第5話 練習試合
早いものでJKデビューから2週間、クラスのみんなとも打ち解けてきた。体育祭なるものがあったが、姫は不参加。もう4月末には出場種目と選手が決まっていたらしい。この運動能力が披露出来ないのは口惜しいが仕方ない。近々、体育祭の打ち上げがあるらしい。これも楽しみ! 姫は持ち前のスキル、配慮と気遣いをフル活用し問題なく学院生活を謳歌している。
放課後は部活へ。部室棟はサッカー部専用になっていて、その前には専用のサッカーグラウンド。校舎からは少し歩く。9日目ともなると部活にも慣れてきたが、依然Bチームでは浮いた存在。あまりチームメイトとは話せていない。プレーまで合わせる必要もないから放置。サッカー部は総勢50名を超えている。全員の名前と顔を集合写真もなしに2週間で合致させるのはさすがに不可能で絞って覚えるしかない。とにかくキーになる人を覚えなくては。
部長さんは3年林さん、いかにもボーイッシュで女子に人気。プレイは見たことないがトップ下らしい。副部長は斎藤さん、話をしたことはない。長身のセンターバック。ボランチは舞、豆タンクのような力強さがある姫の友人。トップチームは3年生主体のチームで2年生は2名、1年生は舞だけという構成。チームミーティングで発言する先輩からコツコツ覚えるとしよう!
練習の後半、監督に呼ばれる。カトレア学院サッカー部監督、白井百合子、元日本代表の左サイドバック。茶色がかった髪はロングでストレート、彼女もカトレア出身だけあって美形だ。指導は厳しいらしい。
「伊集院、きたか。明日の練習試合からトップチームに合流しろ、要件以上!」
「分かりました」
短い指令、それだけ? とは思ったが、姫は心の中で喜んだ。正直Bチームでは浮いていた。無視されるのは構わないが、プレーの質が合わない。そうするとサッカーは楽しくない……。で、明日土曜日は練習試合がある。それも全国常連の強豪、日吉学園。トップチームの試合も観られるし、試合にも出られるかも知れない。個人の特長を知っておかないと何の準備も出来ない。舞とも一緒だし。明日からが楽しみだ!
△△△△△△△△△△△△△△
百合子は自宅に戻っていた。タワーマンションの最上階、遠くには観覧車、横浜の港町の夜景が一望できる。美和に電話しておくか……。黒川美和、カトレアサッカー部時代のチームメイト、今は教員になりあろう事が宿敵日吉学園の教師となりサッカー部顧問をしている。
「もしもし、美和ー、白井で〜す」
「百合子じゃない、明日の練習試合はよろしくね。でどうしたの?」
「実は凄い逸材が入部してきて……紀香より上かも」
「何言ってるの、紀香はバロンドール受賞者よ?」
黒川紀香、今はアメリカでプレーしている日本のレジェンド。二人目となる日本人バロンドール受賞者である。
「明日トップチームの試合で15分出すからさ、とにかく楽しみにしててね」
「はいはいわかりました。で? それが用件ではないでしょ」
「あのさぁ、明日の試合撮影したいんだけどいいかな? 姉さんにも見てほしくて……」
「そこまでなの? 別に構わないけど。モモさん今はアメリカでしょ、帰ってきたら代表召集よね」
モモさん〜白井百花(しらいももか)、百合子の姉である。現女子日本代表の監督でもある。
「あんな子がウチの高校にいるのに、後から知ったら怒られそうだしさ。もちろん他の子にも声かかるチャンスもあるし」
「わかった。何だか明日楽しみになってきた。その子のポジションは?」
「キーパー以外は出来るって聞いてる。使い方はナイショ、日吉には負けたくないしね でもすぐわかると思うよ、まるで妖精のようだから」
「カトレアの妖精ピクシー、凄そうね……そう言えば……」
その後も百合子は美和とサッカー談義を続けた。
△△△△△△△△△△△△△△△
土曜日。快晴、視界良好! 姫はウキウキしてる。この身体能力でどこまでやれるのか楽しみで仕方ない。ちょうど校門の前を通っている。
「おはよー、姫」
「あ、おはよー舞」
「今日から一緒ね、ま今日は練習試合だからお互い出られるといいね」
「そうね、私、試合出たいっ!」
アップをしていよいよ試合準備。トップチームはさすが、球足が早いし判断も的確。更に楽しくなる。
そしていよいよ試合が始まった。姫は控え、ベンチの一番隅っこに目立たないよう座っている。監督にポジションのリクエストも聞かれたので、多分チャンスは来るだろう。舞はボランチでスタートから、トップ下は部長の林さん、センターバックは斎藤先輩、かなり強力な縦のラインだと姫は思う。
長年サッカーを観てきた姫は考える、試合は前半、まだスコアレス。日吉も相当強い。ここはスピードでカウンターかな。後半開始早々、日吉のサイドからの攻撃で失点。その後はチャンスも作れず膠着状態。
「姫、アップしとけ20分から行くぞ!」
「はいっ!」
監督から声がかかった。待ちに待った。え? でもポジションは、監督……。まあ出られりゃいいや。
「姫はワントップの田坂と交替ね、スピードで決めてきなさい!」
なんだ監督分かってるじゃん、と思いつつ、いよいよその時が来る。
「9番田坂アウトね、21番伊集院入れるからそのままワントップ、伊集院は好きにやらせろー」
監督からの指示が飛ぶ。舞とはアイコンタクト、さぁいっちょやりますか。
ファーストタッチ、舞からのフィードだ。状況は……ヒールでボール浮かせてディフェンス裏、そして駆けっこ、競争だな。思い通りにヒールでボールを浮かせてディフェンス裏へ、また駆けっこ、余裕で追いつきゴールキーパーと一対一。キックフェイントで体制を崩してからの確実にインサイドでコロコロゴール! 出場1分での初ゴール! 姫は控えめに喜ぶ、内心は歓喜に溢れているが、ここは慎ましく。
その後は姫のフェアリーショウ! ドリブルを警戒するディフェンスを尻目にあったり豪快ミドルで2点目、更に試合終了間際、マークが厳しいので来たボールをワンタッチではたいてスルーパス、それを林さんが決める。終わってみれば20分くらいの出場で2ゴール1アシスト、3対1で日吉学園に勝利した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます