11.三点描写法(その4)

 蒼汰はくりとり山に登ろうと、その立て看板のあるところから、山肌にしがみついた。


 しかし、栗取棲山の山肌には手がかりも足がかりも何もないのだ。おまけに表面が少し濡れている。蒼汰は少し登っては滑り落ちることを繰り返した。


 いけない、こんなことをやっていては・・


 蒼汰は栗取棲山の山肌にしがみついた姿勢で、山肌に噛みついた。噛みつくことで何とか滑り落ちるのを防ごうと考えたのだ。山肌は思いのほか柔らかだった。


 すると、栗取棲山が大きくブルブルっと揺れた。それは、まるで蒼汰が嚙みついたことを喜んでいるかのような揺れだった。蒼汰はその揺れに山肌からふるい落とされそうになった。たまらず、蒼汰は山肌の別の所を噛んだ。すると、栗取棲山が再び大きくブルブルっと揺れた。


 蒼汰は当たりかまわず栗取棲山の山肌を噛んだ。その都度、栗取棲山が揺れた。栗取棲山の表面から、何か液が吹き出してきた。


 そうしていたときだ。突然、セピア色の空が一転黒く掻き曇って、その雲から大粒の雨が降ってきた。


 その雨雲はどんどん成長し、たちまち空一杯を覆ってしまった。空全体から大粒の雨が滝のように落ちてきた。激しい雨脚が、人の陰毛を思わせる黒い草が一面に生えた地面を覆った。さっきまではっきりと見えていた地平線が雨滴で煙ってたちまち見えなくなった。ものすごいどしゃ降りの雨だ。蒼汰はたまらず栗取棲山の山肌から滑り落ちて、真っ黒な毛のような草が生える地面に転がった。


 地面を激しい雨が叩きつけている。すぐに地面に水が溜まった。その水がどんどん水位を上げてくる。地面に横倒しになっている蒼汰の顔が水に没した。息ができない。蒼汰は立ち上がろうとした。そのとき、大きな波が水面に起こった。蒼汰の身体はその波に持ち上げられて、たちまち水の中に没してしまった。


 蒼汰の身体が波の中で何回も回転した。もう息が続かなかった。蒼汰の意識が薄くなっていった。


 そのとき、蒼汰の顔が水面に浮かんだ。蒼汰は大きく口を開けて空気を吸い込んだ。その口の中に波が入り込んだ。蒼汰の頭がまた水中に沈んだ。水中で蒼汰はむせた。肺の中の空気が大きな気泡となって水面に上がっていくのが見えた。蒼汰の身体もその気泡の後ろをゆっくりと水面に浮かんでいった。水中の蒼汰の眼に水面の波の揺らぎが見えたと思った瞬間、蒼汰の頭は水中から波の間に飛び出した。

 

 蒼汰は周りを見わたした。周りは水面だけだった。どちらを向いても水平線が広がっていた。栗取棲山は見えなかった。水面が上昇してあの栗取棲山が水に没してしまったのだ。水面と蒼汰の顔を雨が激しく打ちつけていた。


 真っ暗な空の雲の間に、あの亀裂があった。亀裂が開いている。亀裂の隙間から光が差しているのだ。


 急に水に大きな流れが生じた。周りの水はその亀裂の隙間に向かってものすごい勢いで流れていた。蒼汰の身体はその流れにのった。蒼汰の眼の前に亀裂がどんどん大きくなってきた。蒼汰の身体が亀裂に入っていって・・急に明るいところに飛び出した。


・・・・・


 蒼汰は床に転がった。身体がびっしょりと濡れていた。眼の前には『おっぱいチョップの結奈』がいた。後ろに両手をついて股間を大きく広げて喘ぎ声を出していた。『おっぱいチョップの結奈』がの股間から、クジラの潮吹きのように、液が吹き上げていた。


********


 司会の姉ちゃんは長い朗読を終えた。一つため息を吐くとマイクに向かって言った。


 「いやあ、すごい迫力のある描写でしたねえ。主人公の蒼汰が栗取棲山の山肌に噛みつくシーンでは、読んでいて思わず私も濡れてしまいました・・あっ、いや、興奮してしまいました。で、では、この『そのおばはんは、シワシワのおっぱいをオイラの口に突っ込んだ』の第九章から三点描写法を永痴魔先生に解説していただきましょう」


 私はえへんと一つ咳払いをしてから、おもむろにマイクに向かって話し出した。


 「はい。ここでは、蒼汰が『おっぱいチョップの結奈』の股間に吸い込まれて、蒼汰が周りを見回すときの風景描写に三点描写法が使われています。まず、最初にセピア色の空が出てきます。そして、その空に亀裂が入っているシーンが続くわけです。その後に、地面の描写が来るのです。真っ黒な何もない地面が地平線の果てまで続いていて、その中にポツンと栗取棲山があるというシーンですね。それから、視点がもっと身近になって、地面に生えている黒い草の描写になります。このように、全体から細部へ、遠くから近くへと順々に視点が移動することで、読者が風景を容易に理解することができるわけです」


 「なるほど」


 「次は股間に吸い込まれた蒼汰が栗取棲山に噛みついたせいで大雨が降りだして、洪水になってしまうシーンですね。具体的には

『蒼汰は周りを見わたした。周りは水面だけだった。どちらを向いても水平線が広がっていた。栗取棲山は見えなかった。水面が上昇してあの栗取棲山が水に没してしまったのだ。水面と蒼汰の顔を雨が激しく打ちつけていた。』

というシーンです。ここも、まず水平線が来て、次いで栗取棲山が来て、それから蒼汰の顔を雨が打ちつけるシーンになっています。ここにも遠くから近くへという三点描写法が使われているわけですよ」


 「なぁるほど。リスナーの皆さん、分かりましたか? みなさんもぜひ、この『そのおばはんは、シワシワのおっぱいをオイラの口に突っ込んだ』を読んで、三点描写法を勉強してくださいね。なんだか、私の股間も濡れてきましたので・・あっ、いや、お時間が来ましたので、ここで今週の『永痴魔先生の小説講座』は終了で~す。次回は、小説にとって、と~っても大切な『魅力ある登場人物の描き方』をお勉強しますね。皆さん、お楽しみに~」

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