第12話 4人の絆

 凄い言い合いだった……舞の気持ちは察しが付いていた。姫の記憶の話は耳から離れない、両親の記憶がないって……。壮絶な叩き合いを見届けた華は安堵のため息をつく。華は教室を出たフリをして隣の教室で事の行く末を見届けていた。そして、いつものファミレスに向かう。


「華、結局どうなったの?」


「多分仲直り出来たと思うよ。香菜がいなくて良かったかも、壮絶バトルだったから」


 香菜はファミレスで待っていた。舞が相談したのは香菜だった。香菜は華に相談、そんな2人の協力があって実現した話し合いの場だったのである。


「私居たら泣いちゃうかも……」


「それ確実」


 2人で笑う。華は香菜が2人のことをとても心配してたことを知っている。舞から姫の悪口が送信される度に華に相談してくる。どう対処すればいいかも分からず、電話口でよく泣いていた。香菜はそんな子だ。


「また4人で勉強会とか出来るようになる?」


「出来るとは思うけどさ、香菜、舞も姫もサッカーの日本代表なんだよ? そんなに暇ではないかもね」


「2人とも代表辞めないかな、喧嘩しなくて済むし。卒業してからやればいいのにね」


 香菜はやはり天然で素直。非現実的だが一理ある。



 次の日、舞はソウルへ。姫は午前中登校だから姫に捕まるな……華の予想は大当たり。


「華さん、お昼お話しましょ」


 と言うことで昼は舞抜きの3人で屋上へ。


「華ちゃん、香菜ちゃん、本当にありがとうね。2人がいなかったら舞とは絶交だったよ……恐らく」


「お2人には我が学院の栄誉の為、サッカーで頑張っもらわないとなりませんからね! 生徒会としても」


 華は生徒会の役員に抜擢されていた。役員人事は選挙で勝利した生徒会長が任命権を持っていて、会長の独断と偏見で決定されるが、成績優秀な華は以前からマークされていた。


「それ嫌いじゃないよ」


 姫が華に笑いかける。華は人と人の絆を感じた、人に対して興味を持ち、人の為に何かをしたことは初めてだ。学院に入って良かったと思う。


「えー、華ちゃん、香菜ちゃん、お礼も兼ねてなんだけど、ひとつ提案がありま〜す」


 先ず確認したいことは……。この提案、実現するのだろうか。



△△△△△△△△△△△△△△△



 水曜日、強豪オーストラリアとの親善試合、姫はスタンドで観戦することになった。試合はつまらない展開に終始してスコアレス、試合よりも友人たちとのグループSNSが楽しい。


「伊集院、お前ちゃんと試合観てるのか?」


「すみません、今、舞に試合展開を実況してるところで……サッカーミーティングですよ」


 嘘っぱちである。やり取りの内容は香菜の恋愛について。香菜以外は恋愛にあまり興味ない、華も舞も恋の駆け引きとか分からないし。香菜が悩んでいるからみんなで恋愛成就の作戦を立てている。しかしまぁ、香菜の悩みには真摯な2人、だが、トンチンカンな答え……爆笑……おっと。


 試合はそのままスコアレスドロー。こりゃミーティング長そうだ。4人で恋バナかぁ、高校生らしくなったものだ。



△△△△△△△△△△△△△△△




「おまたせー」


 試合の翌日、午前中に調整をしたあとはリフレッシュを兼ねてオフだ。代表帯同の今週は学校も行かなくていい。武藤さんと北見さんに誘われた。


「後で姫の友達も2人来るのよね? それまで付き合ってね」


 行き先は聞いていない。車の着いた先は〜バッティングセンター? エステとか言ってたけど……。


「よしー、ホームラン競争な。何賭ける?」


「姫もいるんだから現金はなしにしてください、武藤さん」


「私はお金でやりたいですっ! きっと私が勝ちますから!」


 片腹痛い、この姫にバッティングを挑むとは……内心そう思う。この運動能力と前世の記憶で負ける気がしない。結局お金ではなくて、新作化粧品を賭けることに。もちろん、姫の圧勝〜あー、化粧品いらねー。


「何やってもすげーな、姫は。姫は彼氏とかいるの?」


「いません……学校も女子主体だし、声掛けてくる猿どもには全く興味ないし」


「ふーん、じゃあ気になる女の子は?」


 ごめんなさい、たくさんいます。武藤さん、鋭い。


「お嫁さんにしたい女子が3人います! きっと幸せにします。武藤さんはどうなのですか?」


「武藤さんには聞かないほうがいいよ、姫。得点も多いけど失点も多いから参考にはならん」


北見さんからフォローが入る。


「で今日来るのは姫のヨメ候補なのね? 楽しみ。もう一人は今日来ないの? 喧嘩とか?」


「実は……ソウルにいます。遠藤舞って名前なんですけどご存知ですか?」


「え? あーあの? U19のボランチだよね。豆タンクみたいな、そうかあの子カトレアだもんな、同級生か」


 武藤さん、知ってるのか。


「じゃあ、遠藤がパパだね(笑)姫は奥様だぁ」


「違います、私が旦那様です! 3人は ワ タ シ の嫁です!」


 アホな会話だ……。


 バッティングセンターのあとはエステへ。気持ちいい、癒やされる。施術するのは若いお姉さん、笑顔が耐えない美人さん、でも心なしかボディタッチ多めのような気がする。





 17時になった。華と香菜が合流。お店は武藤さん行きつけの和食店。実は前世でも接待で利用していたお店である。


「では新たな出逢いと青春に、カンパ~イ」


 武藤さんが音頭を取る。華と香菜には事前に武藤さん、北川さんの攻略法を伝授してある。


「ねね、2人は姫と結婚するの?」


 いきなりの展開、北川ー。


「はい、プロポーズされたら断れません!」


「じゃあ第1婦人は?」


「そりゃ舞ですよ。私と香菜はめかけでいいです。でも香菜はオトコも囲みますから、一番の悪女役ですね」


「私悪役なの? でも姫に抱かれたい……だから悪女でいい」


 意外な香菜の対応に一同フリーズ、そして爆笑。なんなのこの会話、香菜まで。打ち解けた証拠かな。五人の女子会は門限まで続いた。


 解散後舞に連絡、華や香菜からも連絡受けていた舞、相当羨ましそう。でも舞、あなたが正妻だからね!

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