になれるのかなって。」鈴音は苦笑いする。
「力の形は違えど、judgement nightの一員。もう仲間だよ。」慎司は笑う。慎司の言葉が悩みを吹き飛ばす様に、鈴音の心のモヤを払い去る。
「うん!」鈴音も笑う。
如月家道場には華月と佐奈子、沙希がいた。
「加奈は?」沙希は華月に聞く。
「今日は部活の試合で出かけている。」華月は答える。加奈はバスケ部に所属していた。
「あ、そうなんだ。」沙希は世間話の様に話す。
「華月、念の為着替えを済ませておけ。」佐奈子は言う。
「わかった。」華月はそう言うと自分の部屋に戻る。
「ねぇ佐奈子婆ちゃん、いつも思ってたんだけど、あの黒装束には何か意味があるの?」沙希は聞く。
「あれは我ら如月の鬼の力を持つ者が、罪人という事を忘れぬ為に先祖代々伝わって来た物。」佐奈子は答える。
「罪人?」沙希は聞く。
「如月の鬼は裁きの鬼。人であろうが、人外であろうが、本来歩むべき未来を途絶えさせる。それが我らの罪なんだ。」佐奈子は言う。
「罪って...おかしくない?それで救われる人だっているのに。」沙希は疑問に感じた。
「...例えば、加害者に家族がいたとしよう。加害者を罰すれば、当然その家族の未来をも変えてしまう。それをも受け入れる事が、我らの使命とも言うべき因果なのだ。」佐奈子は言う。
「難しいんだね...。佐奈子婆ちゃんはさ、ひ孫が見たい?」沙希は話題を変える。
「はははっ。私がよく言うからかい?」佐奈子は笑う。
「うん。」沙希は頷く。
「冗談だよ、お約束ってヤツだよ。」佐奈子は笑う。
「華月にも、加奈にも出来れば普通の人生を歩んでほしい。如月の鬼に縛られる事なくね。跡取りの事を考えれば、加奈にもいずれ話さなければならない時が来るだろう。だが、華月はそれを良しとしない。妹には普通の人生を歩ませたい。華月が如月の鬼の力を継承してから、ずっと言い続けている事だ。私も綾乃もそんな華月の想いを尊重している。ホントに優しい子だよ華月は。だからこそ、あの子にも幸せになってほしい。」佐奈子は慈しむように言う。
「そうだね。いざとなったら、私がかづちゃんを貰っちゃうから安心してよ!」沙希は笑う。
「頼もしい限りだね。」佐奈子も笑う。
「勝手に決めるな。」着替えを終えた華月が道場に入ってくる。佐奈子の前に正座すると一礼をする。
「慎司達から連絡はないか?」華月は沙希に聞く。
「うん、まだない。」沙希は言う。
「昨日の綾乃からの報告では、対象の所在が掴めないとの事だったが。」佐奈子は言う。
「あぁ。わからん。だが、マリアの行くところに必ず現れるだろう。」華月は言う。
「マリアの親友がやられてるから、マリアは仇を討つつもりなのね。」沙希は言う。
「そのようだ。だが、それが叶う事はない。」華月は冷静に言う。
「妖しが相手では武が悪い。」佐奈子が言うと華月は頷く。
「マリアの事だ、ただ学校を休んでいただけではないだろう。休みの間恐らく、ヤツの所在を突き止めるべく、行動していたんだろう。」華月は言う。
「マリアの安否は取れているのか?」佐奈子は言う。
「毎日電話してるから大丈夫。今朝も電話で話したよ。フェスに行くって言ってたわ。」沙希は言う。
「そうか。」佐奈子は安堵する。
「慎ちゃん達からの連絡待ちね。」沙希は言うと華月と佐奈子も頷く。
時計は16時半を回っていた。
慎司達はただ待つのも退屈なので、交代しながら、中のブースを見て回ったりして時間を潰していた。
「まだ来ないの?」入り口に戻ってきた鈴音は慎司に聞く。
「まだだね。マリアはともかく、Tちゃん、Nちゃんすら見かけないのは不安だね。何かあったのかな?」慎司は独り言の様に言う。
「ねぇ!慎司くん、アレTさんじゃない?」鈴音の指さす方向を見ると、2人組が歩いて来る。
「マリアがいない...。」慎司はTちゃん、Nちゃんの姿を確認すると2人に駆け寄った。
「高原くん?あなた達も来てたんだ!」Tちゃんは慎司と鈴音に言う。
「マリアは?」慎司はいきなり聞く。
「マリアちゃん、熱が出ちゃったんだって。凄く楽しみにしてたから来れないの残念がってたよ。今朝電話貰ったのよ。」Tちゃんは言う。
「今朝?」慎司は怪訝な顔をすると、2人にお礼を言ってその場を離れる。
「どういう事?」鈴音は慎司に聞く。
