それぞれの思惑

マリアは体調不良を理由に学校を休んでいた。慎司達4人は屋上で昼飯を食べていた。

「明日、アニフェスだけどマリアは行くのかな?」鈴音は誰にとも言う訳でなく話出す。

「元々行く約束をしていた学校の友達には行くって言ってるみたいよ。」沙希は言う。

「そうなんだ...。やっぱり私が余計な事言っちゃったから学校来ないのかな?」鈴音は落ち込む。

「いつまで気にしてんのよ。鈴音がどうこうって話じゃないでしょ。」沙希は言うと、パンを頬張っていた慎司も大きく頷く。

「で?綾乃さんから何か連絡あった?」沙希は華月に聞く。

「まだない。」華月はパンを食べ終えていた。

「明日帰ってくるのよね?収穫なしかな...。」沙希は言う。

「いや、綾乃さんに限ってそれは無いと思うな。」慎司が言うと華月も頷く。

「そうね。」沙希も言う。沙希は続ける。

「慎ちゃんと鈴音はフェスに行くとして、私はかづちゃん家にいればいいかな?」

「あぁ。その方が身動き取りやすいだろうな。」華月は言う。

「わかった。」沙希は頷く。

「元々行く約束してた友達って誰かな?」慎司は沙希に聞く。

「ウチのクラスのTちゃんと6組のNちゃんだったと思う。」沙希は思い出す様に言う。

「わかんないなぁ。」慎司は苦笑いする。

「Tちゃんは後で写メ送る。」沙希は言う。

「助かるよ。」慎司は答える。

「でも、マリアの匂いで居場所わかるんでしょ?」鈴音は慎司に言う。

「無理だね。この間とは違うよ。俺のコンディションにも左右されるし、人混みは色んな匂いが入り混じって全くの別物になってしまう。ん?」慎司は何か思い出した様に数を数え出す。

「あーーっ‼︎」慎司は叫ぶ。

「何よ突然、ビックリするじゃない!」沙希は慎司に言う。

「俺、フェスの日ダメだぁ...役立たず...。新月だぁ...。」慎司はガックリと肩を落とす。

「えっ⁈」鈴音は慎司に聞く。

「人狼族にとって、新月は最悪の日なんだよ。その能力を一切使えない。」慎司は頭を抱える

「そうなんだ。」鈴音はドンマイといった表情を浮かべる。

「いざとなったら、俺の名を呼べ」華月は慎司に言う。

「かづき〜。」慎司は涙する。

華月の携帯に電話の着信音が鳴る。

「綾乃さんだ。」華月は電話に出る。

「もしもし。」

「華月様。綾乃でございます。今お電話宜しいでしょうか?」

「あぁ。今は昼休みだ。皆と屋上にいる。」

「マリア様は?」

「学校を休んでいる様だ。」

「そうでございましたか。ではお話いたします。」

「スピーカーに切り替える。」華月は電話のスピーカーに切り替えた。慎司達も耳を澄ます。

「OKだ。」華月は綾乃に言う。

「はい。カリフォルニア州のマリア様のいらっしゃった学校の生徒にお話を伺いました。マリア様には親友がいらっしゃいましたが、3ヶ月前にミイラ事件の被害者となっております。名前はエミリア・ジョーンズ。エミリアさんが消息をたったのは、担任の先生の送別会の日でマリア様も参加されていた様です。」綾乃は続ける。

「送別会が終わり、エミリアさんは一度家に戻って来たそうですが、コンビニに行くと言って、すぐに家を出て行ってそのまま消息をたったようです。次の日の朝、近くの公園の雑木林の中でミイラが発見されており、DNA鑑定の結果、遺体がエミリアさんのものと判明いたしました。私も現場に足を運びましたが、既にFBIが調べ尽くした後で手がかりはございませんでした。ですが、1人のホームレスから気になるお話を伺いまして。お時間大丈夫ですか?」綾乃はここで一息つく。

「大丈夫だ。続けてくれ。」華月は言う。

「エミリアさんの遺体発見現場には花が添えられておりまして、私も花を添えに伺わせていただきました。こちらの夕刻の時間であったと思います。」綾乃は老人との話を思い出す。


綾乃はエミリアの遺体発見現場に花を添えに来ていた。

「これまた別嬪さんが来たのう。」老人は綾乃に話しかける。人の気配がした事は綾乃は気づいていた。綾乃は老人と対峙する。

「この間の娘さんといい、こんなところに来るもんじゃない。」老人は言う。

「この間の娘さん?それは、ミイラになった方の事ですか?」綾乃は老人に聞く。

「違う。お前さんの様に花を添えに来た娘さんがいたんじゃ。親友だと言ってたよ。」老人の親友という言葉に綾乃はマリアの顔が浮かぶ。綾乃はポケットからスマホを取り出し、マリアの写メを画面に出す。

