黒い霧

ケビン・ワーグナーはニュージャージー州で初めてhigh schoolの教師として働き出した。夢と希望に満ちた教師生活は1年目で脆くも崩れ去る。初めて担任を受け持つクラスにカリーナ・ワトソンはいた。カリーナは絵に描いた様な優等生で、成績も学校の中で常にトップクラスであった。容姿もモデル級で学校のマドンナ的存在であった。ケビンも少なからず、好意を寄せていた。

ある日の夕方、ケビンはカリーナに校舎の屋上に呼び出される。

「カリーナ、どうしたんだ?」ケビンは俯いたカリーナに問う。

「...先生、わたしどうしたらいいかわからなくて...。」カリーナは下を向いたまま言う。

「何がどうわからないんだ?話してくれないか?」ケビンはカリーナを見る。

「実はヤンキー達に脅されていて...。」カリーナは涙目になる。

「何⁈どこのどいつだ?」ケビンは聞く。

「同じクラスのダミアン達に...。」カリーナは泣きながら崩れ落ちる。その身体をケビンは支える。

「大丈夫か⁈どんな事だ?」ケビンは聞くとカリーナはスマホを見せる。そこにはダミアン達に犯されたカリーナの姿が映し出されていた。

「っ‼︎」ケビンは怒り心頭であった。

「...10000ドル...用意し...てこいって。じゃないと...ヒッ...ばら撒くって...。」カリーナは泣きじゃくる。ケビンはカリーナを抱きしめながら背をさする。

「...警察や学校に相談しても無駄だろうな...。わかった、金は何とかする。後は先生に任せろ。」ケビンはカリーナに告げる。

「もう泣くな。明日のこの時間にまた屋上に来れるか?」ケビンはカリーナに言う。カリーナは無言で頷く。ケビンは優しくカリーナを送り出すとカリーナは帰っていった。

ケビンはその日の内に借金し、1万ドルを用意した。そして次の日...


屋上にはケビンとカリーナがいた。

「大丈夫だ。任せなさい。」震えるカリーナの肩を抱きケビンは力強く声をかける。カリーナは頷く。屋上のドアの開く音がし、ダミアンと取り巻き2人が現れた。

「何だよ、先生?」ダミアンはケビンに話かける。カリーナは怯えている。

「金は用意した。あの写真を消せ。」ケビンはダミアンに言う。

「金が先だな。」ダミアンはタバコに火をつけるとフゥーっと一息吐き出してから、ケビンを見る。

「ふざけるな!今すぐに消せ!」ケビンは激昂する。

「あぁ?立場がわかってねぇなぁ。今すぐネットに流してもいいんだぜ?」ダミアンはケビンを睨む。

「先生、お願い!」カリーナはケビンに泣きつく。

「わかった、必ず消せよ。」ケビンはダミアンの前まで行くと、1万ドルをダミアンに渡した。

「く、ハハっ!ちょろ過ぎんぞ先生!」ダミアンは笑いこける。

「早く消せ‼︎」ケビンはダミアンに言う。ダミアンと取り巻きはゲラゲラと笑い出す。

「何がおかしい?早く消せよ!」ケビンは再度ダミアン達に言う。

「消せったってよ、あれは本人希望で撮ったモンだから、俺らはコピーしか持ってねーモン。コピーで良けりゃ消してやるよ。」ダミアンは言う。

「何⁈どういう事だ?」ケビンはダミアンに聞く。

「全く、ハリウッド行けんじゃねーのか?カリーナはよ。」ダミアンはカリーナに言う。

「何⁈」ケビンはカリーナに振り向く。カリーナはゆっくりとケビンの方に歩き出す。

「ゴメンね、先生。私達、受験のストレスで遊ぶ金が欲しくてさ。」カリーナはケビンの肩をポンっと叩き、そのまま歩いてダミアンの横に並んだ。

「カリーナ、お、おまえ...。」ケビンは驚いている。

「そう言う事だからよ、先生。金は貰ってくな。」ダミアン達は屋上を後にしようとする。

「ま、待て‼︎」ケビンは駆け寄ろうとした時、パンっと銃声がした。腹から血飛沫が飛ぶ。

「っ⁈あ、アァーっ!」ケビンはその場に転げる。カリーナがケビンを撃ち抜いていた。

「しつこいのは嫌いなのよね。アンタもあわよくば、私と寝たいと思ってたんでしょ?いやらしい手つきで人の身体に触ってきてたモンね。」カリーナはケビンに言う。

「バカを言う...な。」ケビンは腹の痛みと、カリーナに裏切られた胸の痛みで意識を失いそうになる。

「鬱陶しいのよね、善人面しちゃってさ。お前らも鬱陶しい!」カリーナはそう言うと、空に向かってパンっ!ともう1発放った。翼を撃ち抜かれた蝙蝠がケビンの前に落ちる。バタバタと踠いている。

