第20話 夕暮れに

 次の日の朝、全校生徒に向けて校内放送。集会にすると学院側の許可やスピーチ準備など、必要な事増えるので、代表発表の前に放送という形にした。姫も教室でその放送を聞く。クラスは大騒ぎだ!


「えー、これから生徒会からの緊急放送を行います」


「先日、日本代表のサポートメンバーとして帯同していた我がカトレアサッカー部のプリンセス、伊集院姫さんが今回正式に代表になりました! 本日正午、サッカー協会から発表されます」


「素晴らしいことです! そして私達もより応援していきたいと思いますが、その前に何点がお話があります」


「まず、名前の件です。今回ご家庭の事情もあり、伊集院姫でなく中川姫という氏名で発表されます」


「次に前回の発表の時に沢山の方々がサインを貰いにいったと聞いています。伊集院さんの負担を考え、今回は校内でサインを貰う事を全面禁止にします」


「しかし、同胞諸君! 今回は伊集院さんが希望者一人ひとりにサインを書いてくれます。サインが欲しい、という皆さんは生徒会経由で依頼してください。1枚1500円です!」


「会長だめですよ、いえいえみなさん、無料です」


 何だよその寸劇……それにしても話がが違う! 抽選のはずでは……。


 反響は思うほどでもなかった。知らない人に声をかけられることも無い。登録は中川になったがサインを変える必要はない、ひめって平仮名で書いただけだから。あと前世のサインを継ぎ足す。いつ見てもカッコいい。




 お昼休み、携帯で代表発表を確認、あった!


 DF 中川 ひめ 15 聖カトレア学院


 どういう事だ! DFとは! そして登録名〜何故ひらがな?


 謎である……



△△△△△△△△△△△△△△△



 終業式が終わって夏休みになった! 嬉しい! でも結局部活だ。あー、爆発的に増加した諭吉を消費したい! でも、この高校の部活という経験はどこにも売ってないし、いつか終わる。ここは我慢するしかない。


 もう7月、日が落ちるのも遅い。部活が終わってシャワーを浴びて……姫は教室に忘れ物をしたことに気づいた。


「舞、教室に忘れ物した。夏休みのプリント全般」


「姫、ごめんね。今日は姉ちゃん来るから先に帰るね」


 結局一人で取りに行くことに。夕暮れ、静かな廊下、教室についた。


「あれ、蓮じゃん、どうしたの?」


「びっくりしたー、姫かぁ」


 蓮がいる。教室に二人きり、ドキリともしない。男はやはり対象外、姫にとってBLは敷居が高すぎる。


「どうしたの?」


「忘れ物だよ、成績表とか……」


「私と同じじゃん、奇遇だねぇ」


「やはり俺たち付き合うか……」


 半分くらいは本気なのかな、姫は両腕でバッテンを作り拒否する。ついでに舌も出して。


「冗談だって。一言言いたかった。代表おめでとう、本当に姫は凄いな」


「ありがとう、でもサインは生徒会通してね。生徒会長に叱られちゃうから」


「生徒会長って小さいよな、影でミニ子って言われてるらしいよ」


「知ってるし。そうそう蓮の彼女も小さくて可愛かったよね? その後順調?」


「…………別れた。振られたよ」


「はやっ!」


「…………」


 まあまあ気まずい。


「ねえ、蓮、男女の友情って成立するとおもう?」


「わかんねーな、俺は無理かも」


「私も無理だと思う、若い頃は。でも結婚して、子育てして、いい年のオバサンになったら、男女の友情ってあると思うよ」


「姫も老けるのかな(笑)、オバアサンになって姫って名前は結構キツイかもな(笑)」


 蓮の皮肉にも勢いがない。


「これだけ落ちてるってことは、彼女のこと好きだった?」


「うーん、今はそうかも。振られてみてそう感じる」


「じゃあ、やる事1択じゃない! もう一度蓮からアタックしなよ 当たって砕け散って太くなろう! 筋肉のように」


「あー、簡単に言ってくれるよ。姫は振られるなんてことないだろうからな」


 そんなことはない、前世では振られまくりだ。と言いたいところだが言えない。


「ウジウジしてても仕方ないじゃん、失恋も含めて青春だよ そろそろ帰ろ、そうだ! ファミレスでメシ奢ってやるよ。失恋記念だ」


 もうすぐ出来るファミレスメニュー、大盛り系商品の撮影がまだなのだ……蓮に犠牲になってもらおう!




△△△△△△△△△△△△△△△




 8月に入った。部活中心の生活、それなりに謳歌していた。そして、修羅場は突然やってくる。


「あの伊集院さん」


 部活の帰り、校門近くで声をかけられる。あー背が低い子、ロリ系で可愛い!


「峰さんでしたっけ?」


「はい、ちょっと伊集院さんとお話したくて」


「そう、峰さんは今から時間はある? それならかき氷食べに行かない?」


 実は最近できた甘味処が気になっていた。どうせ修羅場になるなら、少しでも有意義に過ごしたい。


 甘味処は混んでいた。少しして窓際の席に通される。結局姫は特製クリームあんみつを注文した。かき氷だと話してるうちに水になりそうだからだ。


「蓮のことかな。この前聞いたんだ、たまたま」


「もしかしてファミレスで、ですか?」


「あー、それは励ます会というか、メニュー制覇のためというか……」


「伊集院さんは蓮と仲いいですよね」


「そうだね、峰さんが告白した時も相談乗ったしね」


「そうなんですか? 知りませんでした。伊集院さんっ、そのー、あのー、蓮のこと好きだったりしますか?」


 少し間を取る。そして……

 

「うん、大好きだよ。でも、私ね、実は女の子の方が好きなの。そう、峰さんは女の子だから好き、でも男との恋愛とかは絶対にない!」


しかしロリだよなー。蓮が羨ましい。


「私、どこかで伊集院さんに嫉妬してる自分が嫌で……それで別れることにしたんです」


「そうなのね、それで確認に来た訳ね。峰さん、自分から告白したんでしょ、ならちゃんと責任も果たさないとね、もう一度蓮と話し合ったら?」


「そうですよね、このままだと自分勝手なダサい女ですもんね。一度話し合ってみます」


 こうして話し合いは終わった。修羅場でなくてよかった、姫は愛のキューピット? 帰りに羽根の生えてるアウターを買った。

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