新入部員の宮藤 メブキ

 新入部員として強制入部になった宮藤 メブキ。

 この部には愛ヶ咲 ユナの他に四人部員がいて顧問が一人いるらしい。

  

 今はユナが管理人している状態らしい。

 

 高価なゲーム機とか置いてあったりする文芸部の部室の管理人としては人選ミスではないのかと思ったりもした。


「連チャンで私と二人きりだね~」


 などとニヤニヤして言ってくるユナ。

  

「そんなゲームばっかりして大丈夫なのか?」


「大丈夫大丈夫。これでも一週間前はキッチリ勉強しているから」


「ほんとか?」


「本当だよ。しっかり遊んでしっかり休んでしっかり勉強するみたいな?」


 胸を張ってユナは言うのだが(嘘くせ―)などと思った。


「とりあえずゲームしよっか?」


「ゲームつっても――」


「あ――昨日フルボッコされたばかりだもんね? やっぱやめとく?」


 そう言われると何だか無性に腹が立ったので「どうもお気遣いなく」と反射的に言ってしまった。


 自分でも想像していた以上にプライドが高いらしい――と、メブキは自覚する。



 段々と回数を重ねて慣れてきた。

 相変わらず負けっぱなしではあるが。


「おー上手くなってきたね~」


「それでも負けてるけどね」


「でもでもゲーム超初心者にしては良い感じだよ?」


「ふん」


「あっ、拗ねちゃった」

 

 そうではない。

 やはりと言うかメブキは負けず嫌いな性格らしい。

 その事に困惑していたのだ。

 

 ――たかがゲームで。


 と言ってしまうのは簡単だ。


 だけどそれを言ってしまう愛ヶ咲 ユナから逃げたようで嫌なのだ。

 だからその一言は口から出せなかった。


「正直ここまで熱中できるなんて思っていなかった」


「そう? 私からすれば勉強に人生捧げているメブッちの方が凄いとは思うけど」 


「……勉強は蔑にするつもりはないけど、けど、自分の人生って何なのかちょっと分からなくなってる」


「あるある。私もこのままでいいのかな~なんて思う時はあるよ。何となく生きて

、何となく頑張って、そのままテキトーに生きて大人になるのかな~なんてね」


「そんなんでよく親に説教されないな」


 将来どうこう言えるほど、自分は偉いとはメブキは思ってはいないが、それでも計画性が無さすぎではないかと思った。


「今の子は皆どうかは知らないけど、親と最後にマトモに会話したの何時だよって子は多いらしいよ? なんかもう親が家政婦とATM兼任みたいな感じで」


「それはどうなんだ……」


 言ってる事がエグいが普通の家庭ってそんな感じなのかって思ってしまった。

 同時にふとメブキは自分の家庭についても振り返る。


 正直、勉強ばっかりしてるだけの人生だった。

 それだけでよかった。


 だが前の学園でとある問題を起こしてしまって、この学園に流れ着いた。

 もうこの頃から既に勉強だけの人生に疑問を持ったのかも知れない。


 いや、それよりも。

 自分も親を――家政婦とATM兼任みたいな扱いになってないかと恐怖感のような物を感じた。


「どうしたの? 顔を真っ青だよメブッち?」


 と、心配そうにユナが呼び掛けてくる。


「実は――」


 メブキは心中をユナに語った。



「メブッちって真面目なんだね」


「悪いか?」


「でも……私も不安に思って来たな」


「……そう」


「何かちょっとでも良いからプレゼントでもしてみたら」


「プレゼント?」


「食べ物とかそう言うのでもさ。それだけでも違うと思うよ」


「そ、そうか?」


「こう言うのは気持ちが大切なんだよ」


「気持ちね……」


 不安ではあるが言ってる事は筋が通っている。

 何だかんだで両親も自分の事を心配してくれているみたいだし、愛ヶ咲さんと両親を信じてみようと思った。


「さて、暗いムードになったし――そうだ。ちょっとプレゼント選んであげる」


「プレゼント?」



 プレゼントは近所のドーナツ屋のチェーン店になった。 

 ユナも両親へのプレゼントとしてドーナツを持って帰るらしい。

 メブキはと言うと、両親へのプレゼントと言う事でドキドキしていた。

 

「どうしてドーナツなんだ?」


「食べ物だから置き場所とかそう言うのに困らないでしょ」


「成る程」


 言うなれば修学旅行での土産みたいなもんだ。

 

「アルバイトでもしよかな」


 ふとそんな事を思った。


「アルバイトね~いいんじゃない?」


「だけどあんまりアルバイトにのめり込む様なのもアレだしな」


「あ~確かにね。家庭教師とかどう?」


「だけど人に教える自信ないし――」


「何事もチャレンジしようよ。メチャクチャ勉強頑張っても、それを活かせなければ宝の持ち腐れだぞ?」


「うっ――」


 確かにユナの言う通りだとは思った。

 メブキは勉強は大切だと思っている。

 だがそれを活かせなければ意味はない。


 そもそも社会に出て学校や参考書の知識など、どこでどうやって活かす場面があるのだろう。


 役に立つとは思うが説明するとなると上手く言葉に出なかった。


「まあお試しで私相手に家庭教師して欲しいな~色々と教えてあげるからさ」


「……うん」


 そう言いつつメブキは買ったばかりの両親へのお土産のドーナツを見つめる。


 自分はどうやらまだまだ学ぶべき事は沢山あるらしいと思った。

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