100人目の女と親友

ケビンは13年という歳月をかけ、自分に備わった妖しの力を確かめる様に時にじっくりと計画的に、そして時に喉の渇きを潤す為に衝動的に主に女を襲いながら、西へと向かっていた。

ケビンがグロックで風穴を開けてから吸血するのには訳があった。バンパイアの様に首筋から己の牙で血を吸う事も試した。が、時に香水の香りでせっかくの食材の本来の風味に雑味がある事もあった。そして何より、グロックで開けた穴から吸う血の味は、最初の1吸いがケビンには格別に感じた。まるで外は焼き色のついた、中はジューシーなステーキを食している感覚にも似ていた。カリーナに腹を打たれた記憶も片隅に残っており、女を見る度に思い出す。

これまでに94人もの被害者を喰らいながら、ミイラ化した遺体が発見されたのは、わずかに6体。これは人の目に触れやすい場所、ホテルであったり、被害者の自宅や学校で犯行を起こした結果であった。その他はミイラを山に捨てる、あるいは生きたまま連れ込み事に及んでいた。山が遺棄する場所としてベストだと感じたのは、3人目の遺体を山に遺棄しに来た時。山には様々な動物がおり、野犬は骨をしゃぶりつくし、熊は寝床に持って帰り、時には鳥が啄ばみ、昆虫や微生物は残った皮を喰らいつくす。山で遺体が見つかろうとも既に白骨化しており、遺体の特定が難しく自然界が遺体の処理をしてくれたのだった。


カリフォルニア州の高校に赴任したケビンは同僚の教師からも歓迎された。これまでに数々の問題児を更生させている実績があるからだ。勿論、妖しの力を使いながら。この高校に来てマリアを見たケビンは衝撃を受ける。この世の者とは思えない程、美しく、その笑顔は万人を幸せな気持ちにさせる。正にその名の如く、聖母マリアそのものの様であった。100人目は絶対にこの女だと肌で感じとった。

ケビンは焦る事なく、マリアの高校生活を観察していた。マリアに言い寄る男は数知れずいたがマリアは全て断っていた事も知っていた。

(正に純潔)ケビンは100人目となる日を心待ちにしていた。そんなある日、マリアが日本に転校する話をケビンは耳にした。父親の仕事の関係である事はすぐに調べがついた。

(日出ずる国は俺の目標でもある。現在は94人か...。焦る必要もない。日本でいただくとしよう。)ケビンはそう思うと、まず自らの身辺整理から始めた。アメリカでの教師の実績もあり、就職先に選んだ日本の英会話スクールの講師はすぐに決まる。だが、これは体裁であった。裏ではホストクラブのオンライン面接を受け、内定を貰っていた。何故夜の仕事を選んだのか?暗闇に乗じて事を起こしやすいからだ。着々とマリアの転校に合わせて事を運ぶ。あっという間にアメリカでの最終勤務日となり、送別会が催される。そんな中1人の女子学生がケビンに告白してきた。マリアを見てからというもの、あまり他の女に興味が湧かなかったケビンは、久方ぶりに食欲が出る。

(マリアの親友だな。いずれにせよ、99人までは進めて置かなければな。この女を95人目としよう。)ケビンは心の中でそう思った。BARでの送別会が終わって解散の運びとなった。ケビンはエミリアに声をかける。

「エミリア、君の気持ちは忘れないよ。後で少し話をしないか?今は人目もあるから、君の家の近くの公園に後で行かないか?コンビニで待ってるね。」ケビンはエミリアにそう言う。エミリアは純粋に喜んだ。


