ねえちゃんはハイテンション!?

「あらどうしたの祐二」


 つぎの日のあさ、オレはママがあさごはんをつくってるのをお手つだいした。

 といってもおさらやちょうみりょうってのをもってきたりテーブルにならべたりするぐらいしかできないけど、すこしでもママのたすけになってりゃいいかなーって。


「勝美、少しは気持ち楽になった?」


 でねえちゃんはっていうと、てきとうにふくをきがえててきとうにかおをあらったっきりボーっとすわってる。

 それでもちゃんとパジャマがたたんであるのはさすがねえちゃんってかんじだけどさー。


「全然。正直何にも思い浮かばなくて…」

「じゃあ明日父さん母さん祐二と一緒におもちゃ屋にでも行くか?普段全然行かないような場所に行くと結構新鮮な発見があるもんだぞ。おい、って言うかお前がそういう類の悩み方をしてるってお父さん知らなかったぞ、いやすまなかったな」

「あーっもう!」


 そこでいきなりねえちゃんは大きなこえを出した。

 あぶないなねえちゃん、オレがはこんでたスクランブルエッグのおさらをおとしそうになるところだったじゃんか!


「ご、ごめんなさい!」

 …とおもうとすぐシュンとなってさ、本気でわたしがいけないんですどうかゆるして下さいよってなっちゃうんだから、ずるいよなあ。


「料理部の部員として最初の課題だからね、なんとしても自分でやりたいの。わがままでごめんね、父さん母さん祐二」

「文香ちゃんや美紅ちゃんに相談してみたらどうなの?文香ちゃんは勝美と同じ天命学園だし、美紅ちゃんもシロジョの料理部にいるはずよ」

 シロジョってのは、うちからあるいて15ふんのとこにある白ろう女子こう校って学校の事。白ろうってのは白いオオカミだって、かっこいいなまえだなー。

「文香に相談するならとっくにしてるよ、美紅のいるシロジョはうちの学校のライバルとして今度の夏に激突する存在だからさ、あんまり手の内を見せたくなくてさ……」

「そうか、まあ仕方がないな。とりあえずぶつかってみろ。それでダメだったら父さん母さんや友達を頼ってみろ。一人でできる事なんて限界って奴があるぞ」

「はい……」


 ねえちゃんのかおはぜんっぜんあかるくなんない。

 これじゃオレがあさって、ヒカレンジャーグッズをかいにいったところでやったーとかよろこべる気にならない、ねえちゃんがこんなにくらいと。


「ほら勝美、そうやってあなたが暗い顔してるから祐二にいらない気を使わせちゃうのよ!もっとパーッと行きましょパーッと!」

「ああ…うん…」

 ママがいってもこれ。ああもう、ねえちゃんったらなにがどうしちゃったんだよ!





 オレはみくねえちゃんのいえへ出かけた。

 さいしょはふみかねえちゃんとかおるのとこにいこうとおもったけど、ああそういやふみかねえちゃんあたらしいテレビゲームが出るからそっちにむちゅうだろうなって気がついてオレはみくねえちゃんのいえに行くことにした。


「ああ祐二くんこんにちは~」


 みくねえちゃんはいえの中でおりょうりの本をよんでた。おなじりょうりをするのでもいっつもしかめっつらしてるねえちゃんとはちがってずいぶんたのしそう。なにがちがうんだろう?


「で今日は何しに来たの~ああ遊ぶのはダメだよ私今新しいお料理考えてるから…………へぇ勝美ちゃんがねえ~…まあ新しい学校となれば誰だって緊張するのはわかるけどもう一ヶ月近く経ってるんでしょ~もうそろそろなじんでも良さそうなのにな~」


 シロジョってとこはそこにかよう女の子の80パーセントぐらいが、じぶんのうちからあるいて30ぷんでかよえるとこにすんでる女の子っていう学校らしい。

 でもねえちゃんがかよってた中学校からいまかよってるてんめいがくえんってとこにいったのはたしか5人ぐらい。それでオレのいまいる1年3くみにはオレをふくめて31人いるんだけど、てんめいがくえんってとこにはおなじにんずうのクラスが10こあるらしい。

 その中に5人だなんて、えっとオレでも10わる5が2ってことぐらいはわかるよ、つまり2クラスに1人ってこと?


