第3話・抱く。抱かれる。

「よっ…」

「………」

 卒業の日に、何故か大槻おおきくんに持ち上げられてます。

「もういいよ」

「大分、軽くなった気がするけど…」

 これ以上は、見てて苦しくなってくるからやめて。

「私を初めてお…お姫様抱っこしますよね?」

「うん。初めて抱くよね」

 よっこいしょ。と言って、優しく下してくれた。

「その言い方、語弊があります」

「抱くのは初めてじゃないか…」

「更に、語弊があります」

 この日から、大槻くんとは別々の人生を歩んで…?いや、ただ学校が違ったから会わなくなっただけで…。

 もう会うことはないんだろうな。と、漠然と思ってたので。

「これからお世話になります。よろしくお願いします」

 転職した勤め先に、見覚えのある顔が。

「わからないことがあったら、俺に聞いてね」

「部署が違うでしょ」

 ははは、と笑う顔も変わってない。

「じゃあ、次は…」

 直属の上司に、次の部署の案内で移動するところで、動けない。大槻さんが腕を掴んでいる…。相変わらず、指もキレイでいらっしゃる。

小谷こや、後で行くから』

 そう囁いて、大槻さんは私の腕を離した。一瞬の出来事で各部署へ挨拶回りを全て終えた時には大槻さんのことなど忘れていた。

「酷くない?」

「酷くないです」

「俺、すぐ小谷だって気付いたのに」

「私は初日で色々…」

「うん…コレ、美味しいね…」

 お昼休憩前に現れて、相変わらずの顔面偏差値高いままに笑顔で「小谷さん借りて行きますね」と…。

 いやいや、初日から外食は…。と私の心の整理がつかないままに今、食事中…。

「小谷、彼氏いるの?」

「いますよ」

「だろうな」

「多分、もうすぐ別れますけど」

 ふーん。そうなんだ。と嬉しそうにする姿にちょっとイラッとしてしまった。

「俺にチャンスある?」

「ないですね」

「マジで?」

「マジですね…」

 変わんないね。と言いながら、美味しそうに食べる大槻さんもあの頃と変わらない。

「抱いた仲なのに?」

「それ、持ち上げただけでしょ?」

「そうとも言うよね…」

「そうとしか言いません、よね?」

 こんなに気を遣わずに食べたの、いつぶりだろう…。きっとあの頃以来なのかな。

 お会計時に、既に支払い済みな事実を知り、現金を渡そうとすると。

「今日は再会のお祝いだから、奢られて?」

「困ります」

 再会に祝いなんてないから。ただ、会えただけで何となく嬉しかった…。とは言いたくない。このスキンシップの多さに。

「触らないでください」

「触りたいです」

「こういう事は彼女にしてください」

「彼女にならない?」

 歩く足が止まってしまった。

「丁重にお断りしますっ」

「丁重にお断りを拒否しますっ」

 何年、何十年経っても変わらない。

 あなたは大切な人。

 あの時から、ずっと。

 だから、付き合えません。

 失いたくない。

 唯一無二のヒトだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ヒメコイ。 @tamaki_1130_2020

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