屋上

昼休みに入るチャイムが鳴り響く。慎司は華月の眠っている席に行き、

「華月、ご飯行こう。」と声をかける。華月はかったるそうに身体を起こし、伸びをした。華月がふと隣の鈴音に声をかける。

「黒澤はどうする?」鈴音は静かに

「私お弁当持ってきたから。」と答えた。先の鈴音の一言から、周りに取巻きが出来なくなり、鈴音は孤立していた。華月が口を開く。

「慎司、今日はパン販にして、コイツを。」華月は指先で上を指す。慎司は笑顔で頷く。

「なぁ黒澤、先生に頼まれた校内案内がてら、今日は俺らと別の場所で食べないか?悪い様にはしない。」鈴音は黙って頷いた。本来なら断られるかなと思っていた慎司にとって、鈴音の反応は意外であった。

「良し行こう。俺ら、パン買いに行くから、少しだけ俺らに付き合ってくれ。」鈴音は弁当を持ち黙って頷く。鈴音はこう思っていた。

(この青年に言われる事は他の人達と違い、何故だか心地良い。かと言って必要以上に接触もして来ない。皆もこうならいいのにな。)華月と慎司は話しながら、前を歩いている。その後ろに鈴音がついて歩く。この2人、上背もあるからか、鈴音はそれに隠れる形になる様に歩ける為、他人の視線を感じない。通り道にある所は都度口頭で軽く説明しながら、別棟にあるパン売り場に来た。パン売り場の奥には食堂があり、学食販売もしている。華月と慎司は大体このどちらかで食事を済ませていた。華月と慎司はそれぞれにパンと飲み物を購入し、

「行くか。」と上を指差した。また校舎のある本棟に戻り、階段を登り始める。

「悪かったな。付き合わせて。」華月が鈴音に話かける。鈴音は首を横に振る。その様子を見て慎司と華月は微笑んだ。

「これから行く所は皆には内緒ね。」慎司が唇に指をあてながら言う。鈴音はコクリと頷く。階段を最上階まで上がったが階段はまだ続いている。慎司と華月はまだ上がる。鈴音もそれに続く。

「屋上?」鈴音は呟くと、華月と慎司はニヤリと顔を見合わせた。慎司が制服の内ポケットから取り出した鍵でかかっていた鍵を開ける。重い鉄の扉を静かに開け、鈴音に手でどうぞとジェスチャーする。鈴音は言われるがままに、屋上へ。突如、解放感が鈴音を襲い、鈴音は肩の荷が降りた様に楽な気持ちになった。暫くその景色を眺めていた。慎司は静かに扉を閉めて、鍵をかける。華月はどこから持ってきたのか、レジャーシートを広げている。

「ここは俺らだけの秘密の場所」華月は鈴音に話しかけた。 

「飯食おう。」3人はレジャーシートに腰かけると食事を始める。特に会話もないが、それは敢えて2人がそうしているのか、いつもこうであるのか鈴音にはわからなかったが、そこには心地よい空気が流れており、鈴音にとって、これ以上ない居心地の良さであった。パンを食べ終えた華月は、

「後よろしく。」と慎司に言い残し、1人で屋上の入口脇にあるハシゴを登り始め更に上段部分に登った。呆気に取られていた鈴音に慎司は

「あそこは華月の昼寝の場所なんだ。」と説明した。鈴音は自分から関わりを持とうとしないが、不意に言葉が出た。

「なんで鍵を...」

慎司は笑って見せた。

「あぁ、コレ?前に美術の授業で来る事があって、その時に俺も華月もココが気に入ってしまってね。鍵は無くした体にして、近くのショッピングモールで合鍵を作ったんだよ。後日ちゃんとマスターキーは職員室に返したけどね。」慎司は笑ってみせた。

「いいなぁ。」鈴音は本音が出た。

「合鍵作る?」慎司の予想だにしなかった申し出に鈴音はビックリした。

「いいの?」

「いいも悪いも、ここは学校なんだし、俺らは使ってるけど、皆のものでしょ?」慎司は悪びれる様子もない。

「でも秘密なんでしょ?」

「あぁ、今は華月と俺、ともう1人がココの鍵は持ってる。」鈴音は慎司に聞いてみた。

「どうして私を...」慎司は笑みを浮かべたまま、答える。

「人と関わり合いになるのが苦手なんだろう?俺も、華月も実はそうさ。」華月はまだわかる気がする。慎司は嘘だと鈴音は思った。

「嘘だと思ったでしょ?顔に書いてあるよ。」慎司が言うと鈴音は

「ゴメンなさい。」と正直に謝った。

「あぁ、ゴメン。責めるつもりはないんだ。皆に見せてるのは表の顔さ。心を許せるのは華月ともう1人だけさ。」そういった慎司の顔が少し寂しそうに見えたのは鈴音にもわかっていた。慎司は続ける。

「ここに俺たちが出入りしている事を秘密にしてくれたら、それでいい。」鈴音はコクリとうなづいた。その時、屋上の鍵がガチャリと開く音がした。沙希が屋上に来た。2人を見て

「ふーん。」と興味有り気にも見えるし、なさげにも見える態度を取った。

「かづちゃんは?上?」と慎司に聞く。

「昨日あまり寝てないらしいよ。」慎司は答える。

「そっか、じゃあ寝かせといてあげよう♪そっちの可愛い子はしんちゃんの彼女?」悪戯な笑みを浮かべる。

「はいはい。転校生だよ。黒澤さん。」慎司はぶっきらぼうに答えた。

「あー、あなたが噂の転校生。可愛いけど、変わってるとか。」沙希の目線は鈴音に向けられる。

「黒澤鈴音です。」鈴音はペコリと頭を下げる。

「関わると不幸な死に方をするとか。言ってるらしいね。それってさ、必要以上に関わるなって事でしょ?」沙希は鈴音に問いかける。

「はい...そうです。」鈴音は俯く。

「オッケー♪人それぞれ事情ってモンがあるでしょ。で、ここの鍵作って渡すのね?」慎司に目線を向ける。慎司は

「そうしようと思ってるけどどう思う?」と沙希に聞き返す。

「いいんじゃない?いざとなれば、ねっ?」慎司に返す。

「黒澤さん、という訳でここの合鍵を作るよ。出来上がったらでいいから、鍵代貰って良いかな?」鈴音はコクリとうなづく。

「ここの事、俺たちの事秘密にしてくれたらそれでいいから。後、ここに来る時は誰にも見られない事。」鈴音はコクリとうなづく。

「私たちは必要以上に干渉する事はないから、安心して。」沙希はそう言って鈴音に声をかける。鈴音は今まで出会った人達と明らかに違う、この3人に戸惑いを隠せないでいた。と同時に自分の意図をこれほどまでに理解してくれる3人に興味が湧いたが、それはダメ。と心の中で自分に言い聞かせた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る