8.三点描写法(その1)
「は~い。皆さん、ごきげんよう。『ラジオやりっぱなし』の人気ラジオ番組『永痴魔先生の小説講座』のお時間がやってまいりましたぁ~。今日の『永痴魔先生の小説講座』は『描写力の身につけ方 三点描写法』についてですよぉ~。今日も皆さんと一緒に勉強していきましょう~。では、さっそく先生に伺いますね。・・永痴魔先生、今日のタイトルにある三点描写法というのは何でしょうか?」
姉ちゃんの甲高い声に続いて私は厳かに答えた。
「三点描写法というのは、小説の中で風景や人物などを描写するときの基本的な方法なのです」
「と、言いますと?」
「物事を全体、部分、細部の三点から観察して、それを順に描写するという手法です。たとえば、小説の中で『小さい秋』を描写するとします。『小さい秋』と言いますと、『苅田』とか『山道に落ちている木の実』、『秋晴れ』といった風景がすぐに頭に浮かびますよね。これらを大きな全体から小さな細部へ視点を移動するように描写していくんです。全体から小さな細部へというのは、分かりやすく言うと、遠くから近くでもいいんです。例えば、さっきの『小さい秋』ですと、『秋晴れ』、『苅田』、『山道に落ちている木の実』というように全体から細部に、遠くから近くに視点を移動させるように描写するわけです」
「例えば、『小さい秋』だとどんな描写になりますか?」
「『秋晴れ』、『苅田』、『山道に落ちている木の実』の順に描写を展開すると、一例ですが、このようになります。
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山道を歩きながら、私は空を見上げた。抜けるような青色が広がっていた。素晴らしい秋晴れだった。地上に眼を向けると、遠くまで苅田が広がっていた。ふいに、私の足元でがりっという音がした。地面を見ると、山道に木の実がたくさん落ちていた。私は木の実を一つ拾いあげて、ポケットに入れた。
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と、まあ、こんな具合ですが・・如何ですか?」
「まあ、素晴らしいですね。秋の雰囲気がよく伝わってきます。でも、永痴魔先生、全体、部分、細部という順番には意味があるんでしょうか?」
「さっきは、『秋晴れ』、『苅田』、『山道に落ちている木の実』の順に、つまり、全体、部分、細部の順に描写を展開しましたが、この順番を変えてみましょう。例えば、『苅田』、『山道に落ちている木の実』、『秋晴れ』の順にするとこうなります。これは、全体、部分、細部の順ではなく、部分、細部、全体の順になりますね。
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山道を歩きながら向こうに眼をやると、遠くまで苅田が広がっていた。ふいに、私の足元でがりっという音がした。地面を見ると、山道に木の実がたくさん落ちていた。私は木の実を一つ拾いあげて、ポケットに入れた。次に私は空を見上げた。抜けるような青色が広がっていた。素晴らしい秋晴れだった。
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この場合、主人公は遠くの苅田を見て、歩いている地面を見て、それから空を見上げていますね。このとき『次に私は空を見上げた。』という描写が唐突に現れるので、読者が不自然さを感じてしまうんです。つまり、読者が『主人公は木の実を拾い上げた後、どうして空を見上げたんだろう?』と疑問に思うわけです。こうなると、読者が物語の中に入っていけなくなるんですよ。全体、部分、細部の順に描写を展開すると、これは自然な流れですから、読者は
「なるほど。では、そういう全体、部分、細部の順ではなく、間違って、部分、細部、全体の順になってしまったときは、どのように対処しなければならないんでしょうか?」
「その場合は、部分、細部と進んで、次に全体に移るときに『なぜ全体に移るのか』という理由を読者に説明しないといけないわけです。たとえば、こんなふうにです。
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山道を歩きながら向こうに眼をやると、遠くまで苅田が広がっていた。ふいに、私の足元でがりっという音がした。地面を見ると、山道に木の実がたくさん落ちていた。私は木の実を一つ拾いあげて、ポケットに入れた。すると突然、私の頭上で鳥の鳴き声がした。私は驚いて空を見上げた。抜けるような青色を背景にして、雁のような大きな鳥がゆっくりと向こうの空に飛んで行くのが見えた。素晴らしい秋晴れだった。
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このように『空を見た』理由を付け加えると、読者は『ああ主人公は鳥の声に驚いて空を見たんだな』ということが分かって、読んでいても安心できるのです。このように理由を付けて、部分、細部、理由、全体の順に描写を構成するといいわけです。ここで、少し詳しく言いますと、この例では『ふいに、私の足元でがりっという音がした。』というのも『地面を見た』理由と考えることができます。つまり、部分、『地面を見た』理由、細部、『空を見た』理由、全体の順になっているということですね。しかし、さっきの『空を見た』理由は必要だったんですが、ここは部分から細部に行くところですから、この『地面を見た』理由は別に無くてもいいんですよ。この『地面を見た』理由がないと、たとえば、こんなふうになります。
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山道を歩きながら向こうに眼をやると、遠くまで苅田が広がっていた。地面を見ると、木の実がたくさん落ちていた。私は木の実を一つ拾いあげて、ポケットに入れた。すると突然、私の頭上で鳥の鳴き声がした。私は驚いて空を見上げた。抜けるような青色を背景にして、雁のような大きな鳥がゆっくりと向こうの空に飛んで行くのが見えた。素晴らしい秋晴れだった。