「この方ですか?」そう言って老人に見せる。

「そう。この娘じゃ。この娘と話をしてのう。」老人は思い出す様に言う。

「話...すみませんが、この娘とお話した内容をもう一度私にお聞かせ願えませんか?謝礼はいたしますので。」綾乃は言う。

「お前さん、あの娘の知り合いなんじゃな。写真も持っとるしな。大した話じゃないぞ。」老人はマリアに話した内容をそのまま綾乃に話した。

「先生...。ありがとうございます!」綾乃は深々と老人に頭を下げると、手持ちの現金を老人に渡す。

「受け取れんよ。大した話はしておらん。」老人は綾乃に返す。

「ですが...。」綾乃は困った顔をする。

「あの娘は何か思い詰めた様な顔をしとった。お前さんがあの娘と親しい間柄なら、あの娘の力になってやってくれ。それで十分じゃ。」老人は笑う。

「わかりました。本当にありがとうございます。」綾乃は再度老人に深々と頭を下げるとその場を後にした。


「先生か...。」華月は呟く。

「はい。更に調べましたところ、ケビン・ワーグナーという教師である事が判明いたしました。ケビンは現在は日本にいる様です。」

「こいつを追っているのかマリアは。」華月は言う。

「その様でございます。ケビンについて調べましたところ、アメリカのミイラ事件の起きている州、もしくはその隣の州に必ず赴任している事がわかりました。」

「ビンゴ‼︎」慎司は言う。

「日本にいるって言ったわね、今も教師なのかしら?」沙希は言う。

「元同僚の教師の話では、現在は英会話スクールの講師をしているそうです。場所はS県S市内にある英会話スクールの様です。ですが...。」綾乃は言い淀む。

「どうした?」華月は綾乃に聞く。

「念の為、電話で問い合わせをした所、確かに内定は決まっていた様ですが、本人から辞退の電話があったそうです。」綾乃は言う。

「どういうことなんだろう?」慎司は言う。

「足取りを消したんじゃない?」沙希は言う。

「万が一追手が来ても途切れる様に?」慎司は聞く。

「えぇ。13年もFBIに何もさせない男よ。」沙希は考える。

「確かに。FBIだってバカじゃない。犯人の足取りが掴めないのは、こうして姿を眩ましているからかも。妖しの力で常識の範疇は超えてそうだけどね。」慎司は言う。

「...。ヤツは何故日本に来た?」華月は言う。

「アメリカから逃れる為?」沙希は華月に聞く。

「いや、何か目的がある。」華月は言う。

「ケビンの足取りを線で結びますと、真っ直ぐに西を目指していますね。」綾乃は言う。

「綾乃さん、ありがとう。後はこちらで調べる。」華月は言う。

「華月様申し訳ございません。すぐにでも日本に帰り、華月様のお側に参りたいのですが、現在こちらはハリケーンに見舞われておりまして、飛行機が欠航しております。」綾乃は申し訳なさそうに言う。

「こちらは大丈夫だ。ゆっくり気をつけて帰って来て下さい。」華月は優しく言う。

「華月様ありがとうございます。慎司様、沙希様、鈴音様、華月様とマリア様を宜しくお願い申し上げます。」綾乃の姿が皆目に浮かぶ。

「任しといて!かづちゃんは私が。」沙希は電話に言う。

「マリアの方は私と慎司くんがフェスに行きます!」鈴音は言う。

「ありがとうございます!皆様くれぐれもお気をつけてご無理はなさらない様にお願い申し上げます。華月様、飛行機が動き次第、綾乃は帰りますので。」

「急がなくても良いよ。ではまた。」華月は言う。

「はい。失礼いたします。」綾乃も答える。華月は電話を切る。

「姿を眩ますか...。」華月は言う。

「ねぇ!私と慎司くんが秋葉原で見た、白人男性がケビンなんじゃない?」鈴音は慎司に言う。

「今、全く同じ事を思ってた。あの時マリアはあのカップルを追ってた。俺らもね。だが、ミイラ発見時には、マリアしかいなかったんだ。」慎司は言うと皆頷く。

「私はマリアが中に入った後、人の出入りを見ていたけど、誰も出入りはなかった。あの男性はホテルから出て来なかった。」鈴音は言う。

「妖しの力を使って姿を眩ました可能性があるな。」華月は言う。

「常識で考えちゃダメって事?」鈴音は聞くと

華月は頷く。

「慎司、ヤツが日本に入って来た事で動きが活発になってきた妖しはいるか?」華月は慎司に聞く。

「いや、いないね。」慎司は思い当たる節がなかった。

「ケビンの足取りが掴めない今、マリアの動きだけが頼りだな。」華月は言うと慎司も沙希も頷く。

「一応、他の英会話スクール調べてみる?」沙希は華月に聞く。

「いや、いい。徒労に終わるだけだ。」華月は言う。(いよいよマリアから目が離せんな。)華月は心の中でそう思った。


マリアは学校を休んでケビンの事を調べていた。未だに居場所がわからないからだ。

マリアは日本に来てすぐにケビンが働いているはずの英会話スクールに足を運んでいたが、ケビンという名の講師はいないと言われた。偽名を使っている可能性もあるとみて、送別会の写メを見せたがいないと言う。詳しく話を聞けば、何でも自ら辞退の申し出があったとか。


