第21話 代表デビュー前

 とうとう代表練習が始まった。さすがに注目される。高校生と言うことで取材はNGにしてもらった。


「会いたかったよ、姫!」


「武藤さ〜ん」


「監督〜、とりあえず紅白戦やりましょうよ!」


「しゃーないな、アップしたら紅白戦な。で姫は右サイドバックで」


 何という慧眼(けいがん)! 前世の本職に戻るとは……百花監督、神!


 紅白戦は怪我を気をつけながらのプレー、要は手抜きだ。本職なのでどこで抜けばいいのかはよく分かる。イキイキとプレーが出来る! だが、夜からは……戦術ミーティング。ダルい、眠い、帰りたい。


「姫ー、起きてるかー」


「…………」


「おい北川、起こせ」


 起こされた。この数分の眠りでアタマがスッキリ!


「みなさん、大変失礼いたしました!」


「いつも寝てるからまあいい。ここからは姫にも聞いてほしかっただけだから」


「えー、今回のアメリカ代表に秘密兵器がいるそうだ。それも姫と同じ15歳、長身のセンターフォワード。空中戦が強いのと速いのが特徴だ。左に流れることが多いから姫とのマッチアップもある。高さ対策はボール際必ず競ること、速さはどうにか対応、可愛そうだが必要なら削れ」


「そんな凄いのですか?」


「デカいからな、ウチのスタイルにはかなり厄介な選手だ、それとプレーの映像がない、紀香からの報告のみだ」


 おー楽しみ! 同じ年で身長175って、きっとモデルみたい美女なんだろうな。ガンガン止めて泣かしてやろう!



△△△△△△△△△△△△△△△



〜少しお話しましょう〜


 峰さんから連絡があった。やっと会ってくれる、姫の言う通り砕け散ってやろう! 待ちあわせは最近オープンした甘味処、あんみつでも食うか……。


 峰さんは先に来ていた。


「峰さん早いね、待たせたかな?」


「暑ったから先にお店入ってたの。あ、さゆりって呼んでよ。気持ち悪い」


 なんかいい感じ、復縁できるのか……。


「ごめん、何頼んだの?」


「特製クリームあんみつ、トッピングイチゴ」


「じゃあオレも同じやつにしようかな」


 さゆりは漫研に入っている、まずは部活の話をする。蓮は帰宅部なので聞き役、そしてカトレア流宿題の話。作業的な宿題がない代わりに何かひとつ提出する。それ提出しないと……退学だ。なので夏休みは自然とその話題になる。


「そう言えばもうすぐ伊集院さん代表デビューね」


「あー、そうだな」


「連絡とかって来てるの」


「来るわけないじゃん。この前も言っただろ、今まで連絡来たのは3回だけだって 畏れ多くて」


「そうなんだ。実はね、この前このお店で伊集院さんとお話したの」


(あー、それは教えてほしいかった。姫のやつー)


「話ってどんな話?」


「伊集院さんが蓮のことどう思ってるか聞いてみた。大好きだって言ってたよ」


「だろうな姫ならそう言うよ、loveでもlikeでもない、Favoriteって事でだろ?」


「蓮も面白い表現するね、その通りかも。で私はね、likeらしい」


「あいつは女好きだ! 恋愛感情ではないらしいが」


「で、伊集院さんに言われたの、もう一度話してみてって、蓮と。やっぱ蓮といると楽しい」


「オレも楽しい。でもさゆりは度胸あるな。うちのクラスで姫に話しかける人なんてごく少数、みんな勇気を振り絞って話すんだよ」


「可愛いのも度を越してるもんね、私、あの人好き、Loveかも(笑)」


「振られるぞ、その後オレが慰めてやる」


「言い方がイヤらしい」


「ねぇ、さゆり、オレから告白する、付き合ってほしい」


「はい」


 改めて付き合うことになった蓮、まずは姫に報告だ。もう23時を過ぎてるがSNSで報告、すぐに連絡が来る


 〜イェーイ〜


 なに? ひと言かい



△△△△△△△△△△△△△△△



「何よー、日本に戻ってくるなら代表にも顔出してよー」


 百花は遅くに自宅にやってきてソファーにダイブした紀香に声をかける。


「いやー、疲れた。私忙しいのよ。とりあえずビール頂戴。法事って疲れるわね、恩田さんには世話になったからさ」


「小学生の時の恩師よね」


「そうそう、小学生の時にはもうジイさんだったからなぁ。ヒャーウメー!」


ビールを一気に飲み干す。


「この前言っていた面白い動画ってなに? 今から観れるの」


「あるわよー、観たい?」


「モモさんのオススメは外した事ないし」


 百花は例の動画を再生する。


「えー、カトレアのグランドじゃん。懐かしい! これ紅白戦? みんなかわいいー、この時は誰でもそう見えるのよね」


「私達は劣化したな。特に心が……」


「あれ! この子……かわいい」


 そこか、と思ったが紀香は見入っている。


「この可愛い子、レベル違い過ぎだな、私より数段上じゃん」


「そうでしょ。日本女子サッカー界の3人目のレジェンドになる子だから」


「そういう事なら、私引退するわ、この子ボランチとかで使うと面白いかもね」


「この子と一緒にサッカーやりたいとは思わない?」


「…………ない」


「じゃこの子を指導したいとは」


「絶対に思わない! 教えることなんてないよ、この子は天才の中でも天才よ、普通の天才の私が思うんだから!」


「でも……この子がプレーしてるなら試合観に行きたいかも」


「ならコッソリ観に来てよ、アメリカ戦。この子召集してるこら」


「モモさん、チケットとかある?」


 百花の思惑通りだ。これで紀香は代表復帰するだろう。

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