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このように、全体から部分、部分から細部の順になっているところは、理由がなくても自然な流れになるのです」
姉ちゃんがちょっと首をかしげた。
「つまり、全体から部分、部分から細部の順になっているところは、理由がなくてもあってもいいわけですね。ということは、先生、どんなところにも理由を入れるといいということですか?」
「そうなんですが、あまり理由を多く入れると不自然になるので注意して下さい。人間の動作というのは自然に流れていくもので、いちいち理由があってしているわけではないのですから。動作の中に、そんなに何から何まで理由があるのはおかしいわけです。ですから、通常は、理由を付けずに、全体、部分、細部の順に、分かりやすく言うと遠くから近くへ描写を展開するといいわけです。理由を入れるのは特別な場合と理解してください」
「よく分かりました」
そう言うと、姉ちゃんがもう一度首をかしげた。
「今、ふと思ったんですが・・・これって、全体、部分、細部の順、つまり、遠くから近くの順番でないとダメなんでしょうか? 逆に、近くから遠くという順番では問題があるのでしょうか?」
「いい質問ですね。小説というのは、主人公の視点や考えで展開されるわけですね。ですから、遠くから近くの順番だと、だんだん主人公に近づくわけですので、主人公の話にすんなり入れるんですよ。例えば、こんな感じです。
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山道を歩きながら、私は空を見上げた。抜けるような青色が広がっていた。素晴らしい秋晴れだった。地上に眼を向けると、遠くまで苅田が広がっていた。ふいに、私の足元でがりっという音がした。地面を見ると、山道に木の実がたくさん落ちていた。私は木の実を一つ拾いあげて、ポケットに入れた。
私はこの田舎に友人のK君を訪ねてきたのだ。私がK君と初めて出会ったのは、高校の入学式の日だった。その日、私は・・・
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このように、主人公である『私』の話にすぐ入れるわけです。一方、近くから遠くになると、こうなります。
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山道を歩いていると、私の足元でがりっという音がした。地面を見ると、山道に木の実がたくさん落ちていた。私は木の実を一つ拾いあげて、ポケットに入れた。地上に眼を向けると、遠くまで苅田が広がっていた。私は空を見上げた。抜けるような青色が広がっていた。素晴らしい秋晴れだった。
私はこの田舎に友人のK君を訪ねてきたのだ。私がK君と初めて出会ったのは、高校の入学式の日だった。その日、私は・・・
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こうなると、さっきと同様に、読者は『主人公は空を見上げていて、どうしてK君のことを思い出したのだろう』と不思議に思うわけです。ですから、この場合も、『主人公が空を見上げていて、K君のことを思い出した理由』を付け加える必要があるんです。例えば、こんな具合です。
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山道を歩いていると、私の足元でがりっという音がした。地面を見ると、山道に木の実がたくさん落ちていた。私は木の実を一つ拾いあげて、ポケットに入れた。地上に眼を向けると、遠くまで苅田が広がっていた。私は空を見上げた。抜けるような青色が広がっていた。素晴らしい秋晴れだった。
その青空が私に友人のK君のことを連想させた。私はこの田舎に友人のK君を訪ねてきたのだ。私がK君と初めて出会ったのは、高校の入学式の日だった。その日も今日と同じように素晴らしい青空が広がっていた。私は・・・
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とこんな具合です」
姉ちゃんがパチパチパチと拍手をして言った。
「なるほど、よく分かりました。では、この三点描写のお手本として、永痴魔先生の作品を朗読してみたいと思います。お手本とするのは先生の傑作小説『そのおばはんは、シワシワのおっぱいをオイラの口に突っ込んだ』です。永痴魔先生、この『そのおばはんは、シワシワのおっぱいをオイラの口に突っ込んだ』はどうのようなお話でしょうか?」
「はい。この『そのおばはんは、シワシワのおっぱいをオイラの口に突っ込んだ』は20代の男性が主人公です。名前は蒼汰といいます。蒼汰はおっぱいが大好きで、旅をしながら、様々なおっぱいの使い手に巡り合うのです。これは、蒼汰がそれらと闘いながら人間として成長していくという一大ヒューマンドラマなんです」
「おっぱいの使い手ですか?」
「ええ、蒼汰の行く手に、おっぱいを武器とするさまざまな女性が立ちはだかるのです。そして、蒼汰は彼女たちと闘うわけです」
「なるほど、素敵な物語ですね。では、『そのおばはんは、シワシワのおっぱいをオイラの口に突っ込んだ』の第五章を見ていきましょう。先生、この第五章はどんな場面なんでしょうか?」
「第五章は、主人公の蒼汰が、『おっぱい風車のお竜』というおばちゃんに出会って決闘する場面です。『おっぱい風車のお竜』は、自分のおっぱいを風車のようにブンブンと回すことができるんです。お竜はこの『おっぱい風車』という
「おっぱいをブンブン回せるんですか! まあ、それはうらやましいですね。・・私のおっぱいもブンブン回せるほど大きかったらいいのに・・・あっ、失礼しました。では、いつものように、私が『そのおばはんは、シワシワのおっぱいをオイラの口に突っ込んだ』の第五章を朗読してみましょう」
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