(どういう事?どこで働いているの?いや、常識で考えてはダメ。人間にミイラを作るなんて出来ないんだから。相手は化け物。でも日本に入国する時に就労ビザが必要なはず。表向きの就職先は必ずあるはず。)そう思って日本でミイラが発見された後に近隣にある英会話スクールを入念に調べたがどこにもいなかった。

(英会話スクールの概念を捨てなきゃダメね。)マリアはそう思うと事件現場やその周辺を入念に調べていった。だが、どれもヒットしない。

(どこにいるの?)マリアは迷宮に迷い込んだ感覚に陥る。


そんなマリアがケビンの居場所に目星をつけられる様になったのは、ミンファとの出会いだった。あの日秋葉原でミンファと様々な会話をし、全く予測していなかった事が起こった。

「実はね、私付き合ってる人がいるんだ。」ミンファは言う。

「そうなんだ。韓国にいるの?」マリアは聞き返す。

「うぅん、最近出来たの。」

「じゃあ、日本人?」マリアは華月を思い出す。

「マリアと同じアメリカ出身の人よ。」ミンファは答える。

「へぇ〜。何してる人なの?」マリアは聞く。

「ホストよ。」ミンファはサラリと言う。

「あなたまだ未成年じゃない。」マリアは心配する様に言う。

「あ〜違う違う!私はホストクラブには行った事ないよ。彼とはSNSの趣味で意気投合しただけだから。職業がホストってだけ。」ミンファは答える。

「そっか。でもホストって大丈夫なの?」マリアは聞く。

「彼、3ヶ月前に日本に来たばかりで、色々入り用だからバイトでやってるらしいよ。」ミンファの言葉にマリアは引っかかる。

「3ヶ月前...その人の写メとかあるの?」マリアはなるべく平然を装いながら聞く。ミンファはスマホの画面を見せる。そこに写っていたのはケビンだ。マリアは黙り込む。

「どうしたの?まさか知り合い?」ミンファは聞く。

「うぅん。知らない人。」マリアは笑ってみせる。

「これからさ、会うのよね〜♪」ミンファはウキウキしている。

(また私の友達が、あぁなるかもしれないの?そんなの絶対にダメ!)

「これから?私まだミンファと別れたくない。」マリアは懇願する様にミンファに訴える。

「ゴメンねー。前々からの約束でさ。」ミンファは謝る。

「でも...。」マリアは言葉が続かない。

「必ずまた会おうよ!ね?」ミンファはマリアに言う。だが、今日それは叶わぬ約束になるかも知れない事をマリアは知っていた。

「...くれぐれも気をつけてね...。」マリアはミンファは私が守らなきゃと決意した。


ケビンとミンファはラブホテルに入る。

(どうするの?考えてる時間なんかない!)マリアは自問自答の末に突入を決意する。左脇に収めてあるグロックに手を伸ばす。

(GO‼︎マリア!)自分自身を奮い立たせ中に突入する。フロントには部屋の写真と部屋番号がパネルになっており、選べない部屋は明かりが消えていた。701、703、601、602、501、503、

402、301、202、203が消えていた。

(これは消えてるところが入ってるのよね。覚え切れないわ。)マリアはスマホで写メを撮ると階段で片っ端から回る気でいた。

(まずは203)マリアは階段を駆け上がり2Fフロアに出るすぐ隣に203の表札が目に入る。

(来たはいいけどどうしたらいいの?もう押しちゃえ。)ピンポンを押してすぐ様次の部屋のピンポンも押すとまた階段のところまでダッシュで戻る。両部屋共男性が出て来たがケビンではない。男の顔をさっと見たマリアは次の階に行く。1番端の301のピンポンを押してまた階段まで戻る。今度はバスタオルを巻いた女。その時だったマリアの耳は銃声を聞きつけた。

(間違いない上の階。)マリアは4階を目指す。スマホの写メを確認するまでもなく、音の聞こえた402の前に立ちはだかる。ドンドンとドアを叩く。マリアはグロックを握りしめた。


(ヤレヤレ、余韻に浸りたかったが、どこのどいつだ。)ケビンの黒い霧は最後の1吸いを口元に運ぶ。

(ちょうどいい。発見者になってもらおう。)ケビンはドアの鍵を開けるとすぐに蝙蝠になり、天井に身を潜める。


(鍵が空いた!)マリアは勢いよくドアを開けて中に入る。


ドアが開いて誰かが中に踏み込んで来たのと入れ違いに、ケビンはその身をドアの外に出す。そのまま廊下の空いていた窓から外に出る。


ベッド上にミイラが横たわっていた。その他には誰もいない。マリアは辺りを警戒しながら、ミイラに近づく。残された衣類から、ミンファである事がわかる。

(ミンファ、助けられなかった。ゴメンなさい。)マリアはグロックを握り締める。が、冷静に銃弾を探す。窓際の壁の下に落ちていた。

(コレは物的証拠になる。)マリアは大切にハンカチに包むと変わり果てたミンファに十字を切り別れを告げると部屋の外に出た。

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