14.魅力ある登場人物を描く(その3)

 司会の姉ちゃんの甲高い声がスタジオに響いた。『全裸戦隊フィンガーレディースはすっぽんぽんで戦うのだ』の第七章の朗読を開始したのだ。


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 『お下品ふんどしのノッコ』はふんどしを床に投げ捨てた。素っ裸だ。そして、なんと・・相撲のしこのように、右足を大きく持ち上げて・・『すけこまし県やりまくり市』の市民体育館の床に打ちつけたのだ。ドンと大きな音が鳴って床が揺れた。今度は左足だ。・・ドン・・・『お下品ふんどしのノッコ』がしこを踏むたびに、体育館の床が揺れて、彼女の大きく押し広げられた股間が良太の眼の前に露わになった。


 良太は思わず『お下品ふんどしのノッコ』の股間を覗き込んだ。良太の喉から生唾を飲み込む音が大きく聞こえた。ごっくん・・


 良太は絶句した。女性が全裸になって、足を大きく広げて、相撲のしこを踏んでいる・・な、なんて・・お下品なんだろう。


 『お下品ふんどしのノッコ』の声が体育館に響いた。


 「しっこ、しっこ、しっこ・・」


 すると、何としたことだろう。『お下品ふんどしのノッコ』が床に脱ぎ捨てたふんどしが床から立ち上がったのだ。そして、ダンスを踊るように優雅に体育館の床の上を動き出したのだ。


 『お下品ふんどしのノッコ』の声が続く。


 「しっこ、しっこ、しっこ・・」


 やがて、ふんどしの一部の黄色いシミになった箇所から、黄色いシミが浮き上がり・・それは人の形になった。


 『お下品ふんどしのノッコ』の声がした。


 「良太、よく見るがいい。その黄色いシミはねえ。ふんどしが私の股間に当たっていた箇所なんだよ。その黄色いシミが人間の形になって、これからお前を襲うよ。お前は黄色いシミの攻撃を避けられるかねえ。アハハハハ」


 『お下品ふんどしのノッコ』がそう言って高らかに笑う間に、黄色いシミの人形はみるみる大きくなって、もう頭が体育館の天井に届く大きさになっていた。


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 司会の姉ちゃんはここで大きく息を吐いた。


 「うわ~。迫力のあるシーンですねえ。特に『お下品ふんどしのノッコ』が素っ裸で相撲のしこを踏む場面では・・私も思わず濡れて・・い、いえ、興奮してしまいました。では、永痴魔先生。先ほどのお話の『強調する箇所を少しずつずらす』という技法が、ここではどのように使われているのでしょうか?」


 「はい。先ほど読んでいただいた場面では焦点が、床に投げ捨てられたふんどし・・『お下品ふんどしのノッコ』のしこと股間・・ふんどしのダンス・・黄色いシミ・・と目まぐるしく移動していって、最後に黄色いシミの人形に落ち着いているわけです。このように『強調する箇所を少しずつずらす』ことで、読者の視線を引き付けるわけです。そして、最終的に『ふんどし』から『黄色いシミの人形』に焦点を移してしまっているわけです。このようにすると、読者の興味を引きながらストーリーを前に進めることができるわけです。これがですね、例えば、ふんどしの黄色いシミ・・黄色いシミの人形という推移だけでは、読者の興味を引きにくいんです」


 「なるほど。よく分かりました。ではいつも『強調する箇所を少しずつずらす』ことで、読者の興味を引けばいいわけですね?」


 「はい。基本はその通りなんですが、『強調する箇所を少しずつずらす』というのは小さな変化なんですね。あまりにこればかりを続けると、読者も飽きてきますので、たまに大きな変化を入れるといいんですよ」


 「大きな変化ですか?」


 「はい。私の作品ですと、良太はなんとか『黄色いシミの人形』を倒すのですが・・次の第八章で『全裸戦隊フィンガーレディース』の『貝殻ビキニのハーナス』が現われて、『お下品ふんどしのノッコ』と協力して良太を屈服させようとするんです。・・このように、小さな変化を続けたら、こういう大きな変化をその間に入れるといいんです」


 「わ~。ますます、話が面白くなってきますねえ。では、その大きな変化がある『全裸戦隊フィンガーレディースはすっぽんぽんで戦うのだ』の第八章を朗読してみましょう」


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 「ノッコちゃ~ん。応援に来たわよ」


 体育館の中に甲高い声が響いた。

 

 『お下品ふんどしのノッコ』のふんどしに取り囲まれた良太は声のした方を見た。体育館の入り口になんと素っ裸の女性が立っていたのだ。


 また、変なのが現われた・・


 よく見ると、その女性はおっぱいと股間に貝殻を当てている。貝殻ビキニをしているのだ。


 良太は首をかしげた。


 あ、あんな貝殻を股間に当てて、歩くときに痛くないのだろうか?


 すると、『お下品ふんどしのノッコ』が女性に向けて手を振った。


 「は~い。ハーナスちゃん。待ってたわ」


 ハーナスだって? すると、これが、うわさに聞く『貝殻ビキニのハーナス』なのか! な、なんて、お下品なんだ・・良太は思わず『貝殻ビキニのハーナス』に声を掛けていた。


 「お~い。貝殻ビキニのハーナス。股間にそんな貝殻を着けて・・そんな格好で、真っ直ぐに歩けるのか?」


 『貝殻ビキニのハーナス』が良太を見た。その美しい唇から声が出た。


 「真っ直ぐに歩けるわけないじゃないの! 真っ直ぐ歩こうとしたら、貝殻が股間に当たって痛いのよ! だから、私はこうして歩くのよ。見よ! 必殺、がに股カニ歩き!」


 『貝殻ビキニのハーナス』は両足を大きく左右に広げると、膝を大きく曲げて腰を深く降ろした。がに股だ。そして、カニのように横向きに歩き出したのだ。


 

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