エミリア

マリアが日本に引越す3ヶ月前、エミリア・ジョーンズの葬儀は行われた。マリアも参列し、亡き親友の墓に花を手向ける。

「エミリア...。何でこんな事に...。」マリアははエミリアが普段身に着けていた、銀のロザリオを右手で握りしめていた。そのロザリオはマリアが日本に引越す事になり、親友から友情の証として餞別に貰った物であった。


エミリアはマリアがアメリカに帰ってから、出来た初めての友達で、家も2件先に住んでいた。

華月を日本の幼馴染とするのなら、アメリカの幼馴染はエミリア。スクールもずっと一緒で家も近い事から、家族ぐるみの付き合いもあった。マリア一家がまた日本に行く事になり、エミリアの家でお別れのホームパーティーを催していた。

「本当に寂しいわ...。」エミリアはマリアに言う。

「わたしも寂しい...。けど、私の王子様に会いにいかなきゃ。」マリアは笑う。

「親友を置いて華月を選ぶのね。」エミリアは冗談交じりに言う。

「どんなイケメンに言い寄られても、マリアは絶対靡かなかったものね。」エミリアはマリアをここまで一途にさせる華月という日本人に興味が湧いていた。幼い頃の助けて貰った話も何百回と聞かされていた。

「華月は私のhusbandになる人。エミリアがもし男だったら、華月か、エミリアかわからなかったよ。」マリアは本心でそう言った。

「気休めでも嬉しいわ。」エミリアはマリアをハグする。

「とか言いながら、エミリアも恋愛してるじゃない?」マリアはエミリアに言う。

「ケビン先生はカッコいい!でも、私の恋愛は終わり。学校を辞めて、日本の英会話スクールの講師になるんだって...。私も日本に行こうかな?」エミリアは言う。

「そうなの?」マリアは初耳だった。

「そうよ。学校でも言っていたじゃない?ホント興味のない事は聞いてないわよね、マリアは。」エミリアは笑う。

「最後に告白するの?」マリアはエミリアに聞く。

「そうね。それもアリかもね。思い出としてね。」エミリアは笑う。

エミリアは首から下げていた、銀のロザリオを外して、マリアに渡した。

「エミリア?」マリアはエミリアを見る。

「お守り。あんたに上げるわ。言っておくけど、そのロザリオは今まで何度も私を守ってくれた。ケビン先生ではなく、マリアに持っていて欲しい。」エミリアは笑ってマリアをハグする。

「ありがとう!大切にするね。」マリアはエミリアを抱きしめる。

「私もその内、日本に行こうかな。」エミリアは言う。

「待ってるわね。」マリアは笑う。

「いいの?華月をとっちゃうかもよ?」エミリアはイタズラっぽく笑う。

「それはダメ‼︎」マリアは全力でバツをする。

「ハハっ。冗談よ。」


エミリアの葬儀でマリアはそんな事を思い出していた。数日前まで元気にしていた友が、ミイラになるはずがない。親友の無惨な最期を未だに受け入れる事ができなかった。絶対に真相を突き止める。そんな決意がマリアにはあった。

日本に引越すまで、マリアはエミリアの変死について、有りとあらゆる情報を調べた。アメリカで起きていたミイラ事件は他にもあり、エミリアで7人目だという事がわかった。そして、どの遺体も同じく、腹には銃痕が残され、血液だけが抜かれた状態、つまりミイラ化して発見されており、さらにどの人物も遺体発見直前まで、普通の生活を営んでいた事がわかった。腹に空いた穴は寄生虫や、病気の線も考えてみたが、FBIの捜査結果によると、確かな銃痕で、遺体の側には銃弾も落ちていたと報道されていた。

マリアはエミリアの亡くなった日の足取りを入念に調べた。その日はケビン先生の送別パーティーがBARで行われ、21時までは大勢でいた事はマリアもその場にいたのでわかっていた。その後、マリアとエミリアは一緒に帰り、家の前で別れた。エミリアの両親の話では、一旦家に帰ってきたものの、コンビニに行くと行ってすぐに家を出て行った後、行方がわからなくなったのだと。失踪届を警察に出したが、目撃情報もなく、見つからず。マリアと別れた次の日の朝、犬とジョギング中の男が近くの公園の雑木林の中でミイラ化した遺体を発見。DNA鑑定の結果、エミリアである事がわかったのは、失踪してから7日後の事であった。エミリアの携帯には、怪しいと思われる交友関係はなく、事件の真相は闇に包まれるかと思われた。

マリアはエミリアの遺体が発見された公園に花を手向に来ていた。

「こんな所に若いお嬢さんが1人で来たらいかん。」突如背後から声をかけられ、マリアは振り向く。1人のホームレスが立っていた。

「物騒な世の中だ。昼間といえど、この間の様な事が起こるかも知れん。」老人はマリアに言う。マリアは懐のグロックに手を伸ばそうとした。

「お前さん、この間の娘さんの知り合いか?」老人は言う。マリアは答えず、老人と距離を取る。マリアの脳裏に疑問が浮かぶ。ちょっと待って、ミイラ化された遺体からは年齢まではわからないはず。このお爺さんは何で娘だと知っているの?

「そう。親友よ。あなたは何故遺体が娘だとわかったの?」マリアは率直に疑問をぶつける。 

「やはり、そうだったか...。可愛らしい娘さんじゃった。あんな事になるとは可哀想にの...。」老人は言う。

「あなたは見たの?」マリアは老人に問う。

「わしが見たのは、娘さんと男が話をしている所じゃ。」

「男?」マリアは言う。

「あぁ、先生とか呼ばれておったかの。」老人の言葉にマリアは衝撃を受ける。

「ゴメンなさい。詳しく聞かせてくれない?」

「わしが見たのは話をする若い男女の姿だけ。それ以上そこにおっては野暮と思っての。わしは退散したんじゃ。」老人は言う。

「そう...。」マリアは肩を落とす。

「...じゃが、その後銃声が聞こえての。気になってすぐに見に行ったんじゃ。不思議とそこには誰もおらんかったが...。空耳だったのかと思うとったが、次の日そこからミイラが見つかるとはの...。何が何だかさっぱりわからんが、あのお嬢さんがミイラになるとは...。気の毒にの。」老人は言う。

「何でミイラが娘だとわかったの?」マリアは聞く。

「わかったのは新聞を読んだからだ。ミイラのDNAとお嬢さんのDNAが一致したんじゃろ?」老人は言う。

「そうよ。それであなたはこの事を誰かに話した?」マリアは聞く。

「ホームレスの老人の言う事など、誰も耳を貸さんよ。ボケてると思われるのがオチじゃ。」

「わたしは信じる。ありがとう、お爺さん。」マリアは老人に頭を下げてその場を後にした。

「報われると良いの。」老人はマリアに言う。


老人の話を聞いてから、マリアはケビンの過去を調べ出した。すると驚く事に遺体の発見された州、もしくはその近辺での転勤が相次いでいた。時期も遺体が見つかった時期にリンクしている。犯人はケビンだ。マリアは確信する。だが、物証がない。どうやってミイラになるの?さっぱりわからない。でも、落ちていた弾丸とグロックの線条痕が一致すれば、それは物証になる。弾丸を手に入れなければとマリアは思った。警察に話をした所で、常軌を逸している遺体の状況から立証は難しいと思われた。ならばわたしがエミリアの仇を討つんだと心に言い聞かせた。

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