15.魅力ある登場人物を描く(その4)
『貝殻ビキニのハーナス』の『がに股カニ歩き』を見て良太は言葉を失ってしまった。
ビキニの女性が『がに股』になって『カニ』のように横向きに歩いている。『全裸戦隊フィンガーレディース』に入ったら、こんな恥ずかしい格好までしないといけないのか! 僕はやはり絶対に『全裸戦隊フィンガーレディース』の女戦士なんかにならないぞ。
そういう良太の思いが『貝殻ビキニのハーナス』に伝わったようだ。『貝殻ビキニのハーナス』が『がに股カニ歩き』を止めた。鋭い眼で良太を睨んだ。
「おのれ、良太。私の『がに股カニ歩き』を見て笑ったな! 成敗してくれるわ。思い知れ!」
そう言うと、『貝殻ビキニのハーナス』は右のおっぱいにつけている貝殻を外した。そして、それを良太に投げつけたのだ。次にすばやく左のおっぱいの貝殻も外して投げつけた。そして、最後に股間の貝殻も外して良太に投げつけたのだ。『貝殻ビキニのハーナス』は素っ裸になった。
『貝殻ビキニのハーナス』の投げた3枚の貝殻は・・空中で大きく円を描くと、3枚が水平の隊列になって猛烈な勢いで良太に向かってきた。良太は床に落ちていた木切れを拾って、貝殻に投げつけた。木切れは先頭の貝殻に当たって、真っ二つに砕け散ってしまった。
良太の視界に・・3枚の貝殻がみるみる大きくなってくる。良太は思わず体育館の床にうつ伏せに突っ伏した。良太の背中の少し上を3枚の貝殻が猛烈な勢いで飛んで行った。背中でゴーと音が鳴った。良太の背中が引っ張られて・・良太の身体が体育館の床から少し浮き上がった。良太の後ろの髪の毛が何本か切れて宙に舞った。
恐ろしい貝殻攻撃だ。あんな貝殻が身体に当たったら、身体が真っ二つになってしまう。良太の額に脂汗が浮かんだ。
3枚の貝殻は良太の背中をかすめた後、大きく中空で反転して、再び良太に向かってきた。
あぶない。やられる!
良太の頭を恐怖が支配した。良太は周りを見た。良太の周りは『お下品ふんどしのノッコ』のふんどしが取り囲んでいる。良太には逃げ場がなかった。眼の端に『お下品ふんどしのノッコ』が全裸で突っ立って笑っているのが見えた。
くそ~。『お下品ふんどしのノッコ』め。僕が『貝殻ビキニのハーナス』にやられるのを楽しんでるな!
そのとき、良太の頭にある考えが浮かんだ。
そうだ。あそこなら安全だ。
良太はふんどしの壁をすり抜けると、『お下品ふんどしのノッコ』に向かって走った。『お下品ふんどしのノッコ』が唖然として良太を見つめている。何をするの?といった顔でポカンと口を開けたままだ。
良太はそんな『お下品ふんどしのノッコ』の背中にまわり込んだ。『お下品ふんどしのノッコ』のふっくらした尻に両手を当てて、後ろにしゃがみ込んだ。
3枚の貝殻は良太を追って向きを変えた。そして、『お下品ふんどしのノッコ』の身体の正面に向かって、ぐんぐんと加速していく。
『お下品ふんどしのノッコ』が眼を見開いた。
「キャー」
3枚の貝殻が『お下品ふんどしのノッコ』の全裸の身体をかすめた。あまりの風圧に『お下品ふんどしのノッコ』の全裸の身体がくるくると回転した。まるで、バレエでも踊っているようだ。3枚の貝殻はそのまま後方へ飛んで行った。
『お下品ふんどしのノッコ』の声がした。
「キャー。ハーナスちゃん。危ないわよ」
3枚の貝殻には、『お下品ふんどしのノッコ』が良太を後ろにかくまったように見えたのだ。だから、『お下品ふんどしのノッコ』は良太の味方、すなわち自分たちの敵と判断したようだ。
3枚の貝殻は空中で反転すると・・再び良太と『お下品ふんどしのノッコ』に向かって飛んできた。『お下品ふんどしのノッコ』の声がした。
「キャー。また来た」
