12.魅力ある登場人物を描く(その1)
司会の姉ちゃんが甲高い声を張り上げた。
「は~い。皆さん。『ラジオやりっぱなし』の人気ラジオ番組『永痴魔先生の小説講座』のお時間で~す。先週は三点描写法を勉強しましたねえ。それで、今日はですね、小説にとって、と~っても大切な『魅力ある登場人物の描き方』をお勉強しますよぉ。講師はいつものように、現代の日本文学界を代表する巨匠、永痴魔先生で~す。では、さっそく今日のお勉強を始めたいと思います。永痴魔先生、魅力ある登場人物はどうして大切なんでしょうか?」
私はいつものように一つ咳払いしてから、おもむろに話し出した。
「はい、まず第一は、魅力ある登場人物がいることで、その小説が活き活きしてくるんですよ。魅力がない人物が登場したのでは、読者もその小説を読む気になりませんよね。そして、第二は魅力ある登場人物がいることで、作者もその小説が書きやすくなるんですよ」
「書きやすくなる・・と言いますと?」
「つまりですね、魅力ある登場人物というのは他人に比べて何か特別なものを持っているわけです。だから、作者は登場人物が持つ、その『特別なもの』を中心に話を展開していけるわけです。つまり、話の焦点を明確に絞ることができるということなんです。これによって、読者が読みやすく、そしてイメージにしやすいストーリーができあがるわけです」
「なるほど。では、ここで、永痴魔先生の代表作『全裸戦隊フィンガーレディースはすっぽんぽんで戦うのだ』をお手本にして、魅力ある登場人物をどのように描くのかをみていきましょう。永痴魔先生、この『全裸戦隊フィンガーレディースはすっぽんぽんで戦うのだ』は、どのようなお話なんでしょうか?」
「はい。よく、テレビで5人の戦士が悪と戦う『戦隊もの』と呼ばれるジャンルがありますね。この『全裸戦隊フィンガーレディースはすっぽんぽんで戦うのだ』もその『戦隊もの』なんです。『全裸戦隊フィンガーレディース』は、5人の美しい女性戦士で構成されています。彼女たちは悪の組織と戦って、地球の平和を守っているのです。それで、この『全裸戦隊フィンガーレディース』の女性戦士に特徴を持たせて、魅力ある登場人物にしているんです」
「と、言いますと?」
「はい、まず、『全裸戦隊フィンガーレディース』の女性戦士は、敵と戦うときに服を脱いでいって、最後は全裸で戦うわけですが・・その脱いだ服を武器にするんです。たとえば、戦士の一人である『お下品ふんどしのノッコ』は、女性なのにふんどしを身につけているんです。それで、そのふんどしを脱いで全裸で敵と戦うわけですが、そのふんどしが恐ろしい武器になるのです。また、『貝殻ビキニのハーナス』は貝殻のビキニを身に着けていて、その貝殻を相手に飛ばして武器にするんです。このため『貝殻ビキニのハーナス』は戦いながら、自然に全裸になっていくわけです。あと『においスキャンティのミーオ』、『蛇柄ブラジャーのスーミ』、『恐怖の殺人スリップのフーユ』で5人を構成しているんですね。また、5人の女性戦士の参謀のような女性がいるんです。『陰毛ハットのモ―ト』というんですが、彼女は実はイラストを描くのが得意なんですよ。『陰毛ハットのモ―ト』は人の陰毛でできた帽子をいつもかぶっているんですが、その陰毛帽子を絵筆として武器のイラストを紙に描くと、そのイラストが紙から飛び出して、本物の武器になって5人の女性戦士を助けるのです」
「うわ~。すっごく面白そう。でも、『貝殻ビキニのハーナス』さんは貝殻のビキニを身に着けているんですよね。あそこに貝殻を着けるって、歩くとき、痛くないのかしら?」
「だから、『貝殻ビキニのハーナス』は歩くときはですね、いつも両足を大きく横に広げて、かつ膝を大きく曲げて・・つまりは、がに股になって、カニのように横に歩いているんですよ」
私は一つ咳払いをする。高尚な作品の話をしているときに、あまり、お下品なことを言わないで欲しいものだ。姉ちゃんが頭をかきながら言った。
「あっ、し、失礼しました・・では、『お下品ふんどしのノッコ』、『貝殻ビキニのハーナス』、『においスキャンティのミーオ』、『蛇柄ブラジャーのスーミ』、『恐怖の殺人スリップのフーユ』の5人の女性戦士と、参謀の『陰毛ハットのモ―ト』の6人の女性が主人公なのですね」
「いえ、彼女たちが主人公ではないのです」
「えっ、では、主人公は?」
「主人公は『良太』っていう男性なんです」
「えっ、男性が主人公なんですか?」
「そうなんです。実は5人の女性戦士のうち『においスキャンティのミーオ』が事情で戦隊に参加できなくなってしまうんです。そこで、4人の女戦士たちと『陰毛ハットのモ―ト』が、『においスキャンティのミーオ』が残した『においスキャンティ』をはいて、敵と戦うことができる仲間を探すんですね。そこで、彼女たちの目に留まったのが良太なんです」
「でも、良太は男性なんですよね。男性では、女性から構成される『全裸戦隊フィンガーレディース』には入れないのではないですか?」
「普通はそうなんです。しかし『においスキャンティのミーオ』が残した『においスキャンティ』は誰でもはけるっていうわけではなくて、ある特質を持った特別な人物だけがはけるのです。その特質に合致したのが良太だったんです。おまけに、この良太ってのは女性のような男性なんです。つまりは軟弱男性なんですよ。このため、良太の周りの女性たちは誰も良太が男性だと思っておらず、良太を女性だと認識しているというありさまだったんですね。良太は女性から女性として見られて女性として扱われている・・・そんなかわいそうな男性だというわけです」
「まあ、そんな軟弱な男性がいるんですね?」
「ええ、いるんですよ。だから良太は男性ですが『全裸戦隊フィンガーレディース』にぴったりの女性のような人物なのです。それで4人の女戦士たちと『陰毛ハットのモ―ト』は、良太を『全裸戦隊フィンガーレディース』に入れて『においスキャンティ』をはかせて、敵と戦わせようと考えるわけです。つまり『においスキャンティの良太』という新しい女戦士を作り上げようとするわけです。ですが良太はそれを拒否します。そこで4人の女戦士たちと『陰毛ハットのモ―ト』が力づくで良太を屈服させようとして良太に襲いかかる訳なんです」
「なるほど」
「それで、この『全裸戦隊フィンガーレディースはすっぽんぽんで戦うのだ』の主人公は良太なんですが、さっきも言いましたように、良太は女性のような男性である以外は、何の取り得も特徴もない平凡な人物なんです。そこで、良太の周りの登場人物である4人の女戦士の『お下品ふんどしのノッコ』、『貝殻ビキニのハーナス』、『蛇柄ブラジャーのスーミ』、『恐怖の殺人スリップのフーユ』に『陰毛ハットのモ―ト』を加えた5人の女性にものすごく特徴を持たせて物語りを構成していくのです」
「なぁるほど。よく分かりました。では、この『全裸戦隊フィンガーレディースはすっぽんぽんで戦うのだ』の第六章をいつものように朗読してみましょう。永痴魔先生、第六章はどのような場面なんでしょう?」
「第六章はですね、『お下品ふんどしのノッコ』が『においスキャンティ』をはかせようとして良太に襲いかかるシーンですね」
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