=短編=文芸部(オタク部)の黒ギャルちゃん

MrR

文芸部の黒ギャル:愛ヶ咲 ユナ

 文芸部には黒ギャルがいる。


 愛ヶ咲 ユナ。

 金髪のツインテール。

 黒く焼けた肌。

 大きな胸。

 垢ぬけた可愛らしい顔立ち。


 文芸部とは名ばかりのオタク部をやっていなければ陽キャ連中と普通につるめただろう。


 宮藤 メブキ――美形で堅物でちょっと中性的な男子高校生は何故か彼女に目を付けられた。

 本当はもっとランクの高い学園に通っていたが訳アリでこの学園に流れ着いたと言う過去もあってか人と壁をつくっていた。


「メブキってさ、何か好きな事ないの?」


「初対面で普通名前で呼ぶか?」


「いーじゃん細かい事は。アニメとか漫画とか読まない系?」


「だったらどうなんだ――」


「じゃあさ、じゃあさ、その面白さを教えてあげるからウチの部活にこない?」


「はぁ?」


 てな感じで堅物気味のメブキは黒ギャルのユナに半ば強引に文芸部に連れてこられた。


 そして――メブキは頭を抱えた。


「なあ」


「なになにメブッち?」


「メブッちって――なにこの部屋?」


「文芸部の部屋だけど」


「ふーん。漫画とかラノベとかアニメのグッズやらプラモとかゲーム機まで置いてあるんだ。最近の文芸部って凄いんだね」


 まるでオタク部屋だ。

 この学園の校風なのか、それともこの部室独特の事情なのか。

 メブキはいま、とんでもないバカを見る目でこの部室を見渡していた。


「凄いでしょー? 気に入ってくれたんだ♪」


「皮肉でいってるんだよ!!」


「えーでも凄くない?」


「いや、まあ確かにそうだけど――てかもう帰っていいか? 部室誰もいないし」


「え~? もう帰るの? ちょっとぐらい遊んでいこうよ」


「色々と勉強で忙しいんだよ」


「あ、勉強してるんだ。偉いね」


「まあな」


「でも、どうしてウチの学園に? そう言えばもっとランク高い学校に行ってたって聞いたけど」


 それを聞かれてメブキは「色々とあったんだよ」と視線を逸らしていった。


「ははん。さては女にフラれたな?」


「違うよ!?」


「あれ? メブっちって女の一人や二人いそうな感じしたんだけどな?」


「一人や二人いてたまるか! てかそれ女にだらしない奴だろ!?」


「それもそうだね。じゃあさ、メブっち。私と付き合おうか。次の休みデートしよ」


「なんでそうなる!?」


「ぶー、いいじゃん別に結婚するワケでもないんだから――段階重ねて恋愛していかないと恋愛は痛い目みちゃうんだぞ。私したことないけど」


「いい事言ってる風な事言ってた風に語ったけど最後の一言で台無しだな」


「まあ入口で駄弁ってないでゲームしよ」


 と、手を引っ張られる。ユナの黒肌の手は温かくて柔らかく、心地よい感触がした。

 思わずドキッとなってしまう。


「どったの?」


「いやなんでも――」


 と言って顔を逸らすメブキ。

 ユナは分かっているのかいないのか首を捻っていた。

 


「大丈夫? ゲームヘタ過ぎない?」


「ここ数年ゲームに触れて無かったからな」


 メブキはゲームがとんでもなく下手だった。 

 あまりにもヘタ過ぎてユナが心配して得意そうなゲームをあれこれ試している始末だ。


 さらに付け加えて言えばメブキは負けず嫌いなところがあったり、妙にプライドが高かったりするところがあるので本人はとても熱中している。


「もしかしてメブっちの家って教育厳しい系なの?」


「いいや、そんな感じじゃない。まあ最近はよく分からないけどね」


「よく分からないって――」


「まあ前の学校で色々とあったんだよ」


「ふーん。まあ私もこんな肌でこんな生き方しているから色々と誤解されてるけどね。男と遊んでるとか、とっかえひっかえしているとかそんな感じ」


「人間は基本外見で人を判断するからな。実際のところどうなんだ?」


「え~? 私のこと疑ってるの?」


「見ず知らずの人間を突然、こんな場所に呼び出して一緒にゲームするとか怪しいだろ!? 美人局(つつもたせ)疑うレベルだぞ!?」


「つつもたせってなに?」


「あ、そこからか――美人局って言うのはな――――ってワケだ」


「あ、なるほどね、やっぱり警戒心高いんだ。安心してよ、そう言う事しないから」


「どこにも安全出来る要素が無いんだけど――」


「もしかしてHな想像してた?」


「するか! てか冗談でもいうな!」


 メブキは顔を真っ赤にして否定する。


「メブっちって初心なんだね~」


「ほっとけ……さて、そろそろ帰るか」


「そうだね。カラオケでもいこうか」


「カラオケって……」


 まさかのカラオケでメブキは困惑する。

 

「え? カラオケダメだったの?」


「カラオケは行った事ない」


「え~嘘!? 本当にメブッちの家って教育厳しくない!?」


「ほっとけ!?」


 なんか事あるごとにバカにされてるようで腹が立つメブキであった。


「折角だし、いこいこ!!」


「あ、ちょっと待て!!」


 と、腕を強引に引っ張られてカラオケに案内される事になった。



 カラオケは正直言うと散々だった。

 メブキは歌なんてろくに知らない。

 流行の歌や昔の歌は当然、ユナが歌うアニソンメドレーは全く分からなかった。


『もうノリが悪いぞ、メブっち――』


「あーもう!!」


 何か負けっぱなしなようで腹が立ったメブキはヤケになってユナと歌う事になった。


「隣でおう、意外と上手いじゃん!!」と合いの手を入れてくるも、メブキの耳には入らなかった。



 そして夜の帰り道。


「あー楽しかった」


「そう――」


「どうしたの浮かない顔して」


「いや、ちょっとね」


 全力で楽しむ事。

 メブキにとっては何時の頃からか、そんな事を忘れてしまったのだ。

 最後に楽しんだ何時だろうか。

 思い出せなかった。

 

 それが何だかとても悲しかった。


 その点ではお礼を言わなければならなかったのだが恥ずかしくて上手く言葉に出来ない。


「なに顔を真っ赤にして?」


 と、不思議そうにユナが顔を覗き込んできた。


「その、色々と疑って悪かったな」


「えーどうしたのメブッち?」


「それと、ありがとうな。今日楽しかった」


 と、最大限の勇気を振り絞ってメブキはユナにお礼の言葉を伝える。

 ユナは一瞬キョトンとして、顔を真っ赤にして、取り繕ったようにして、


「それはよかった! メブッち誘った甲斐があったわ!!」


「じゃあ俺はこの辺で――」


 そそ草と逃げるように立ち去るメブキ。

 残されたユナはと言うと――。


(なにあれ!? 超かわいいんだけど!! それに真面目でお堅いけど実はポンコツなクール系美少年男子!! うーん!! 超好みなんですけどー!!)


 などとユナは半ばトリップしてメブキの背中を見送ったと言う。

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