第19話 充実の日常

 代表問題は解決、仲良し4人組には速報で報告済み。発表はまだ先だから学院生活の日常が戻ってきた。授業してからのお昼は屋上、放課後は部活。部活後に舞と2人で駅前のファミレス、メニュー作りで〜2人の担当はスイーツと小皿料理……いつも部活後は遅くなり夕飯前になってしまうので配慮してもらった。


「今一番しんどいの頼んだモノ食べ切ることなんだよね。姫はここで食べて夕飯どうしてる? 減らしてる?」


「私はガッツリ! でも白米は抜き。カロリー計算もしてるから太ることはなしっ!


 実は……前世ではダイエットマニアだった。なので食べ物を見れば大まかだがカロリーと塩分がわかる。


「私なんか食べた分だけ太るんだよね、どうしたらいいのかな?」


「豆タンクからコンビナートにグレードアップしようよ! もうこれで世界的プレーヤーだ(笑)」


 舞のあだ名は豆タンクが固定化してる。もちろん太っている訳ではない、体幹がしっかりしていて肉づきがいい。それほど体躯はないが、当たり負けはしない。


「バーカ、うるせえ  ナ カ ガ ワ さん!」


 何という身のない会話、楽しい。でも姫はこの時間が無限に続かない事を知っている、一期一会である。舞と今日この時間、こうして話せていること、はもう来ない。明日も同じルーティンでファミレスでこうしているだろう、しかしそれは明日の一期一会である。何気ない日常であっても時間はもう戻らない……。


 ファミレスからの帰り道、姫はそう考えを巡らせる。



△△△△△△△△△△△△△△△



「では代表選出はこれでいいかな?」


「いいでしょう。現状ではこれが最良です」


「紀香は残念だが、新ヒロイン候補も召集したからな、華々しくデビューさせてあげたいものだ、まだ15なんだろ? プレーの質を落とさなければスターになる、正にサッカー界のプリンセスだ ハ ハ ハ」


 百花はこの協会強化部長が嫌いだ。どん底に低迷している女子サッカーの再建を目指しているのは同じだが、百花は強くなること、また世界大会で優勝することこそ、その道だと信念がある。選手を芸能タレントのようには扱いたくない。


「夏のアメリカとのAマッチが実現したのはモモちゃんのお手柄だった。アメリカも予選前の大切な時期、新戦力も試すようだしな」


 部長は百花にも馴れ馴れしい。長く協会に関わっていて、強権を持っているから仕方ない。


「部長、それとアメリカも15歳の超新星がいるらしいですよ。紀香が話してました、リジーとかいう」


「初耳だな」


「今回のAマッチでテストしてくるかもしれませんね、まだ代表発表はしてないですが……」


「リジーってことはエリザベスか! アメリカの女王対日本の皇女って感じで盛り上がりそうではないか!」


 アイドルの対決のような側面が盛り上がっては困るのだが……なるようになるか。


 会議が終わったあと、電話がはいる。


「もしもし、お疲れ様です。武藤です」


「おつかれさん、代表決まったよ、万事抜かりなしってとこだ……またキャプテン頼むな」


「紀香さんは来ないのですね……」


「会議前に正式に代表辞退の連絡があったよ、表向きは怪我だそうだ」


「では姫は?」


「それは大丈夫だった。家庭の事情で登録名を変えるってことも大丈夫、次回は代表デビューできるよ」


「それは良かったです! アメリカ相手に楽しみですよね、あの子やりますよー!」


「そうだな、中川にはやってもらわねば」




△△△△△△△△△△△△△△△△




 明日は代表発表の日である。平穏な日々も明日で終わる。学院は明後日が終業式、2日間だけの辛抱だ。大騒ぎの対応は生徒会にお願いして対策済み、初めて生徒会長なるお方に挨拶に行く。


「こんにちは、伊集院です。」


「あら、早いのね」


 いかにも優秀、という印象のお嬢様が座ってる。可愛い、権力者には見えない。


「姫、こちら生徒会長の沢田さん」


 華もいる。沢田さんを紹介される。立ち上がり握手……なに? 会長小さくね? 姫は小さな方ではない、でも完全に見下ろしている。


「あー、伊集院さん、今ちっせーって思ったでしょ」


「いえいえそんなこと……私は器の大きさで人物を見ておりますので」


「心眼だな。華の言う通り面白いやつだ、だがこの小さな身体に反比例して大きな権力がある、だから大きな身体で威嚇する必要もないんだよ」


「なあ権力は欲しくないか?」


 この質問答えづらい。


「今のところ困ったことも無いので、大丈夫です」


「伊集院の容姿なら権力は必要ないか、何か欲しいものってあるの?」


「はい、あります。たくさんの思い出です」


「ふーん」


「会長、早く詳細を詰めてしまいましょう!」




 華の一言からミーティングが始まる。会長と華と姫、あとは会計の男子、少しすると副会長の野呂さんが参加する。野呂さんは会長と違ってデカい、背も胸も……。


 全校生徒への広報を終業式で行うことは決まっている。姫が相談したかったのは……姫に対してのサイン攻めの件である。前回の代表発表の時に相当数のサインを書いて苦労した。


「ミニ子、これ姫ちゃんの負担大きすぎない? サインは何人かで手分けして書いて配布するってのはどうかな?」


「副会長、その呼び方は控えてください。私は今、権力によって背が続伸中なのですから。それに姫ちゃんが書かないってことはニセモノのサインじゃない、却下」


「では、抽選にしては?」


 うれしいことだ、直接サインを貰うことは禁止して、生徒会が主導で申請制又は抽選……サインする枚数がかなり少なくて済む、姫も無尽蔵に書きたくない。

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