第7話 涙の余波、嬉しいこと

「おはよー舞、香菜」


「おはよー」「おはよー」


 ううっ、気まずい。休むって選択肢は考えられないし、登校は必須。周囲がぎこちない、そりゃそうだ、打ち上げを最後台無しにしてしまったから。もちろんいつもの様に明るく振る舞うことも出来る。でもそれは余りに違和感を与える、ここはいつもより大人しめにして、徐々に元気になる作戦かな。姫はすっかり立ち直っている。そして試験前で部活は今週から自主練習だ。

 

 お昼になる前藤川先生に呼ばれた。多分昨日の事だろう。言い訳も説明も思いつかない。こういう時はその場の対応、ぶっつけ本番が一番! なるようにしかならない。





「失礼しまぁす」


「伊集院、ゴメンなお昼に呼び出して……私も今日はお弁当にしたから食べながら昨日の続きをしよう!」


 先生、この入りは凄いよ! お弁当まで用意して。


「分かりました。そう思ってお茶買っておきました、はい、これ先生の分です。お金は大丈夫です、この前700円くじで当たったやつだからタダなので」


 私も負けてはいられない。お弁当想定でお茶を事前購入。


「なら頂くわ。ありがとう、伊集院。では頂きます」


 こうしてお弁当面談は始まる。


「ねえ、伊集院 大丈夫? もちろん昨日の事。実は伊集院のこと、理事長から色々聞いてるの」


 そうか、先生は記憶喪失の事だけでなく、姫が以前壮絶なイジメに遭ってたことや意識不明になったことも知っているのか。これは涙の口実になる。


「先生、心配してくれてありがとうございます。実は私もわからないんですよ、つらい経験を思い出してなのか……」


「伊集院の詳しい話、クラスの子たちには話してないんだよ。今のところ必要ないという判断だから」


「そうですね、変な伝わり方しても嫌ですし、クラスのみんなはとても優秀で物分りもいいけど、まだ子供ですからね」


 あっ、先生と会話をしていると保つい護者目線になってしまう、気をつけなければ。


「伊集院、人って自分がとても傷ついていても気付かない振りをしたり、本当に気付かないこともある。自分に嘘をついて胸の内に隠すことも。だから伊集院のことが心配なんだ」


 もう嫁確定かも……本当に素敵な女性。


「そうかも知れませんね。でも平気なんです、少しずつですが友達も出来てますし、昨日もあれからたくさん連絡が来て……」


 その回答に先生は少し安心した様子。その後はどちらかと言うと楽しい話、部活や友達の事を話した。藤川先生は鋭いから、これからも気をつけなければ。



△△△△△△△△△△△△△△△



「姫心配よねー。先生と面談かぁ。昨日のことよね」


 華は心配でたまらない。昨日、香菜はその場にいたが華は家族のイベントで不参加であった。今日は3人、姫が入学するまでは日常であったが、ここ数週は姫がいる。4人の中でも姫が中心になっていた。


「考えてみればさ、姫って自分のことあまり話さないよね?」


「そりゃそうでしよ、記憶喪失って話だし。無くなった記憶ってとても辛いことで、それを無意識に思い出して泣いちゃったとかかな」


「確かに。本人も涙が出てビックリした様子だった」


 舞は会話を聞いている。恐らく二人よりも姫と一緒に過ごす時間は長い。何か気付けることは……なかった。


「姫、気まずそうにしてたから、午後からはいつも通りにしようよ。もう無かった事にしてさ」


 舞の一言に全員同意、そう考えても仕方のないことだから考えないのが一番!



△△△△△△△△△△△△△△△



 姫は教室に戻っていた。切り替えて中間テストのことを考えている〜英語全般は勉強しなくてもどうにかなる、数学は内容簡単だから思い出すのが作業。問題は……物理基礎、世界史あたりかな。暗記科目は時間をかければ。国語は捨てよう。そんなことを考えていると声がかかる


「ねえ伊集院さん、あのー、そのー、昨日はごめんなさい。カラオケとか苦手だったのかな? 無理に振ってしまって……本当にごめん!」


 渡邉だ。やはり男子だな、思考が浅い! カラオケが苦手ってどんな勘違い(笑) でもこいつ度胸はあるな、素直だし、案外イイやつなのかも。周囲も注目している。まあ許してやるか


「絶対に許さないわ、渡邉。だからこれから3年間、私のことをヒメサマと呼びなさい! そこの男子ー、あなた達も連帯責任、これからこのクラス男子6名、オレサマをヒメサマと呼ぶこと!」


 これで解決だろ。教室の空気は一気に和む。ちょうど屋上から戻ってきた舞が近づいてくる。「ナイスだな」そう囁かれた。



 部活は試験休み。トップチームの大半が自主練習をしているが私は行かない。勉強は暗記モノ中心、勉強しないでいい数教科で空いた時間は……もちろん遊ぶ! 制服を纏(まと)ってのショッピングやカフェは注目の的になる、何という優越感。性格が歪んできたのかも、そう思う。今日は金曜日。明日は仲良し3人と自宅てお勉強! そしてその買い出し。ちょうど17時を過ぎたころか……一通のニュース速報!


「㈱ミライがミサイル防衛システム開発に着手」


 きたー! BIGニュース! ミサイル防衛システム、これは画期的、実現すればミサイルの戦略核兵器全般が不要になる。それより仕込んであった取得単価325円の4700株、何倍になるのだろ! 金はいくらあっても邪魔にはならない、とりあえず買い物先はデパ地下に変更! 


 デパ地下では高級スイーツやチョコレート、メロンまで買ってしまった! 自宅に戻っても興奮が醒めない。姫パパどうしたのかな? 実は姫パパにも勧めておいた。


「ただいまー」


 ちょうどリビングに降りた時、姫パパ帰宅


「おかえりー」


 姫ママはキッチン、すかさず話しかけてくる、小声で、


「姫ー、ありがとう! でもママにはナイショでもいいかな? で幾らまで持ってればいい?」


「良かったねパパ。予想もつかないからお金が必要なときに少しずつ売ったらどう?」


 これ唯一のチート作戦! セレブなお小遣いを手に入れた。そしてママにはパパのことも含めて全てを話した……ナイショで。

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