第2話・美しき光景

「………や」

 うわっ!!

 大槻おおきくんが目の前にいる。

 相変わらず、整った顔をしてらっしゃる。

 拝んでおこう…。

 勿論、心の中で。

 本人目の前にして手を合わせる心意気は、持ち合わせてない。

小谷こや、何見てるの?」

 何って…。

 ずっと大槻くんの腕、見てたかも。

 顔面偏差値高い大槻くんの顔を直視出来ないでいた。

 好きと言うよりも、吸い込まれそうなほどの魅力が。どちらかと言うと愛でる対象の好きかも知れない。いや、きっとそうに違いない。

「いつも腕見てるけど、そんなに腕毛好きなの?」

「違う」

「何だ。そういう趣味があるのかと…」

 キレイなモノを直視するのが苦手なだけで。

「私が好きなのは…」

 好きなのは…。何だろう…。

 キュンとすることはあるけれど。誰かにキュンとすることなど今まであっただろうか…。

「あ。わかった。筋肉?」

「違うって…」

 ないものねだりで、細いヒトが好きなので筋肉は最低限ついていれば、くらいで。

「折角のキレッキレの筋、見せたのに…」

「そういう趣味ありませんから」

「そっか…」

 大槻くんは笑って、また私の視界に入った。

「でも、俺…。いつか小谷のこと、持ち上げるから」

「遠慮します」

「遠慮しないで」

 そんなことを言い合える関係に、少し慣れていたのかも知れない。

 ある日、大槻くんが告白される現場にたまたま遭遇してしまった…。

 キレイなコだ。お似合いだなって…。

 やっぱり、大槻くんにはああいう人が隣にいた方がいいんだと妙に納得してしまった。

「あ。小谷だ」

 気付くなよ。そして、近付くな。とばかりに逃げた。

 持久力のない私が大槻くんに勝てるワケもなく、捕まることなんて分かってるのに…。

「待て、って…」

「はぁ…はぁ…」

 首を横に振るのが精一杯の私に比べて、大槻くんは少し息が上がってるだけで余裕がある。

 本当に、無理…。

「小谷、大丈夫…?」

 その場に倒れ込んだ私の傍に、大槻くんが座る音が聞こえた。

「ごめんな。無理させて…。でも」

 私の視界には、大槻くんの背中が見えてて、線が細いのにその背中は大きく感じた…。

「何で、逃げたの…?」

「逃げて、ない…」

「逃げたじゃん…」

 肩を揺らして笑ってるけど、あのキレイなコと付き合うことになったのかな…。

 胸がズキズキする…。走ったからかな…。

「帰ろうとしただけだよ…」

「それ言うなら、俺もだよ」

 何、それ…。って言って、お互い笑った。

「帰ろう」

「もうちょっと休憩して、いい?」

「いいよ…」

 でも、私となんか一緒に帰っていいの?

「大槻くん、彼女は?」

「かのじょ??」

 あまりしっくり来ない質問だったので、首を傾げる大槻くんに、

「さっきの」

「あぁ、さっきの…。ちゃんと断ったよ」

「何で?」

 思わず、思ったことをそのまま口にしてしまった…。

「嘘つきは嫌い」

「そっか…」

「何、ニヤニヤしてんの?」

「何でもないですよ」

 息切れも大分なくなったのでゆっくり起き上がった…。案の定、グラッと揺れた。

「こんな小谷、放って帰れない…」

「帰ればいいと思いますよ?」

「無理」

「無理って…」

 大槻くんが真顔で、私の顔を見つめるので私はまた目線を外す。

「次は、胸筋…?」

 いやらしいな。って言いながら、もっと見せつけて来ないでっ!!

「そういうんじゃないですって…」

 興味ないことないですけど。

 いや、どちらかと言えば興味ありますが。って、大槻くんは大槻くんだからっ!!

 私の感情がパニックになってる中、気が付けば大槻くんに頭をナデナデされていた…。

「小谷、無理するなよ…」

「うん…」

 頷いたら、視界が真っ暗になった…。

「小谷に何かあったら責任取るよ」

「う…ん…??ん??」

 今、大槻くんに抱きしめられてる。でも、その事実よりも脇肉を掴むんじゃない…。思わず、その手を撥ね退けた。

「お触りならいい」

「ちょっ…」

 掴むのは痛いから、やめて。……いや、この場合、触らないでくださいが正解なのか…?

 まぁ、大槻くんが盛大に笑ってらっしゃるからよしとしよう…。

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