アディショナルライフ〜転生したオッサンの魂が名門女子高のカリスマになるまで
@aniki4649
姫1年生編
第1話 稀有な事故
「姫、上がれ、田坂の後ろあたりにいてワンチャンでものにしろ、武藤はボランチ、ボランチの市川が左サイド」
監督から指示が出る。
そして、チャンス到来。姫はセンターラインでボールを持っている。ドリブル開始、カバーに入るリジーを股抜きでかわす、ボールを浮かして更に二人、次の一人は足を出してくるのがわかる、反転してかわす、次はボールを右サイドのオープンスペースに蹴って二人のDFと競争、スピードでぶち抜く、あ〜、見えるボールの抜けていくイメージが、ゴール前に切れ込みマルコルーレットでシュートコースを作る。右足を振り抜く……ゴール! あれおかしい…………意識が…………。
姫は夢を見た。そこには姫をここに導いてくれた女神さまがいる。また涙を流している。無言で姫を抱きしめる。そして遠くなる……。
気が付いたのはベッドの上だった。百花監督の顔がある。
「監督……」
「あぁ、気が付いたか伊集院。どうだ? 具合は……」
「私、どうして……」
「急に倒れたんだ。安心しろ、ちゃんとゴールは決めてた」
「よかった……」
そう、姫は悟っていた。このサッカーという冒険が終わったことを……。
☆★☆★☆★☆★遡ること半年前☆★☆★☆★☆★
今日は寒い。28年叩き上げ、今の会社の代表になって2年になる。健はいつもの帰り道をコートの襟を立てて歩く。
「明日のプレゼンどうしよ、あーダルい」
ブツブツと呟きながら誰も待ってない自宅へと急ぐ。
いつものスクランブル交差点、そこで事は起こった。なんだろう? 一瞬何かが光った気がした、そして健は宙を飛んでいる。あれ? 全てがスローモーション、吹き飛ばされてる。事故か……終わったかな、そう思う間もなく意識も飛ぶ。
気がついた。が、どれ程時間が経ったかは分からない。かなり冷静に思考を巡らせる。何かの事故に遭った、で、今は走馬灯の時間なのか……健は自身の人生を振り返っていた。小さい頃はサッカーに明け暮れ怪我をするまでプロも続けた。第二の人生もかなり苦労はしたが経営者まで登りつめた。女性にはモテなかった……恋愛に不慣れだったからか結婚は失敗した、が、それも後悔はない。いやー、総じて良い人生だったなぁ。そんな回想をしていた。
ふと目を開けてみよう、そう思って開けてみた。ここは病院? 床に敷いたシートの上に自分自身が横たわっている。腕に赤いタグ、よく医療ドラマで出てくるヤツ、ダメそうだ。夢であるという小さな希望もなくなった。人が忙(せわ)しなく動いているが誰も健を気付かない、ユーレイになったのか。赤いタグの付いた健、そしてここに立ってる健〜手はある、足もある。動ける! これ、壁を通り抜けたり出来るのか! 少し興味が湧いてきて健はドアに向かった。おー、通り抜けた! ドアの向こうは通路になっている。誰も気づかないのはユーレイになったせいだろう、果たして死神や閻魔様に会えるのであろうか? そんな事を考えていたその時、病院の通路を歩いてきた少女と目が合った、気がした…もしや見えるのかな? そう思い話しかけた。
「あのー」……びっくりした表情浮かべ直ぐ様少女が走り出す。追いかけてみた、角を曲がった所に病室がある、ここかな? と思いスライドドアに手をかけると何と! 開けられるではないか!
失礼します。心で呟きながらドアを開けると神々しい女性、女神さま? が座っている。女性は健に微笑む。そして健は尋ねる。
「こんにちは。あのー、私が見えるのですか?」
「こんにちは。もちろん」
微笑む女性、いや女神さま。
「もしかしたら神様とかですか?」
「ある意味そうとも言えますね」
「私は死んだのでしょうか? ここは死後の世界?」
「その様ですが死後の世界ではないですよ。しかし貴方は未練とか微塵もないのですね、とても綺麗なオーラ」
女神さま(仮)はそう話しかける。
「ねぇ、貴方にお願いあるのですけど……この子を助けてほしいいの。とても頑張り屋さんなんだけど、少し頑張り過ぎちゃって……」
ベッドには少女が寝ている。先程目が合って逃げ出した少女だと思う。少し考える。まあ人生の終焉を迎えている訳だし、死して人の役に立つならと考えた。どうせサッカーで言うところのアディショナルタイム、人生の延長戦みたいなものだ。
「まぁ死んだ私にできることなら協力しますよ、女神さまっ!」
健が微笑みながらそう伝えると女神さまが一粒の涙を流す。女神さまは立ち上がり健を抱きしめる。
「ありがとう」
そう声が聞こた瞬間、健の意識は飛んだ。
健は夢を見ていた。それは少女の夢、目が合って逃げ出したあの娘、今に思えば記憶の欠片なのだとわかる。所謂(いわゆる)いじめられっ子の記憶、身体的にも精神的にも追い詰められていく。場面が変わり少女はピアノを弾き喝采を浴びていていた、ピアノ好きだったのだろう。陸上大会、その他にもある少女の記憶が再現されるが、健は傍観者でしかない。苦しみや悲しみ、歓喜でさえ感じることは出来ない。そしてその夢はフェードアウトしていく。
健が目を覚ましたのはその直後。なんだ、生きてる! それとも異世界? どうやら異世界ではなさそう、白い天井、病室のベッドの上にいる。身体は殆ど動かせない、が右手を上げてみる。あれ? 指細くね? その時悟った、そう私は少女になったのだ!
健が目をさました事で看護師さんも医者も大騒ぎ、すかさず様々な検査をされた。その間も思考を凝らす、鈴木健は死にその魂がこの少女に乗り移ったと言うことまでは理解した。検査は一通り終わり病室に戻ると、そこには二人の若者がいた。察するにご両親であろう。
「姫、良かったー、○×○×」
言葉にならない、泣きじゃくっている。そうか、私はヒメって名前なんだ。伊集院姫……それが私の名前であった。
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