「ええとようするに、ねえちゃんはほとんどしってる女の子がいないとこに入っちゃったわけ?」

「まあそうなるね~、ああ勝美ちゃん祐二くんに卵の話をしたんだって?祐二くんニワトリの卵を食べる時、卵の殻ってどうしてる~?」

「えっと…たべるのはなかみでしょ?オレたまごわったことないけど、カラってどうしてるの?」

「まあちょっと話が違っちゃってる気がするけどね~、普通に食べる分には卵の殻って邪魔なだけだよ~卵焼きとかに入っちゃったりするともう最悪、本当めんどくさいんだよね~。勝美がやってるのってその卵の殻も有効に使っちゃおうって話でさ、まあわかりやすくいっちゃうと無駄な物なんか一つもないっていう話でさ~」


 みくねえちゃんはねえちゃんよりのんびりしてるけど、ねえちゃんとおなじようにはなしがながい。

 そこんとこはねえちゃんのおともだちだからなんだろうか。とりあえず、ねえちゃんがむだっていうのをめちゃくちゃいやがるんだってことはわかった。でもさ、それってめちゃくちゃたいへんじゃない?

 むだなことはぜったいにしないで、むだになりそうであればむだじゃないことにするためのなんかのりゆうをさがそうとするなんて。

「そんなことやっててねえちゃん大じょうぶ?」

「大丈夫だと思うよ今の所は。えっ止めたいの?それは難しいと思うよ、今の勝美はそれが正しいって思い込んでるから。勝美がちょっと何らかの理由でつまずいて自分のやり方が間違ってるかもしれないって事に気付かない限りはね…今勝美はちょっと熱くなっちゃってるからね。意欲に燃えてるって言えば聞こえはいいんだけどね~……」


 みくねえちゃんはオレよりねえちゃんのことがわかってるみたい。それはやっぱりみくねえちゃんがねえちゃんのともだちだからなのかな。








「ちゃーんとね、ちゃーんと壊れるまで使う事がヒカレンジャーとの約束だよね、そうなんだよね」

「勝美、どうしてそうやって祐二に要らないプレッシャーをかけるの?」

「だってまだ使えるのにこれ飽きたって言って物が捨てられるの嫌だから。母さんだってそうでしょ?」


 みくねえちゃんのおかげでねえちゃんがいまちょっとあつくなっていることがわかったから、オレはだまってうんうんとうなずいた。

 そうだよね、あっついおゆが入ってるヤカンとかにふれたらやけどするもんね。


「まあその通りではある、けどあんまり祐二を脅すんじゃないぞ」

「脅すなんて、父さんったら人聞きの悪い!」

「パパ、おちついてよ。ねえちゃんはオレにいらなくなったからってすぐものをすてるようなにんげんになってほしくないからいってるんだよ」

「そう、祐二はえらい子ね」


 ねえちゃんのかおはあかるかった。ひさしぶりに、ほんとうにひさしぶりに見たねえちゃんのあかるいかお。でもオレはなんかおもしろくない。

「勝美、お前は何かないのか」

「私は別に…」

「おもちゃ屋に用がないんなら洋服売り場でも行くか。それとも食品売り場とか、料理を本気でやるつもりならばしっかり見ておくべきだぞ」

「そうする」

 そうだよね、オレがヒカレンジャーのおもちゃをほしがるようにねえちゃんはおいしいりょうりをつくれるしょくざいってやつがほしいんだよね

「ほしいもののためにめいっぱいがんばることって、わるいことなの?」

「いいえ全然、でも物を大事にしないような子は誰にも好かれないことぐらい祐二もわかるわよね」

「やっぱり一人で留守番してるか」

「いやいや、一緒に行く!気分変えたいし食材とか見たいし!」

「じゃ母さんと一緒に食品売り場行きましょうね」

「父さん」

「ゴールデンウィークの時までそんな有様でどうするんだ、ほら休め休め」


 とうさんあまりゆうじをあまやかしちゃだめだよってねえちゃんはいいたいんだ、オレにはわかる。

 パパ、ねえちゃんあんまりきげんよくないみたいだからいいたいことはいわせてあげてもいいとおもうよ。


「私はそんなに心配してないから、祐二ももう小学生だから、ねえ!」

 あーもうまた…でもこれがうちのねえちゃんだから、べつにどうってことはない。


 でもオレやパパやママ、そしてふみかねえちゃんやみくねえちゃんはなれちゃってるからいいけど、ねえちゃんのことをなーんにもしらないような人がねえちゃんといっしょにすごしたらねえちゃんのことをどうおもうだろ。

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