4.長い話を書く方法(その1)
「は~い。皆さん。一週間のご無沙汰でした。『ラジオやりっぱなし』の人気ラジオ番組『永痴魔先生の小説講座』のお時間で~す。今日はですね。リスナーの方からの永痴魔先生へのご質問を最初にご紹介しましょう」
いつもの司会者の甲高い声に、私は手で耳をふさぎながら答えた。
「リスナーの方からのご質問ですか? それはうれしいですね」
姉ちゃんの声が続く。
「質問をお寄せいただいたのは、35才の主婦の方で、
司会の姉ちゃんに続いて、私も帆潮さんにお礼を述べた。
「帆潮さん、どうもありがとうございます」
「それでは帆潮さんからのお手紙を読みますね。・・・私は永痴魔先生の大、大、大ファンです」
「ありがとうございます」
「先生の作品は全て読んでいますが、とりわけ私が好きな作品は何といっても『裸の美女はやさしく私に言った。はよ、中に入れんかい! このボケ!』です。実はこの『裸の美女はやさしく私に言った。はよ、中に入れんかい! このボケ!』の主人公の雪乃のお上品な言葉遣いが私にそっくりで、とても作中の人物の言葉とは思えません。まるで、私自身を見るようです。こんな素敵な作品を読めて、私は本当に幸せです」
私は大きくうなずいた。
「ありがとうございます」
「そんな私には実は大きな悩みがあります」
「ほう?」
「私はいま『カクヨム』というwebの小説投稿サイトに自分の小説を書いています・・永痴魔先生、『カクヨム』って、私は知りませんが・・有名な小説投稿サイトなんですか?」
司会の姉ちゃんが私に質問する。私は首をひねった。
「う~ん?・・『カクヨム』ですか?・・・さあ、一度も聞いたことがありませんなあ?・・私は一応、プロの作家ですから、仕事柄、だいたいの小説投稿サイトは知っているんですが・・『カクヨム』というのは全く知らないですね。・・・しっかし、『カクヨム』とは『書く』と『読む』を合わせただけの実に安っぽいネーミングですなあ・・・どうせ『カクヨム』っていうのは、誰もアクセスしないようなローカルでマイナーな弱小最底辺のwebサイトなんでしょう」
「そうですね・・では、誰もアクセスしないようなローカルでマイナーな弱小最底辺のwebサイトの『カクヨム』のことは放っておきましょう。・・帆潮さんのご質問を続けます・・・その『カクヨム』っていうサイトでは時おり小説の公募があるんです。この公募に私も参加したいのですが、文字数の規定があって・・例えば、600字以上、4000字以内といった具合なんですが・・私の作品がその字数の下限をどうしても超えることができないんです。どうしたら、長い話を書くことができるんでしょうか?・・というご質問です。永痴魔先生、如何でしょうか?」
「小説を長くする方法ですね。実に簡単な方法がありますよ」
「えっ、そんな方法があるんですか?」
「ええ、点呼小説っていうんです」
「テンコって、一人一人がいることを確認する・・あの、点呼ですか?」
「そうです。今、ちょっと、一番シンプルな点呼小説を創ってみましょう」
私はパソコンでたちまち簡単な一編の小説を書きあげた。
「もう、できました。では、これを朗読してみてください」
司会の姉ちゃんが私の小説を朗読する。
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整列した兵士たちの前に隊長が立った。兵士たちに緊張が走る。隊長の顔に朝日が当たっていた。
隊長が言った。
「番号」
兵士たちが順番に自分の番号を言った。
「一」
「二」
「三」
「四」
「五」
「六」
「七」
「八」
「九」
「十」
「十一」
「十二」
「十三」
「十四」
「十五」
「十六」
「十七」
「十八」
「十九」
「二十」
・
・
「五千八百七十」
「五千八百七十一」
「五千八百七十二」
「五千八百七十三」
「五千八百七十四」
「五千八百七十五」
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「九千九百九十五」
「九千九百九十六」
「九千九百九十七」
「九千九百九十八」
「九千九百九十九」
「一万」
「よし、全員がそろっているな」
隊長は満足そうにうなずいた。隊長の顔に夕陽が当たっていた。一日の訓練が無事に終わった。
********
「こうして、番号の所を必要な字数だけ書けばいいんです。こうすれば、いくらでも簡単に長い小説が書けるでしょう」
「まあ、これはなんという素晴らしい方法なんでしょう。確かにこうすれば、いくらでも話を長くすることができますね。でも、この方法は兵士の点呼だけにしか使えないんでしょうか?」
「いや、他にも使えますよ。一番単純で、分かりやすいのが点呼というだけでして・・・例えば、こんなのはどうでしょう?」
私はまたパソコンで短い小説を創った。姉ちゃんがまたそれをマイクの前で朗読した。
********
「おい、花屋」
「へい、いらっしゃい。どの花にいたしやしょう?」
「誕生花というのは、毎日決まってるのかい」
「ええ、1年365日、毎日、違った花が誕生花として決まってますよ。一部ですが、ある日の誕生花が、重複して別の日の誕生花にもなってることがありますが・・」
「そうかい。実は、誕生花の中から花を買いたいんだが・・誕生花というのはどんな花があるんだい? 1月1日から全部言ってみてくれ」
「分かりやした。では、だんな、誕生花を1月1日から言いやすよ」
「1月1日はフクジュソウとスノードロップ」
「1月2日はロウバイとタケ」
「1月3日はマツ、ウメ、クロッカス、フクジュソウ」
「1月4日はフクジュソウ」
「1月5日はミスミソウとクロッカス」
「1月6日はマンサク」
「1月7日はセリ、スノードロップ、ベンジャミン」
「1月8日はスミレ、マンサク、モクレン」
「1月9日はノースポール、スミレ、ハコベ」
「1月10日はフリージアとストック」
「1月11日はミスミソウとセリ」
「1月12日はスイートアリッサムとフクジュソウ」
「1月13日はカトレア」
「1月14日はシクラメンとシンビジウム」
「1月15日はオンシジューム」
「1月16日はデンドロビウム、キンギョソウ、スノードロップ」
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「12月20日はパイナップルとビワ」
「12月21日はプラタナス」
「12月22日はセントポーリアとカネノナルキ」
「12月23日はカトレア、シネラリア、スパティフィラム」
「12月24日はヤドリギとノースポール」
「12月25日はバラ、ヒイラギ、ブルーデイジー、ヤドリギ」
「12月26日はクリスマスローズとブバルディア」
「12月27日はパンジーとヤツデ」
「12月28日はザクロとツワブキ」
「12月29日はホオズキとオドントグロッサム」
「12月30日はハボタンとマネッチア」
「12月31日はユズとユリオプスデージー」
「以上です。だんな、どの花にいたしやしょう?」
「誕生花って多すぎて覚えられねえや。やっぱり、花はいらねえよ。また、来るぜ」
「ぎゃふん! だったら、365日、言わさないでよぉぉぉ。せっかく言ったんだから、買ってよぉぉぉぉぉ」
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姉ちゃんがパチパチパチと拍手をした。もう一度、さっきと同じ言葉を口にした。
「点呼小説! 素晴らしい! なんて、素晴らしい方法なんでしょう」
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