第9話 舞
〜話は伊集院家での勉強会に遡る〜
舞は少し気が重い。なぜってスポーツ推薦の舞にとっては勉強は鬼門、人並み以上であるとは自負してるが、カトレアのレベルを考えるとため息が出る。
(ゆっくりでもいいよね、お昼過ぎて……)
ちょうど12時半過ぎに着くように自宅を出た。
「こんにちはー」
思い通り12時半過ぎに到着。早速お弁当タイムとなる。相変わらず姫は可愛い。薄いピンクの部屋着、天使だ。お弁当はリビング、話題は洋服のことやクラスのヘタレ男子のこと。さすがにここでサッカー談義は出来ない。
食べ終わると姫のお部屋へ! 意外にシンプルで白が基調になっている。ぬいぐるみはいない。いや、恐らく私達が来るので何処かに隠したのかも……。
3時のおやつ、姫がリビングに降りる。舞は華と香菜に小声で話した。
「姫の部屋ってさ、ぬいぐるみとか可愛いものないよね。何処かに隠してると思うんだけどどう思う?」
「それは興味深い」「ねね、あそこ怪しくない?」
2人もノリノリだ。
「姫が来る前に見つけちゃおうよ!」
「あのクローゼット怪しいよね」
「開けちゃおうよ」
舞はおもしろ半分でクローゼットを開けてみた……。そこにあったのはぬいぐるみでも可愛い洋服でもセクシー下着でもない。無数のトロフィーや賞状であった。陸上大会のもの、そしてピアノコンクールのもの、特に目を引いたのは中学日本記録と書いてある賞状。3人で目を見合わせる。
「これ見ちゃいけないものよね」
「黙ってるしかない、閉めよう」
クローゼットはこうして閉じられた。舞も言葉がない。姫が戻ると凄いお菓子の盛り合わせを持ってきた。どうやら、お金がたくさん増えたらしい。
3時のおやつの後も、寿司の出前のあとも普通以上に言葉数が少ない。お陰で試験勉強は捗った。
「ではまた明日ねー、姫」
3人で姫の家を後にする。堰を切ったように姫の話題。
「トロフィー凄かった。陸上大会のやつとピアノコンクールだったかな」
「そうそう、中学日本記録って書いてあったよ。だからサッカー部入部出来たんだね」
「あなた達何を見ていたの? 全日本ピアノコンクールのトロフィーもあったわよ、これ世界進出とかにも繋がる凄い大会よ」
さすが華、雑学なら造形深い。舞は音楽はカラオケのみなので、余計にビックリする。
「でも……姫は中学時代の記憶が一切ないのよね」
空気が重い。姫が隠す気持ちも分かる。トロフィーが見つかれば当然私達は質問するだろう。でも姫は答えられない。そんなやり取りか容易に想像できる。
「今日のことは億り人の事を含めて3人だけの秘密にしよう」
華が提案する。もちろん全員頷いた。
△△△△△△△△△△△△△△△
試験期間がスタートした。舞は部室棟に向かっている。試験初日、赤点は回避した手応えはある。気晴らしに自主練習をしにきた。着替えてグラウンドに出ると進路がほぼ決まっているトップチームの3年生7名がいた。
「おー舞、試験で精神やられたか(笑)」
「お疲れ様っす。そのとおりです。ボール蹴らないと私潰れます」
そんなやり取りをした。リフティングしたり鳥かごしたり、軽く運動することで気分が晴れてきた。
部室棟に戻ると白井監督がいた。
「ちょうど良かった。さっき姉さんから連絡あって林と斎藤、そして遠藤、3人が次のU19のアジア選手権の遠征メンバーに選ばれた。あー、それとあと一人、同時に行われる代表選の候補に伊集院が特別召集されるみたいだ。伊集院は来てないのか……」
衝撃だった。自分が上のカテゴリーの代表に選出されたことも、姫が代表召集されたことも。あのトロフィーを思い出す、姫は全国レベルの運動能力がある、悔しいけど彼女にはより高いステージがお似合いだ。
そう自分に言い聞かせた。
次の日、そのビックニュースを姫に伝えようと思った。直接話そう。しかしその機会はなかった。藤川先生から理事長室に呼ばれたとクラスの男子が話していた。まぁ、別に先に伝えなくても今日選出聞くんだ。
誰もが振り向く美貌、類稀な運動能力で代表候補選出、ピアノという隠れた才能を持ち、そして……とても性格が良い。舞は姫に対して初めて嫉妬を覚えた。
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