soon

華月達の学校は昼休みを迎えていた。

「華月くん、お昼だよ。」鈴音は隣で寝ている華月に声をかける。華月はムクリと身体を起こす。

「今日はどうする?」慎司は華月に学食か、パンにするか聞く。

「今日は外に出よう。少し話もあるしな。」華月は慎司に言う。

「わかった。」慎司と華月は学校の外にある、うどん屋に向かった。

少し遅れて、マリアと沙希は華月達の教室に入ってきた。

「あれ?鈴音1人?かづちゃん達は?」沙希は鈴音に聞く。

「今日は外で食べるみたいよ。」鈴音は横のマリアを見る。

「?」マリアは鈴音に見られてキョトンとした。

「私達は上行こか?」沙希が言うと鈴音もマリアも頷く。


華月と慎司はうどんをあっという間に平らげて一息ついていた。

「話ってマリアの事だよね?」慎司は聞く。

「あぁ。」華月は答える。

「まだ憶測なんだが、マリアは一連のミイラ事件の犯人に心当たりがあるようだ。」華月は切り出す。

「マリアが犯人じゃないと言い切る理由は?」慎司は聞き返す。

「陽炎が反応していないからだ。」華月は答える。綾乃の持つ短刀陽炎は妖気に反応する事を慎司も良く知っていた。

「だよね。犯人を止めようとしているのかな?」慎司は華月に聞く。

「まだわからん。」華月は答える。

「だが、想像以上に危険かも知れん。」華月は続ける。先日の佐奈子とのやり取りを慎司に聞かせた。

「バンパイアは俺も考えてた。辻褄も合うしね。」慎司は納得する。

「だけど、銃を使っているのが気になるね。」

「腑に落ちない所はそこだ。鬼の名を冠する者がそんな回りくどいことはしない。婆ちゃんは、誰かへのメッセージではないかと言っていたがどう思う?」華月は慎司に聞く。

「ないと思う。」慎司はキッパリと言いきる。

「マリアに向けられたものとは考えにくい。アメリカから数えれば最初の遺体が、13年前だからね。マリアはまだ日本にいたでしょ?」慎司の考えが華月達と同じ結論で華月は安堵する。

「その通りだ。マリアはまだ日本にいた。」

「目的が見えないんだよね。」慎司は言う。

「あぁ。」華月も同意する。

「縄張りを意識する妖しであれば、そういった行動なのかも知れないけど。後考えられるのは嗜好、トラウマといったところかな?...。」慎司は言う。

「縄張り...百舌鳥の様にか?」華月は慎司に聞く。慎司は頷く。

「嗜好か...。自己満足か。トラウマ...何かしらにかこつけて腹に拘るというわけか。なるほどな。縄張りであれば他の妖しへの牽制にもなる。」華月は慎司の見解に感心した。

「さすがは統治者。」華月は笑う。

慎司もニヤリと笑った。


沙希達3人は屋上でランチタイム中であった。

「気のせいか、鈴音、今日おかしくない?」沙希の言葉に鈴音はドキっとした。

「いつも通りよ。」鈴音は平静を装う。

「ならいいけどさ。」沙希はパンを頬張る。マリアも黙々と食べている。

「マリア週末にアニフェス行くんだって。」沙希は言う。

「日本に来た楽しみの1つでーす。」マリアは満面の笑みを浮かべる。その表情はいつも通りだ。だが、あの日慎司からホテル内にいたマリアの事を聞かされ、鈴音は良からぬ事を想像してしまう。

「アニメと言えばさ、秋葉原、どうだったの?」鈴音は勇気を出して聞いてみる。

「アキハバラはサイコーです。」マリアはこれまた満面の笑みで答える。その姿に偽りはなさそうだが、少なくとも行動を共にしていた人がその日に死んだのに、笑えるものなの?鈴音はわからなくなる。

「鈴音?」沙希は鈴音に声をかける。

鈴音は大きく息を吸い込むとハァーっと吐き出した。

「沙希、通訳お願いね。」今までの鈴音とは違う様子に、沙希は少し驚いた様に頷いた。

「マリア、あなた私達に隠している事がない?」鈴音はマリアを見据える。沙希は鈴音とマリアを交互に見ながら通訳する。

「ノー。何でそんな事聞くの?」マリアも鈴音と通訳の沙希を交互に見る。

「私と慎司君はあの日秋葉原にいたのよ。偶然にも帽子を身につけたあなたを見つけた。ただならない様子だったから、後をつけさせてもらったの。ゴメンね。」元々尾行していた事は伏せた。いつもの鈴音とは打って変わって別人の様に話す。今までフラットなマリアであったが、ここで初めて動揺を見せた。マリアは視線を床に落とし黙り込む。

