消えた弾丸

マリアがホテルで慎司達に目撃されてから、丸1日が経過していた。ニュースでは、都内のラブホテルでミイラが発見された事が取り立たされている。

「寺田さん、やはりこの女性が事件に何らかの関与がありそうですね。」竹内は寺田に言う。

「...。」寺田は黙って防犯カメラの映像を見ていた。が、思い出した様に口を開く。

「そう言えば、FBIの件はどうなった?」

「すみません。進捗なしです。」竹内は申し訳なさそうに言う。

「だろうな。謎が多すぎる。彼らも不確かな情報は流さんだろうしな。」寺田はその事を予測していた。

「今回も同じ手口なんですかね?」竹内は言う。

「だろうな。だが、1つ違う事がある。わかるか?」寺田は竹内に問う。

「わかりません。」竹内は素直に言う。

「全く。少しは考えろ。」寺田はあきれた顔で言う。

「すみません。勉強します。」竹内は言う。

「弾丸が見つかってないんだよ。」寺田は言う。

「あ...。」竹内は思い出した様に声を出す。

「今までは遺体の近くに必ず弾丸が落ちていたんだ。それが今回に限ってない。ホテルの換気窓は上部が20cm程空いていた様だが、そこから外に飛んだとは、角度的にも考えにくい。だとすれば、犯人がそこから捨てたか?ホテル周辺を探させたが、見つからなかった。考えられるのは、犯人が持ち去ったか、犯人以外の誰かが持ち去った。」寺田はそう言うと防犯カメラのマリアに目をやる。

「この女が...。でも何の目的で?」竹内は寺田に聞く。

「...ハッキリとはわからん。だが弾丸が必要になった。とすれば考えられるのは、線条痕。それ以外は考えられん。」寺田は答える。

「捜査関係者ですかね?アメリカの?」竹内は言う。

「わからん。だが、我々よりも犯人の目星がしっかりとついていて、証拠品として持ち去った可能性が高い。」寺田は考える。

「マークしますか?」竹内は言う。

「...いや、いい。マークしようにも出来んだろう。これだけ防犯カメラに映っているにも関わらず、未だ正体が掴めんのだからな。」寺田は言う。

「そうですね。」竹内は言う。

「ガイシャの交友関係、目撃情報を徹底的に洗い出せ。」寺田は指示を飛ばす。

「わかりました。」竹内は頷いた。寺田は換気窓を眺める。

(20cmか...。蝙蝠であれば通れそうな隙間だな。)寺田は物語に出てくる、バンパイアをイメージしていた。


マリアはミンファが殺害されたホテルから、落ちていた弾丸を持ち帰っていた。ケビンを問い詰めるのに必要だからだ。寺田の予想通り、線条痕でケビンを問い詰める為だ。マリアの部屋をノックする音が聞こえる。ノックの主はマリアの父、ジョルジュ・ブラウン。

「パパ!おかえり!」マリアは父に抱きつく。「マリア!いい子にしてたか?」ジョルジュは満面の笑みでマリアに聞く。

「パパ、わたしもう16よ。いい子はないんじゃない?」マリアは拗ねた様に言う。

「ゴメンゴメン。学校はどうだ?華月は元気か?」ジョルジュはマリアに聞く。

「華月は変わらないわ!イケメンよ!」マリアは言う。

「そうか。懐かしいなぁ。」ジョルジュは傷ついた華月を抱き抱えた事を昨日の事の様に覚えている。まるで息子の様に思っていた。机の上に置かれた弾丸が目に入った。

「マリア?それは?」ジョルジュは不安になって聞く。

「あ、あぁ!華月にネックレスにしてプレゼントしようと思って。そうだ!パパ!弾丸の作り方教えて!」マリアはジョルジュに言う。

「そうだったのか。よし、教えてやろう!だが、まずは腹ごしらえだ。沖縄のソーキそば買ってきたから、2人で食べよう!」ジョルジュは陽気に言う。

「うん!」マリアも満面の笑みで答える。

(パパ、ゴメンなさい。マリアは悪い子だよ。でもどうしてもエミリアの仇を討ちたいの!許してね。)マリアは心の中でジョルジュに詫びた。食事が終わり、ジョルジュの部屋で弾丸精製を教わる。鉛の弾を作り終えたマリアはジョルジュに聞く。

「ねぇ、パパ?これって銀でも出来る?」マリアは聞く。

「あぁ。銀の融解温度は900ちょっと。ガスバーナーで溶かしてから、この型に流し込めば出来る。冷やした後に、磨くのを忘れるな。」ジョルジュは陽気に言う。

「どうせなら、銀にしようと思って!ありがとうね、パパ!」マリアはジョルジュのほっぺにキスする。

「火傷に気をつけてやれよ!」ジョルジュは疑う事なく、笑顔で言う。

自室に戻ったマリアはエミリアから貰ったロザリオを両手で持つ。

(エミリア、もうすぐだからね。)マリアはロザリオに祈った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る