第4話
『終わらせる』事に関してはほぼ全能と言えよう。
否、見栄を張った。否、万能ではあるのだ。
成獣となれば。
人界の最強定義保持者だろうと神域の最強定義保持者だろうと、最強だと世界に定義された事自体を『終わらせて』波濤の藻屑と化すだろう。
成獣となれば。
ありとあらゆる強さも魔法も奇跡とてゼルフィールの前では無力なのだ。
成獣となれば。
されど現状、幼生体に過ぎないのだが。
否、否、幼生体たる今でも相応の出力は有している。
此度はゼルフィールを遥かに超える戦闘力を持つ相手に対し、細心の注意を払って洗脳魔法を施そうとし、抵抗を警戒する余りに魔力を込めすぎた。
その所為で魔法発動に余剰とされた分の魔力が、勝手にゼルフィールの『権能:終焉』らしい性質を帯び、その方向で力を発動させてしまったと見える。
人一人洗脳するくらいではその様なことは起きない筈なのだが、獲物が獲物だけに警戒が過ぎた。
特に終了指定をしていなかったので、権能の方向性が『魂が存続するという状態を終わらせる』という形で発露してしまったのではないだろうか。
今回は『ゼルフィールの命令を断る』ことを終了指定したら、良い具合に洗脳できた様な気がする。
あらゆる者や物や事態に対して『終わらせる』事が出来る能力を持つ、というととても強そうに見えるが、実際にはそう便利ではない。
幼生体だと権能が思わぬ結果をもたらす事がとても多くて、まあまあ不便なのだ。
攻撃として使ってみようとして、ガッチガチに終了指定を固めてみようとも、何か思ってたのと違う、という結果になりがちなのだ。
いや、やってやれなくはない。
が、その際の労力が割に合わなさすぎて戦いたくないだけだ。
決して、断じて、ゼルフィールに戦闘能力が皆無とか、そういった事実は微塵もない。無いったらない。
それに人の強者は、神が定めし運命に逆らい自らの道を切り開く、という性質がとても強い。
要するに、神たるゼルフィールが定めし運命じみた『終了指定』に対し、非常に強い抵抗力を持ち、上手く『終焉』が決まらないのだ。
基本的に権能の使い勝手が悪いゼルフィールが何かを為したい時は、強い人物を洗脳して手駒とするしかないのだが、それすらも中々上手くいかない。
凡人ならともかく、手駒としたくなるような強者はそもそも洗脳魔法が効きにくいのだ。因みに洗脳魔法は邪神という出自に関係なく努力で会得した技術である。
今回は運良く獲物が心理的に動揺していたので、隙を突いて妨害のない安全な巣に持ち帰れた。
次いで念入りに洗脳しようとしたのだが、『権能:終焉』が要らん効果を発揮してしまったのだ。
せっかく苦労してさらった、戦力となって欲しかった娘の魂を消滅させてしまったのだ。とんでもない痛手だ。
弱くはないが強くもないゼルフィールにとって、活動に際し強い手駒は必須だ。
惜しい事をした。
死肉の代わりに、ゼルフィールに対してやたらと友好的なこの少女が手伝ってくれたら良いのだが。
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