「私はあなたを責めているわけじゃないの。真相を知りたいだけ。そして、何か危険な事に首を突っ込んでいるのなら、やめて欲しいだけ。話してみない?」鈴音はマリアを見る。

沙希が通訳した鈴音の言葉を聞いてマリアは顔を上げる。

「thank you鈴音」マリアはいつもの屈託のない笑顔で答えた。

「but soon」そう言ったマリアは真顔に戻り屋上を出て行く。沙希も鈴音もそんなマリアの表情を見て声をかけられなかった。

「最後の何て言ったの?」鈴音は沙希に聞く。

「もうすぐだって。」沙希は答える。

「マリア...。私、余計な事しちゃったかな?」鈴音は沙希に聞く。

「かもね。どうしたのよ、らしくもない。」沙希は聞く。秋葉原の1日を沙希に話した。

「そんな事があったのね...。ネトモと言えど、マリアも心中穏やかじゃないでしょ。あ、マリアは犯人じゃないわよ。」沙希は鈴音が1番モヤっとしていた部分をサラリと言う。

「何で?」鈴音は聞く。

「ミイラが妖しの仕業というのはわかるわね?」沙希の問いかけに鈴音は頷く。

「でも、そんな凶悪な妖しであれば、かづちゃんの家にお泊まりした時に、とっくに綾乃さんに祓われちゃうもの。綾乃さんの持つ短刀は、そういう刀よ。」沙希は言う。鈴音はそれを聞いて考えこむ。

「もうすぐって言ったのよね?逆に追い詰めちゃったのかな?」鈴音はいつもの様子に戻る。

「いいんじゃない?放っておいて。かづちゃんと慎ちゃんが何とかするでしょ!」沙希は笑う。何の脈絡もないが、沙希の言葉には安心感がある。鈴音も頷く。屋上のドアが開く。華月と慎司が入ってきた。

「マリアは?」慎司はマリアの姿が見えない事に2人に聞いた。

「ゴメンなさい。私が余計なこと言っちゃって。」鈴音は謝る。先程のやり取りを華月と慎司に話した。

「黒澤の話がどうこうと言う訳ではない。」華月なりの慰めであった。鈴音も頷く。慎司は華月とのやり取りを2人に聞かせる。

「...全然違うのかも知れないけど、トラウマって何かわかる気がする...。いつになっても消えはしないもの。」鈴音は言う。

「縄張りの線も考えてみたけど、やはりなさそうだね。縄張りであればアメリカを出る必要がない。コイツは何か目的があって日本に来た。」慎司は言う。

「そうだな。」華月も言う。

「そう言えば、綾乃さんの方は何か情報ないの?」沙希は華月に聞く。

「マリアの交友関係を調べているが、犯人に結びつきそうな人物はいない様だ。もしくはすでにミイラとなったか。」華月は答える。

「綾乃さんは今はアメリカに渡っている。週末には戻る予定だ。」華月は言う。

「いつの間に...。」慎司と沙希は顔を見合わせる。

「何かわかれば、すぐに連絡が来る。」華月は言う。

「週末にマリア、アニフェスに行くみたいなんだけど、どうするの?」鈴音は3人に聞く。

「...もうすぐって言葉が気になるわね。」沙希は言う。

「マリアの近くで何か起きるのは間違いなさそうだけど、どうする?華月。」慎司は華月を見る。

「...」華月は考えこむ。3人も考える。暫くの沈黙を破ったのは鈴音であった。

「ねぇ?華月くんの俺の名を呼べって、あれって離れていても、すぐに現れる事が出来るの?」鈴音は聞く。

「あれは言霊の一種だ。正確には、異界の門を通じてそれを行っている。」華月は言う。

「鬼の力を使って、門の召喚を省略しているんだよね?華月。」慎司が付け加える。華月は頷く。

「出来るって事よね。だったら、私と慎司くんはフェスに行ってみない?沙希と華月くんは残って綾乃さんからの情報を待つ。」鈴音の提案に皆、鈴音を見る。

「慎司。」華月は慎司を見る。

「それで行こうか。」慎司が言うと皆頷く。

「頼む。」華月は慎司と鈴音に言う。




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