「わからない。沙希ちゃんの話ではフェスに行くって今朝電話で言ってたらしい。」慎司はスマホを取り出すと華月に電話する。
「もしもし。」華月が出る。
「華月、マリアは来なかった。今、Tちゃん達と会えたんだけど、Tちゃん達に今朝電話で熱が出たから行けないって連絡があったらしい。」慎司は少し慌てた感じで話する。
「そうか。念の為まだ残れるか?」華月は言う。
「大丈夫だけど、どうする?」慎司は聞く。
「マリアがそちらに現れた場合、すぐに俺を呼んでくれ。こちらはマリアの家に行って確かめる。」華月は言う。
「わかった。気をつけて。」慎司は言う。
「そちらもな。」華月は電話を切る。
「沙希、マリアの家に行くぞ。」華月は立ち上がる。
「来なかったのね。」沙希は言う。
「あぁ。熱が出たと今朝連絡があったらしい。」華月は答える。
「今朝?熱?それは嘘だわ。元気そうな声だったもの。」沙希は言う。
「華月、沙希、くれぐれも気をつけて行け。」佐奈子は事態を察したのか2人に言う。2人は頷くと如月家を後にする。
マリアは学校を休んでいる間、S県にあるホストクラブのサイトを調べていた。とある店のキャストの中にケビンの顔写真を確認する。キャスト名はロビン。
(いた。)すぐ様サイト内の出勤時間を確認する。フェスの日18時〜の出勤になっていた。
当日の昼、店に電話をしてみる。
「お電話ありがとうごさいます。クラブMへようこそ。」受付と思われる男が電話に出る。
「あの、ケ、ロビンさんは18時からですか?」マリアは男に聞く。
「お客様、お目が高い。ですが、大変申し訳ございません。ロビンは最近人気急上昇中のキャストでして、本日のご予約は全て埋まっております。代わりのキャストで宜しければ、半額にてご案内いたしますがいかがいたしましょう?」
「出勤はするんですね?一目見るだけでもいいんです。」マリアは言う。
「出勤はいたします。わかりました。お客様の想いにお答えしてこそのホスト。短いお時間となりますが、ご案内いたします。お客様のお名前をお伺いしても宜しいでしょうか?」男は答える。
「すみません、かけ直します。」マリアは電話を切る。
(ケビンの出勤する事は確認出来た。後は行動あるのみ。)マリアは決意を胸に家を出る。
華月と沙希はマリアの住んでいるマンションに来ていた。沙希はエントランスで部屋番号を押しインターホンを鳴らす。
「Hello」華月の耳に聞き覚えのある男の声がする。マリアの父だ。
「マリアの父さんだ。」華月は沙希に言う。沙希は英語で、
「沙希です。マリアの友達です。マリアいますか?」と問い合わせた。
「マリアは友達と出かけたよ。」と英語で返事が返ってきた。
「ありがとうございます。また来ます。」沙希はそう告げると華月と外に出る。沙希はすぐ様慎司に電話する。
「マリアは家にいなかったわ。」沙希は言う。
「そうか。こちらも見つけたらすぐに華月を呼ぶよ。」慎司が言う。華月は沙希に電話を代わってくれとジェスチャーする。
「慎司、状況次第で力を行使する。」華月は言う。
「わかった。」慎司は答える。その時、華月のスマホに電話の着信音が鳴る。加奈からだ。
「もしもし。」華月は電話に出る。
「お兄ちゃん、マリアさんて今日アニフェスに行ってるんだよね?」加奈は聞く。
「そう聞いているが。」華月は加奈に平静を装い答える。
「さっき、マリアさんらしき人を見たの。」加奈は言う。
「どこでだ?」華月は聞く。
「O駅の近くの雑居ビルに入って行ったのよ。地下にホストクラブが入っているトコ。」加奈は答える。
(ホストクラブ?なんでまた?)華月は思ったが、
「他人のそら似だろう。部活は終わったのか?」華月は平然を装いながら、沙希に指で行こうと示す。
「見間違いかぁ。今日は10点決めた!」加奈は嬉しそうに言う。
「そうか。頑張ったな。気をつけて帰れよ。」華月と沙希は走り出していた。
「うん!お兄ちゃんは今外?」加奈は聞く。
「あぁ。沙希と出かけててな。もうすぐ帰る。」華月はいつもの感じで言う。
「わかった。じゃあねー。」加奈は電話を切る。
「加奈がO駅の近くでマリアを見たらしい。急ぐぞ。」華月は沙希に言うと沙希は頷く。2人は走る速度を上げて駅に向かう。
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