一旦家に帰ったエミリアはコンビニに行くと母親に告げて家を出た。コンビニの外にケビンがいた。

「先生!」エミリアはケビンを呼ぶ。

「遅くにゴメンな。ちゃんと話がしたかったからさ。」ケビンは言う。

「向こうの公園の丘から見る星空がお気に入りでね。行こう。」ケビンとエミリアは歩き出す。

「夢みたい。」エミリアは笑顔でケビンの左手を握った。

2人は丘の頂上まで来ると、腰を下ろした。

「ホントだ!知らなかった。」エミリアは星空を見上げ感動した。

「とっておきの場所なんだ。嫌な事とかあるとここに来て星空を眺めているんだ。でも、それも今日で最後だな。」ケビンは星空を眺めながら言う。

「先生は何で日本に行くの?」エミリアは寂しそうに言う。

「日本には僕の命の恩人がいるんだ。その人に呼ばれていてね。その人の力になるのが、僕の恩返しになるんだよ。」そう言ったケビンの表情は真剣なものにエミリアは感じられた。

「私、今は無理だけど、必ず先生に会いに日本に行くね。」エミリアはケビンの想いを汲んだのか、そう言った。

「あぁ。」ケビンは微笑む。だが、胸の内では別の事を思っていた。

(何て素直でいい娘なんだ。この娘はこのまま傍において少しずつ食していくのも一興だな。だが、我慢出来そうにないな。)

「ゴメンな。遅くなっちゃったな。そろそろ帰ろう。」ケビンはエミリアに微笑む。

「うん。」エミリアはそう言うとケビンの左腕に自分の腕を絡ませた。

「大丈夫。近道があるんだ。」ケビンは来た道とは違う道を進む。エミリアはケビンと腕組みをしているその幸せな気持ちで微塵も不審には思わなかった。気づくと雑木林の中を通り明かりもない中でエミリアは初めて不安を覚える。「先生、私怖い。」エミリアはケビンの左腕にしっかりとしがみつく。

「大丈夫さ。どうしても怖いなら...。」ケビンはそう言うと真正面からエミリアを抱きしめる。

「せ、先生⁈」突然の出来事にエミリアは驚く。が安堵共、幸せ共言える感情が込み上げる。ケビンはエミリアにキスをする。エミリアは幸せの絶頂にいた。

「先生...。大好き。」エミリアは一旦重なった唇を離しケビンの顔を見た後に、再び自分から唇を重ねる。吐息が漏れ始め、エミリアの身体をケビンはゆっくりと弄る。

「先生、先生。」エミリアはそんなケビンの行為を全て受け入れた。頭から耳、首筋、肩、背、胸、優しく上から撫でられる。やがて、その手は腹に到達した。

「エミリア、君の気持ちは本当に嬉しかったよ。」エミリアは過去形に疑問を感じる事なく、その身を任せていた。ケビンは超音波を使いながら、エミリアに快楽を与えていた。エミリア自身の気持ちもあり、効果は絶大であった。

「君は本当にいい娘だ。彼女の親友でもある。せめて快楽の中で僕の糧となるがいい。」ケビンはそう言うと、エミリアの首筋に噛みつく。「あっ!アァン!」首筋に穴を開けられても、エミリアには快楽しかない。痛みは微塵も感じない。ケビンはそこからまずは少量の血を味わう。

(‼︎今までにない、最高の味だ!自分に好意を寄せている者のエッセンスはこれ程までに美味となるのか。これは困ったな。この娘は傍において長い月日をかけて喰らうつもりでいたのになぁ。とてもじゃないが我慢出来そうにない。)すでにケビンの食欲はMAXに達していた。銃を取り出すと、エミリアの腹に風穴を開ける。エミリアはそれでも痛みを感じない。黒い霧はエミリアの腹からケビンの口元にその血を運ぶ。

(思った通り、最高の味だ!もうこれ以上の我慢は出来ん!)黒い霧はエミリアの身体を持ち上げた。

「あ、あぁ!」エミリアは恍惚ともいう表情を浮かべながら、その身体は萎んでいく。微かにマリアの香りがするその身体をケビンは堪能した。やがてミイラとなったエミリアをケビンはお姫様抱っこで支えて、地面にそっと寝かせた。

「ありがとう。実に美味だった。」ケビンはエミリアに礼を言うと、その姿を蝙蝠に変え、その場を飛び立っていった。

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