「北條、まだ見つからんのか?」少し苛立った男の声に、北條(ほうじょう)と呼ばれる男は答える。

「ご安心下さい。かの娘も先生の資金も、必ず見つけます。」北條は深々と頭を下げる。

「金はいい。肝心なのは娘の方だ。」

「心得ております。」北條は頭を垂れたまま、微動だにせずに答えた。

「あれの母親が死んだ時はどうなる事かと思っていたが…」先生と呼ばれる男はタバコに火をつける。大きく息を吸い込むと、フーっと白煙を吐き出す。

「例の研究には必ずアイツが必要だ。必ず探し出して連れてこい。」北條は

「承知しました。」と男に告げると部屋を出た。すぐ様上着のポケットからケータイを取り出す。

「わたしだ。娘の件はどうなっている?」

「すみませんまだ居所の特定が出来ておりません。」電話の相手は答える。

「先生がお待ちかねだ。急げ!」そういって電話を切る。おもむろに眼鏡をかけ直すと長い廊下を歩き出す。エレベーターで地下駐車場まで降りる。ドアが開き、駐車場の入口に、黒服の男が立っている。黒服の男は頭を下げる。そのまま何も言わず北條の横につき、車の停めてあるところまで誘導する。2人は車に乗り込む。北條が口を開く。

「目立つ行動は控えろ。いつも言っているだろう。」

「申し訳ありません。ですが、社長にもしもの事が起きてはならないと思い、」男の声を北條は片手で遮る。

「自分の身は自分で守る。それよりどうだ?父親の行方はわかったか?」北條は男に聞く。

「N県から県外に出て以降の消息が掴めておりません。」男は北條に言う。

「親族は?」

「O県に兄がいるのみで、他はいない様です。こちらはO県まで確認に行かせましたが、身は寄せていない様です。」男の報告に北條は考える様にアゴに手をやる。

「娘を最後に見たのはいつだ?」

「2ヶ月前にN県の高校の下校時間にはもう姿がなかったそうです。」

「学校で消息を絶ったのか?」

「そうです。クラスメイトに確認したところ、2時限目には早退したそうです。その後、家には帰っていません。」男は続けて言う。

「その後、学校も市役所も問い合わせてみましたが、個人情報保護の観点から答える事は出来ないと。勿論、データベースも調べてみましたが、行き先が分からず。」男は言い淀む。

「SNSで拡散させろ。尻尾が出ないのはおかしい。」北條は男に指示を飛ばす。

「わかりました。」たかが娘1人、父親1人を探すのなんて、楽な仕事と思っていたが、どうやら一筋縄ではいかなそうだな。と北條は拳を握りしめた。

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