第2話 念願のカトレアへ

 目を覚まして1週間くらい経つ。ここまでで驚いたことは、姫が超絶可愛いってこと。天使だよな、女神さまを思い出す。この前会った女神さまはご先祖様ってところか、お母さまもかなりの美形で女神さまによく似てる。


 身体の悪いところはない、しかし決定的なものが欠落してる、それは姫としての記憶。夢で見たくらいの豆知識しかない対策として、記憶喪失を装うことにした。姫の持つ鮮明な記憶は中年オッサンのそれしかなかった。


 病室に来るのは中学校の担任や校長、進学先の高校の関係者ばかり。同級生は一切来ないが恐らくイジメが原因であろう。友達情報を知るため携帯を手に取るが……ロックが外れない、これはいつか開けてやろう…。




 聖(セント)カトレア学院、姫が意識不明になる以前に合格した高校である。昨年まで女子高であったがこの4月から共学になったらしい。かなりの名門お嬢様学校である。吹奏楽部と女子サッカー部は全国レベル、そしてその制服はマニアの間で高額で売買されている。


 姫はロックを外した携帯で色々調べていた。事故のことも。どうやら隕石が落下したらしい。その衝撃波で車等が吹き飛び死者12名、負傷者多数と言うことである。もちろん鈴木健の名前もある。会社のホームページにも訃報が記載されている。色々思うところが出てくると身体に悪い、それ以上は検索しなかった。


 今日4月15日はその学院の理事長との面談である。入学式はとうに過ぎているが休学扱いになっているらしい。もう日常生活には支障がない、難しいのは振る舞いと言葉遣い、こればかりはオヤジ的なのだ。


 「制服すごく素敵! 今日は頑張ろうね、姫」


母である楓(かえで)通称姫ママが呟く。姫は初めてカトレアの制服を着た自分を見たが、これマジヤバ、自分とは思えない可憐な姿。高校生の頃こういう子と付き合ったらその時点で勝ち組だよな、とオヤジ心が呟く。こうして3者面談は始まった。


 病院の待合室に着くとそこには理事長らしき女性、メガネに黒髪ロングいかにもキツそう。


「こんにちは」


一通りの挨拶を済ませ席につく。


「滝川と申します。伊集院姫さんですか?」


「はい、本日はよろしくお願いします。」


「お母様、どうぞお掛けください」


 なんか感じ悪い、と思いつつ話を始める。話の内容は入学許可などの件ではなく、復学に関する話で、本人やご家族の意思確認、現状把握、時期に関することで終始ビジネスライクではあるが内容には齟齬がない。やるな滝川ちゃん!


「では、ご本人、ご家族とも了承したということで来月5月7日の復学でいいですか? 記憶に障害があることは全体広報はしませんが、伝える必要がある場合は開示すると言うことで」


「はい、問題ありません、よろしくお願いします。」


かくして姫のJKデビュー日が決定した。


 4月18日、姫は退院した。初めて? 見る自宅、リビングにはたくさんのトロフィーがある。そして自分の部屋、白が基調になっていて清楚な印象、オヤジ心の姫には過ぎた部屋だ。


 入院していた時は暇だった。実は入院中、姫の父親(通称姫パパ)には一つお願いをしていた、それは株の取引。せっかく前世の記憶持っているのだからチートなこと出来ないか考えた結果、合法的なインサイダーを思いついた。前世、ある企業の社長と仲良くしていたのだが、そこが5月からミサイル防衛システム事業というとてつもない事業を開始すること耳にしていた。お金くらいはチートで使いたい放題にしようと思い姫パパにお願いしたのだ。そしてその取引開始日は退院した18日であった。初めて? の自宅での昼食を取った後に早速株式アプリを開ける、なんと資金が200万も入ってる! ナイス姫パパ! よし、仕込んでおこう、そこから2週間かけて少しずつ㈱ミライの株を買うことにした。



 姫になって2ヶ月が経った。まだ戸惑うことは多い、例えばシャワー〜鏡に映る自身を見てつい見とれてしまう。可愛い、巨乳ではないが程よい美乳、身長は165センチでスタイル抜群。髪の毛を洗うのは大変。スキンケアは姫ママからイチから教わるが面倒この上ない。そんな中ではあるが姫ママや姫パパとは楽しくやれている。記憶の混乱を避ける為に他の親戚とは会うのを制限していることもありとても順調、そう明日は姫のJKデビュー、もう楽しみでしかない。こうして健は姫として人生の延長線〜アディショナルライフ〜を送ることになった。


 

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 「姫、支度はいい? そろそろ行くわよ」


 カエデはそう娘に声かけた。夢みたい、中学の時に壮絶なイジメに遭い、生きる気力を無くし、冬の寒空、公園で倒れていた娘。原因不明、生きる活力を無くしたように意識が戻らない娘。担当医からは、目覚めない覚悟を持つように言われたその翌日、急に目覚めた娘。記憶障害でカエデの事を覚えてない様だが、それは時間が解決してくれるだろう。とにかく神に感謝しかない。


 「はーい! 今行くー」


 そう聞こえたものの中々降りてこない。多分また鏡の前で自分の制服姿をニヤニヤと眺めているのだろう。


 娘は目覚めてから変わった。どちらかと言うと良い方向に。明るく朗らかな笑顔、自分を大切に考えてる様子、そしてかなり大人びた雰囲気。変わった言動もあるがそんな事はどうでもいい。


 「先に車に行ってるわよ」


 「待ってー」


 降りてきた娘は私の宝物だ! 今日は学校まで車で送ることになってる。娘の再出発、嬉しいことこの上ない。そしてカエデ達の夢、カエデ達も通った聖セントカトレア学院に姫が通う、それもカエデが着た制服で! カエデ達は在学当時、カトレア祭である意味でミスカトレア3連覇の美少女であった。楽しい思い出しかない。今の姫であればきっと素敵な学院生活が待っているに違いない。車の中では他愛もない話をしてる。時計台が見えてきた、そろそろね、頑張れ姫!



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 女子が9割! 女の園! それもカトレア! 姫のオヤジ心は高鳴っていた。そして教室への第一歩、担任の藤川先生の後に続いて……。藤川先生、40代くらいか、髪は短く後ろでまとめている、とても品のある女性だ。


「みなさん、おはようございます。兼ねてからお話してましたが、本日からこのクラスの仲間になる伊集院姫さんです。では自己紹介を」


「みなさん、伊集院姫と申します。少し遅れて入学の運びとなりましたが、みなさんとこの学び舎やで学べること、とても楽しみにしていました。どうかよろしくお願いします」


 話が終わった瞬間、黄色い悲鳴! キャ~カワイイ、こっち向いて〜、マジ天使〜、色々な声が聞こえてくる。しかし壮観な眺め、女子多い、何かいい匂いするし。いや、舞い上がるな、まずはこのクラスの人心掌握だ!

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