ミイラ
S県内のホテル内でミイラ化した変死体が見つかった。警視庁警捜査一課の竹内は相棒の寺田に言う。
「寺田さん、また検死に回さないとわからないことだらけです。」
「あぁ。現代にミイラとはな...。それに、腹に空いた銃痕と思わしき傷からは血液の付着もないときている。まったくコレで3人目だぞ。身元はわかったか?」寺田は竹内に聞く。
「はい、保険証と免許証が見つかりました。都内にあるT株式会社の社員の様です。」竹内は答える。
「すぐに会社とご家族に連絡して足取りを追ってくれ。」寺田は言う。
「わかりました。」コレまでの2人との関連性は未だ掴めていなかった。だが、変死体の腹には必ず銃痕が残され、血液だけが抜かれた状態、つまりミイラ化という共通点と被害者は全員女性という点以外には謎に包まれたままであった。寺田はじっくりと遺体の隅々まで目視出来る所は調べる。
「寺田さん、ガイシャの足取り掴めました、ご家族からは昨日朝7時に家を出てから帰ってきていないと。会社は17時半に終わり定時で帰ったとの事です。」竹内は報告する。
「昨日の17時半まで生きていた人間がどうしてミイラになる?検死したところで、結果は前と変わらんのだろうなぁ。」寺田は独り言とも思えるように呟いた。
「はい...。ですが、こんな事どうやって?現代医学でも血液だけを抜き取るなど考えられないと、前に鑑識も法医解剖医も言ってました。」竹内は言う。
「竹内、以前の大宝製薬の事件を覚えているか?」寺田は言う。
「はい。」竹内は頷く。
「あの時も獣が切り刻まれたりしてわからん事だらけだった。大宝製薬の研究も不老不死や予知能力の研究といった、常識では考えられないものばかりだったよな?」寺田は竹内に言う。
「はい。今回も大宝製薬が関与しているんでしょうか?」竹内は寺田に聞く。
「わからんが大宝製薬は頭を失って、今は右往左往している。失った信用を取り戻すのに必死だ。裏で何してるかわからんがな。俺が言いたいのはそういう事じゃない。」寺田は竹内に言う。
「では何を?」竹内にはわからない。
「獣といい、ミイラといい、もしも常識の範疇を超える超生物がいたとしたら?化け物の世界となるが、そういった事も、もし研究がなされていたら?大宝製薬もそういう力に目をつけて、研究していたのだとしたら?」寺田は竹内に言う。
「化け物がすでに存在しているってコトですか?」竹内は驚く。
「...だが、そう考えると全ての辻褄が合う。それに遺体はこうして増えている。そして犯行場所も様々だ。遺体の状態、銃痕から同一犯の犯行である事は間違いなさそうだが...。」遺体に残された銃痕からグロックG19という銃から発射されたものである事はわかっていた。銃社会において、最もポピュラーなこの銃は全世界に出回っている。
「まったく、吸血鬼でもいるのか...。」寺田は呟く。
「それと事件と関係があるのか未だわからないんですが、先の2件の事件後日に現場周辺を彷徨く金髪の若い外国人女性の目撃情報が数件出ています。」
「同一人物なのか?」寺田は聞く。
「容姿、特徴は一致していますね。」竹内は言う。
「近隣の防犯カメラの映像は?」
「帽子を目深に被っており顔は隠れている様です。」
「事件に何らかの関係はありそうだな。女性ばかりを狙う殺人鬼か...。」寺田は考えこむ。
「それと、アメリカでも同じ様な遺体が発見された事件が7件ある様です。」竹内は言う。
「時期は?」
「マチマチです。最初の遺体が発見されたのは今から13年前だそうです。」
「...まだ、ありそうだな。」寺田は言う。続けて、
「目撃情報のあった女はいくつくらいだ?」
「10代半ばから20代前半ではないかとの情報です。」
「...アメリカの事件の場所は?」
「7つの州で一体ずつ遺体は発見されてます。ニュージャージー州に始まり、バージニア州、ケンタッキー州、ミズーリ州、オクラホマ州、アリゾナ州、カリフォルニア州の7つです。」竹内は言う。
「始まりはニュージャージー州...。東から西に向かって来ているのか?最後はカリフォルニア州で発見されたのはいつだ?」寺田は聞く。
「3ヶ月前です。」竹内は答える。
「...」寺田は黙り込んだ。
「寺田さん?」竹内は話掛ける。
「同一犯と仮定して、それだけの距離を移動し、尚且つ13年生活を続けられるのは、少なくともある程度経済力のある人物でないとムリだよな?」寺田は竹内に聞く。
「そう、ですね。」竹内は答える。
「移動手段は何にしろ、金の稼げる年代の人物。そして13年前からそれが出来る年代の人物。そう考えるなら、目撃情報のある女は犯人では無さそうだ。13年前は子供だろうしな。何か関係はありそうだが。」寺田はまた考えこむ。寺田のこういった瞬時の洞察力は竹内には出来ず、そして寺田の洞察は竹内がバディを組んでから外れた事はない。竹内はそんな寺田を尊敬していた。寺田の様子を黙って見ている。やがて、寺田が口を開く
「3ヶ月前からアメリカから日本に入国している人物を徹底的に洗い出せ。これは人種問わずだ。日本人の帰国もだ。」寺田は言う。
「わかりました。」竹内は頷く。
「それから、FBIの話を聞いてみたいな。誰か向こうに知り合いのいるヤツはいるか?」寺田は竹内に言う。
「それは私もわかりませんが、あたってみます。」
「頼む。」寺田は変死体の傷口をじっと見ながら答えた。本当に殺人なのか?寺田の脳裏にはそんな想いも余儀っていた。何らかのウイルスによる病気ではないのか?本当に殺人だとして、同一犯なのか?しかし、腹に空いた銃痕は確かにグロックの物で、近くに必ず銃弾も落ちている。証拠品をわざわざ残すのは、自己顕示欲?挑戦?共取れる。複数犯と考えられないのは、遺体の状態だ。コレ程までに精巧なミイラを作り上げる技術を複数の人間が行うと必ず遺体に相違が出る。だが、どの遺体も血痕すら残らないのはどういう原理だ?銃で撃てばそれだけで周りに血痕は飛ぶはずだ。周りにビニールでも敷いてから?やはり常識では考えられぬ、人外が存在しているのか?
...考えれば考える程わからなくなる。本当にバンパイアがいるのかも知れん。常識で考えるな。自分自身に言い聞かす。
寺田と竹内は現場を後にした。
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