第18話 姫の過去

 試験はどうにか終了。話し合いは面倒だが……本日19時から、何故か伊集院家での話し合い。ダブル白井監督に滝川理事長、藤川先生、私の両親という、物々しい組み合わせである。


「姫、今日話し合いなんだって?」


「そうなんだよね、百花監督も来るから、私の代わりに舞を推薦しておこうか?」


「冗談でもやめてよ。私はU20の世界大会目指してるの」


 嫉妬とかはもう無くなり冗談も言える、やはり友達はいいものである。


「でもなんで代表入りで会議なの? 可愛いからとか、そういう理由なら首絞めたい」


 よかった絞められない。そうではないが詳しくは言えない。


「色々あるのよ、記憶喪失とか絡んでて」

 

(いつか舞には話そう……全てを……)


 試験後はどうしてもボールが蹴りたくなる。話し合いの時間まで部活に顔を出した。


 久しぶりに部活で汗を流す。新チームは咲さんが中心、姫も当然トップチームだ。今年は例年になく人数が少ないのでチーム分けはせずに練習することになった。


 そして、自宅での話し合いが行われる。




△△△△△△△△△△△△△△△




 姫は早めに上がり、自宅に戻る。食事を済ませるともう19時だ。パパが戻り、ダブル白井監督が来た。滝川理事長と藤川先生も程なく来て全員揃う。


「本日はありがとうございます。日本代表監督の白井と申します。姫さんを是非代表に選出したいのですが、カトレア学院の滝川理事長より、一度話し合うべきという提案がありみなさんにお時間頂きました。よろしくお願いします」


 百花監督ちゃんとしてる。続いて滝川理事長、


「では問題になることを私から説明します。白井監督には伝えてませんが、姫さんは当学院に入学する前、事故がありました。意識不明の重体になり、今も高校入学前の記憶がありません」


 少し間を開ける。


「そして、その事故の原因が問題で、姫さんは小学校5年生の夏から中学卒業までかなりのイジメ被害を受けています」


 へー? 小学生からなんだ。姫は小学生時代のイジメについて記憶が皆無。両親からも聞いたことない。


「やはり代表として世に出ると、その当時のことが露見し姫さんとそのご家族に多大な心労とご迷惑かかることが予想されます、その事でお集まり頂いた次第です」


「実はその当時からイジメについて、姫さんの母であり、私のカトレア時代の同級生でもあるカエデさんから相談されておりました」


 姫ママが滝川理事長の事を話したがらない訳だ。姫はママが発言


「理事長からは入学に際して姫の姓名を変えるのはどうかと提案を受けました。でもそれを私が姫に言えなくて……」


 話し合いは続いている。無言の姫パパが立ち上がり何かを戸棚の奥から何かを持ってきた。初めてみた、卒アルだ。姫は中学時代の写真を一枚も見たことない、両親の配慮だと分かっていた。


「姫の小学校と中学校の卒業アルバムです。少し見て頂けませんか?」


 そこには姫? が写ってる。伊集院姫と名前のある女の子、確かに面影はある。だが……別人みたい。醜いアヒルの子だ!


「この頃の姫は心がとても疲れていて、こんな表情でした。そして中学でも……」


 丸い枠に伊集院と書いてある。うーん、これ半年前の私? 美的伸びしろはかなり感じられる。


「姫、そしてみなさんにご提案なのですが、名前の登録だけ変えて代表参加ってことはどうでしょう。サッカー協会の規定に抵触するかも知れませんが、法律的には父方の姓を名乗ることも、イジメを理由に名前を変えることもできます」


「うーん、登録名なら変えてもいいのてすけど……父方を名乗るのは前例がありますので可能です。協会には問い合わせてみます」


 姫パパと理事長のやり取り。意を決して姫が口を開く


「ちょっと待ってください。私は名前は変えたくありません、親しい友達はみんな姫って呼んでくれてる。だから名前の変更は嫌です」


「苗字の方は特徴あるからね、これは変えられるなら変えた方がいいと思うのですが」


 と藤川先生。


「ねえ、お父さん、私がお父さんの旧姓名乗ると中川姫って感じ? そもそもさ、この見た目の違いがあるなら分からないと思いますが……」


「そうじゃなくて」


 パパとママが同時に姫の言葉を遮る。


「滝川理事長はご存知かと思いますが、姫のイジメには警察も動いています、イジメ動画の存在があって……姫が意識不明になって訴訟とかそういう場合ではなくなってしまいましたが……」


 姫は驚いた。なるほど……そこまで慎重になる訳だ。


「私、みなさんに宣言します。例え何があろうと、日本代表でプレーしたい、何がバレてもいい、文秋砲を食らってもいい、私、そんな事に負けたりしません!」


 まあバレたところで他人事。ココロは他人なのだ。恐らくどんな過去の衝撃も客観的に感じられる。


「伊集院は中川に変えましょう。私は伊集院さんの担任として少しでも彼女を守りたい、リスクを減らしたい」


 藤川先生の一言、これで話は決した。滝川理事長と百花監督で協会と協議してくれるそうだ。あとはお任せするしかない。



 監督、先生方が帰ったあと家族3人でも話し合った。


「ママって滝川理事長の知り合いだったのは知ってたけど、親しかったんだね、もしかして私って裏口?」


「何言ってんの、表口よ。実力で合格したのよ、でも意識不明になって、目覚めるまで待ってくれたのは特別なことかも」


「違法でないなら問題ないね、カトレアは社会の不平等賛成派だから」


「お父さん、お母さん、どんなことがあってもきっと大丈夫。私は強くなったの、良き友人、そしてまだ過去の思い出は戻らないけど、素敵なお父さんとお母さんのおかげて」


「姫……」


「もう、恥ずかしいからこれ以上褒めないよ、今は忘れて後で思い出して喜んでね!」


 3人に笑顔が戻る。


 しかし、これから両親をどうやって呼ぼう……この際パパママは卒業したい。今日は混同してお父さんお母さんと呼んでしまった。どうでもいい悩みの方が姫には重要だ。

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