「早く病院行きなね。行ければの話だけど。屋上の鍵は閉めておくからさ。明日の新聞の見出しは、新人教師、学校教育に行き詰まり校内で自殺かしらね。」カリーナは笑いながら銃をケビンの足元に放り投げる。カリーナとダミアン達は笑いながら屋上を後にした。

翼を撃ち抜かれた蝙蝠がケビンの前で息絶えようとしていた。その姿が自分に重なる。ケビンは死を感じた。それと同時に怒りに支配される。

「ふ、ふざけやがってぇ〜‼︎」ケビンは未だかつて無いほどの憎悪の念に取り憑かれた。ズクンっ!という黒い衝撃が自らの身体に走り、目の前が暗くなる。

(力が欲しいか?)突如低い声で話しかけられる。

「誰だ⁈」ケビンは辺りを目線だけで見渡す。が、誰もいない。

(貴殿の黒い衝動、実に素晴らしい。海を越えて感じ取れた。我と契約しないか?)低い声はケビンの頭に直接響く。

「契約?アイツらに復讐出来るなら、悪魔に魂だって売り飛ばす!」ケビンは怒りに呑まれていた。

(目の前の蝙蝠を食せ。さすれば妖しの力は貴殿の物となる。)低い声がそう言うとケビンは蝙蝠に手を伸ばした。

「お前の血も、俺の血も一滴たりとも無駄になどしない!」ケビンはそう言うと目の前の蝙蝠を鷲掴みにし、自らの口に入れた。バリっ!と音を立てながら、ケビンは蝙蝠を食す。頭に直接低い声が響く。

(貴殿の気概、しかと見届けた。)

ケビンの意識は遠のこうとしていた。

(妖しの力を授けよう。)

低い声が響くとドス黒い霧がケビンを包み込み、ケビンの身体に入っていく。霧が晴れると、ケビンの腹は治っており、蝙蝠の血も、ケビンの血も一滴も残っていなかった。

「何だよ。これは?力が湧き上がる!」

(貴殿は妖しの力を得た。とは言え、まだ若い。じっくりと力を蓄え、我に会いに来るが良い。我は日出づる国で貴殿に会えるのを楽しみにしている。)低い声は消えた。ケビンはニヤリと笑った。この力があれば奴らに復讐出来る。ケビンはそう思った。ケビンの喉はカラカラに渇いていた。


カリーナはダミアン達と郊外にある廃墟に来ていた。ダミアン達の溜まり場となっており、地下室には、酒、ドラッグもあり、悪童達にとって、楽園となっていた。

「お前さ、マジでハリウッド行けよ。」ソファに腰かけたダミアンは言う。

「女優なんて興味ないのよね。」バーカウンターに座っていたカリーナはグラスを傾けて答える。

「それにしてもちょろかったな。こんなすぐに用意出来るんなら、もう少し泳がせても良かったか?」ダミアンはカリーナに言う。

「いいえ。欲を出せばそこから必ずボロが出るわ。」カリーナはグラスの酒を飲み干した。

「頭の良い奴は違うなぁ。」ダミアンは取り巻きに言うとゲラゲラ笑い出した。

(コイツら共、そろそろ潮時かしらね。)カリーナは席を立つ。

「今日の取り分。」ダミアンは4000ドルをカリーナに渡した。カリーナは何も言わずに受け取るとその場を後にした。カリーナが帰り、宴もたけなわとなり、ダミアン達も帰ろうと狭い地下室の階段を登っていたところで、人影に気づく。階段の最上部にはケビンの姿があった。

「な、お前何でここに⁉︎」ダミアンは驚いた。と同時に銃声がし、ダミアンは階段を転げ落ちる。取り巻き達は落ちてくるダミアンの下敷きになる。ダミアンは頭を撃ち抜かれ絶命していた。

