5.長い話を書く方法(その2)

 司会の姉ちゃんが私に聞いた。


 「永痴魔先生。帆潮さんから先生にお願いがあるということなんですが・・いただいたお手紙を読みますよ。ええと・・私はいま『カクヨム』のある公募に応募したいと思っています。それは『真夜中』というお題で、600字以上4000字以下で小説を書くという公募なんですが、どうしても600字以上の話が書けなくて困っています。永痴魔先生、何とか助けてください。・・・ということなんですが、先生、如何ですか?」


 「さっきの点呼小説の方法を使えば簡単ですよ。では、即興でいま創ってみましょう。ええ~と『真夜中』というお題で600字以上でしたね・・」


 私はパソコンで即興の小説を書きあげた。司会の姉ちゃんに渡すと、姉ちゃんがそれをいつものように読み上げた。


********


タイトル:真夜中のしりとり


 加奈が全裸のまま、ベッドに仰向けに寝ていた私の身体の上に乗ってきた。私も全裸だ。加奈の20代の若い肢体が眼にまぶしい。


 加奈とはさっき酒場で会ったばかりだ。加奈の方から私に近寄ってきた。加奈というのは彼女が自分で名乗った名前だ。たぶん、本名ではないだろう。


 加奈が誘うので、私は加奈と一緒に酒場からこのホテルにやってきた。さっき、一勝負終わったばかりだった。心地よい疲労感が私を包んでいた。加奈が私の上で言った。


 「ねえ、もう一回、やろうよ」


 私は苦笑した。時計を見ると、真夜中の1時になっている。中年の身では、加奈のように何度もできない。私は言った。


 「もうちょっとしてから」


 「つまんないの。じゃあね、しりとりをしようよ」


 「しりとり?」


 私は加奈の子どもっぽい遊びに好感を持った。しりとりなど・・何十年もしていない。加奈が笑いながら言った。


 「うん、私からいくよ。じゃあね、今は真夜中だから・・真夜中」

  「か・・か・・じゃあ、カニ」

 「肉」

  「熊」

 「マシュマロ」

  「ろ・・ろ・・ロケット」

 「時計」

  「井戸」

 「ドイツ」

  「月」

 「狐」

  ・

  ・

  ・

 「タイツ」

  「鶴」

 「ルビー」

  「ビール」

 「やだあ、また『る』?・・ルンバ」

  「バス」

 「住まい」 

  「椅子」

 「寿司」

  「鹿」

 「鴨」

  「文字」

 「ジュース」

  「すいか」

 「貝」

  「イルカ」

 「蚊」

  「もう一回、『か』か・・じゃあ・・カニ」

 「あっ、『カニ』って、最初に言ったよ。同じ言葉を言ったから、私の勝ちね。負けた人はね・・お仕置きをされるのよ」


 私は笑った。


 「お仕置き? どんな?」


 全裸の加奈が私の上で妖しく笑った。


 「それは、ねえ・・」


 加奈の口が耳まで引き裂かれた。鋭い歯が蛍光灯に光った。


 「こういうお仕置き」


 加奈が私の首に噛みついた。私の眼に血しぶきが飛ぶのが映った・・


********


 私は姉ちゃんに聞いた。


 「これで、何文字になるかな?」


 「ええ~と。タイトルを除いて、727文字です。・・ええっ、ということは、600字以上だから、このままで『カクヨム』の公募に出せるじゃないですか?」


 「そうです。しりとりのところは何文字?」


 「え~と。『「うん、私からいくよ・・』から『・・お仕置きをされるのよ」』までで・・すごぉい、なんと250文字もありますよ。しりとりの部分がなければ、727引く250だから・・ええと・・」


 「477」


 「そ、そうですね。477文字です。ということは・・600字以下だから、しりとりの部分がなければ、とても公募には出せないわけですね」


 「そうです。しりとりだから、この部分は誰でもいくらでも書けますよね。今、即興で創ったこの話でも723文字ですが、もっと長くしたかったら、しりとりの所を長く延ばせばいいんですよ。しりとりですから、いくらでも長くできますよね」


 姉ちゃんが感心したという声を出した。


 「うわ~、すごぉい・・これだったら、字数の下限がある公募にも簡単に作品を出すことができますね・・点呼小説って、すごいですね」


 「そうなんです。それに、この部分は別にしりとりでなくても何でもいいわけです。たとえば、野菜や果物の名前を言い合うとか、世界の都市の名前や夜空の星の名前を言い合うとかでもいいんですね。世界の都市の名前や星の名前なんかはインターネットで調べたら、いくらでも出てくるじゃないですか。だから、それらを延々と言い合う話にしたら、いくらでも長い話が書けるわけですよ」


 「先生、そうすると、しりとり以外のお話も書けるわけですね?」


 「その通りです。たとえば、星の名前を言い合う場合だったら、タイトルを『真夜中に星を見上げたら?』なんてのにして、加奈が主人公に『真夜中の空を見上げながら、星の名前をいい合いしようよ』って誘うストーリーにするわけです。実は加奈はある星から来ている宇宙人で、主人公がうっかりその星の名前を言ってしまうんです。すると、正体を知られていると勘違いした加奈が主人公の首に噛みつく・・・といった話が簡単にできますよね。こうして、『真夜中に星を見上げたら?』というタイトルから読者はラブロマンスを想像するわけですが、実はホラーだったという”どんでん返し”が簡単にできるわけです。このように、点呼小説を使うと小説を簡単にいくらでも創作できるんです」


 姉ちゃんが再び感心したという声を出した。


 「うわ~、すごぉい・・ホントにそのとおりですね。点呼小説を使えば、公募に出す小説がいくらでも簡単に創作できますねぇ・・点呼小説って本当にすばらしい手法ですねぇぇ。リスナーの皆さん、如何ですかぁぁ? 点呼小説ってとってもすごいですよぉぉ」


 私は話をまとめた。


 「ええ、ですから、ラジオをお聞きの皆さんには、ぜひ、この点呼小説のやり方を使って少しでも長い小説を書いていただいて、どんどん公募に作品を出していただきたいと思います」


 司会の姉ちゃんが、うんうんと首を縦に振りながら私に言った。


 「それでは、ここで、永痴魔先生の名作を使って、点呼小説の創り方をもう少し詳しく見ていきたいと思います。テキストとして使用するのは、お手紙を送っていただいた帆潮光代さんもお好きだという、永痴魔先生の名作『裸の美女はやさしく私に言った。はよ、中に入れんかい! このボケ!』です。先生、これはどんなお話なんですか?」


 「はい。この『裸の美女はやさしく私に言った。はよ、中に入れんかい! このボケ!』は成城に住む女子大生の雪乃が主人公です。雪乃はいわゆる深窓の令嬢で、お上品な性格が災いして引っ込み思案になってしまうんですが、様々な男性との出会いとセックスを通じて大人の女性として成長していくという感動の一大巨編なのです」


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