すると、体育館の床に立ち上がっているふんどしが動き始めた。『お下品ふんどしのノッコ』の周りを取り囲む。
ふんどしが、女主人を襲った3枚の貝殻を敵とみなしたようだ。
3枚の貝殻が『お下品ふんどしのノッコ』と良太に迫った。ふんどしが宙をくねった。
すると、貝殻の1枚がふんどしにはね飛ばされて・・体育館の天井にボスッという音を立てて突き刺さってしまった。残りの2枚の貝殻は、ふんどしの攻撃を避けて、左右に分かれて後方に飛んで行った。
「キャー。私の貝殻が! ノッコちゃん。なんてことするのよ!」
良太が見ると、『貝殻ビキニのハーナス』が全裸で『がに股カニ歩き』をしながら、こちらに向かってくる。もう貝殻はないのだから『がに股カニ歩き』をする必要はないのだが、癖になっているようだ。
2枚の貝殻は一旦左右に分かれたが、また体育館の中空に集まって静止した。良太と『お下品ふんどしのノッコ』の隙を伺っているのだ。『お下品ふんどしのノッコ』が『貝殻ビキニのハーナス』に声を掛けた。
「ハーナスちゃん。あの貝殻を止めてよ」
「だめなのよ。一度私の身体を離れたら、あの貝殻が意思を持って独自に行動するのよ」
「そんな、あなたの貝殻でしょ。ハーナスちゃん、何とかしなさいよ」
「そんなこと言われても・・」
二人の会話が契機になったようだ。1枚の貝殻が急に動き出した。また、真っ直ぐに『お下品ふんどしのノッコ』を目がけて飛んでくる。もう1枚は空中に静止したままだ。時間差攻撃だ。
『お下品ふんどしのノッコ』の口から悲鳴が飛んだ。
「キャー」
再びふんどしが動いた。『お下品ふんどしのノッコ』を守るように、飛んでくる貝殻の前に立ちはだかった。そして、貝殻を打ち落とそうとして、また身体をくねらせた。
それを見た貝殻が向きを変えた。上に向かって飛ぶ。ふんどしがそれを追って大きく伸びあがった。
そのときだ。中空で静止していた、残りの貝殻がふんどしに向かって飛んだ。
ふんどしがそちらに向きを変えた。しかし、遅かった。貝殻はふんどしを真っ二つに切り裂いて、後方に飛んで行った。
「キャー。私のふんどしが・・」
「私の貝殻の邪魔をするからよ。ノッコちゃん。あなたこそ、あの汚いふんどしを止めなさいよ」
「き、汚いですって・・汚いのは、ハーナスちゃん。あなたの股間を覆っていた貝殻の方じゃないの!」
「何ですって! わ、私の貝殻が汚いですって・・」
『お下品ふんどしのノッコ』と『貝殻ビキニのハーナス』が体育館の中央でにらみ合った。そして、お互い、フンと鼻を鳴らして横を向いた。
********
司会の姉ちゃんが朗読を終えると、甲高い声を張り上げた。
「うわ~。すごく面白いですねえ。『お下品ふんどしのノッコ』と『貝殻ビキニのハーナス』はこれからどうなるんでしょうか? ストーリーに引き込まれますねえ。永痴魔先生、これが魅力ある登場人物なんですね?」
私はいつものように一つ咳払いしてから答えた。
「そうなんです。このように登場人物に特徴を持たせることで、その小説が活き活きしてくるんです。読者も自然に小説の世界に引き込まれていくんですよ」
司会の姉ちゃんが時計を見た。もう時間のようだ。
「は~い。皆さん。いかがでしたかぁ? 『お下品ふんどしのノッコ』と『貝殻ビキニのハーナス』がすごく魅力的に描かれていて、とっても面白かったですねえ。皆さんも、特徴のある登場人物を作り上げて、ご自分の小説を活き活きしたものにしてくださいねぇ~。では、もうお別れの時間が来たようです。今日の『永痴魔先生の小説講座』は『魅力ある登場人物の描き方』でしたぁ。ではまた、来週、聞いてくださいね。では、皆さん、さようならぁ」
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