「ヒィっ‼︎」取り巻き達は驚いたが次の瞬間2発の銃声と共に絶命した。ケビンの身体から黒い霧が発生し、ダミアン達に襲いかかる。ダミアン達の血液はケビンの口元に流れ込む。

「‼︎」ケビンは血液を吐き出した。

「食えたモンじゃないな。」喉の渇きは依然として続く。ケビンはその場を後にした。


ダミアン達と別れてから2時間が経過していた。カリーナはmotelで男と待ち合わせをしていた。部屋のチャイムが鳴り、鍵を開けドアを少し開ける。誰もいない。男の悪戯と思い、カリーナはドアを全開にして廊下を見る。だが、誰もいない。首をかしげながら、ドアを閉め鍵をかけ、部屋へと戻る。部屋の中央に置かれたソファに座っている男を見て、カリーナは腰を抜かした。

「な、なんでアンタがここに⁈」カリーナは震え出す。

「ハリウッド女優顔負けのカリーナさん、こんばんわ。」ケビンはソファから立ち上がる。

「何で何ともないのよ!腹を撃たれたはずでしょ!」カリーナは訳がわからなくなる。

「それにどうやって部屋に入ったのよ?」カリーナはわからない事だらけで発狂気味に声を荒げる。

「どうやっても何も、先程君がドアを開けたんじゃないか...。」ケビンはニヤリと笑う。

「えっ⁈どういう事?」カリーナは益々混乱する。

「こういう事だよ。」ケビンは蝙蝠に姿を変え、カリーナの頭上を旋回すると、元いた場所に戻り人型に戻った。

「ば、化け物!」カリーナは後退りしながら、自分のバッグの置いてある、洗面台を目指した。洗面台に置いてあったバッグの中から、銃を取り出し、ケビンに発砲しようとした。が、頭が揺さぶられた様に目が回りその場にへたり込む。

「な、何をしたの?」カリーナは必死にケビンに敵意を向ける。

「超音波ってヤツかなぁ?まだ使い慣れていないから色々とお試し中だ。」ケビンは笑う。

カリーナは目の前の化け物には敵わないと瞬時に悟った。それと同時に何とかこの場をやり過ごさないと殺されると思った。

「せ、先生。私が悪かったです。許して下さい。」カリーナは大粒の涙を流しながら許しを請う。

「それも演技なのだろう?女優のカリーナさん?」ケビンは笑みを浮かべながら答える。

「本当に反省してます!お願いだから殺さないで!」カリーナは懇願する。

「そ、そうだ!先生の女になります!言う事は何でも聞きます!お金も返します!だから殺さないで!」カリーナは演技ではなく、本気で泣き出した。

「...これからはこの力を使えばお前より良い女を抱けるし、金も持ってるヤツから奪えば良い。お前さ、この後に及んで助かるとか夢見てないよな?人の気持ちを弄びやがって。もう、遅いんだよ!」ケビンは超音波をカリーナに浴びせる。カリーナの身体は痙攣しだし、その場で失禁した。

「はははっ!お漏らしとはな。」ケビンは笑いながら、カリーナの側にあったグロックを構え、1発打った。

「ッアー!」

カリーナの腹に風穴が開く。血飛沫が飛び、ケビンの身体から黒い霧が出て、その血飛沫をケビンの口元に運ぶ。

「ん〜!男ども違って、実に美味だ!」ケビンは舌舐めずりした。まだ喉の渇きは満たされない。黒い霧はカリーナの全身を覆い尽くす。

「あ、あぁ...。」カリーナは腹に開いた穴から、血液を吸い出され、見る見る痩せ細っていく。やがて苦悶の表情を浮かべたミイラとなった。

「ご馳走様。」ケビンは満面の笑みでミイラとなったカリーナに告げる。既にカリーナは息絶えていた。

(それが妖しの力だ。)ケビンの頭に直接声が響く。

「実に素晴らしい!あなたには何とお礼を言って良いものか。」ケビンは自然と笑みがこぼれながら答える。

(貴殿はまだ蝙蝠。100体の女を喰らえば、バンパイアに昇華出来るであろう。その時こそ我と行動を共にする時。何年かかっても良い。我はその時を心待ちにしている。だが、妖し狩りの鬼神には気をつけろ。我が同胞よ、待っておるぞ。)低い声は消えた。

「鬼神?...。日出ずる国か...。楽しみだ。」ケビンは蝙蝠に姿を変え、窓の外に姿を消した。


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