ねえちゃんがだいすきなもの、「にんぎょうと小学生」
「お帰りなさい祐二、新しいお友達や担任の先生にちゃんとあいさつできた?」
「あんまりできてない。ずっと気になってしかたがなかったんだもん、ねえちゃんがなんであんなにドタバタしてたのか」
「あらそうなの、祐二ならすぐみんなとお友達になれそうなのにねえ。その点では勝美の方がちょっと心配かもね。まあでも小学校は六年間もあるんだから、今日一日ほんのちょっとだけ失敗したぐらいですぐにどうこうなるものじゃないんだし。また明日から頑張ればいいじゃない」
そうだよなあ、でもねえちゃんからあんなにあわててたりゆうをきかないとオレはあんしんできない。
ママはいきなりちこくするのはやだっていったけど、オレはどうもそれが正しいようにおもえない。じゃあどうおもうっていわれてもこたえはわかんないけど、とにかくちがうような気がする。まあ、ねえちゃんにきいてみてもおんなじこたえしかしないだろうから、このことはもうわすれる。ランドセルおいてこよっと。
「ああそれから、今日のお洋服は高くて大事なよそ行きのだからママが畳んであげるから」
今日のふくはとってもきれいでよそいきのふくだからママにしまってもらったけど、オレはもう小学生だからふつうのようふくは一人できれる。じゃなかった、きられる。
でもママの見てるまえでやるってのはちょっとはずかしい。でも今日はそうする。
だってシャツとパンツでかいだんを上がるわけにいかないからしょうがない。まなつでもみっともないってどなるのに、まだはるなのにそんなことしたらかぜひくよってねえちゃんがうるさくってさ。
で、オレとねえちゃんのへやにもどってきてみると、ねえちゃんのつくえの上になんか本がおいてある。
きょうかしょとはちがう本、なんかのおはなしみたいな本。ひょうしにしんぱいそうなかおをした男の子のえがかいてある本。ねえちゃんがなんでつくえの上にこんなきょうかしょでもノートでもない本をおいてるんだろっておもったオレはほんのちょっとだけかんがえてみた。
で、ああわかったねえちゃんがいまいちばんきょうみをもってるおりょうりの本なんだなだっておもってなんとなくなかみを見てみたオレは、おもわずびっくりしてしまった。
こわいかおをした男の人が、くるしいくるしいっていいながらくびをおさえている。
その下ではものすごくイライラしたかおをしてる。いったいなにがあったんだろう。
「これ高校の教材ね。でもなんでまたこんなのを机の上においたのかしら、祐二の目に付く可能性のある所に」
こうこうではこんなこともおしえているらしい、でなにがかいてあるのっていったら中学生になったらおしえてあげるっていってそれっきり。
っていうかさ、ほかにもたくさんきょうかしょとがちがうっぽい本がある。さんこうしょっていうのかなあ、でもなんかそんなのとはちがうかんじの、もっともっとむずかしいかんじの本。
「祐二、私の本、勝手に見たんじゃないでしょうね」
で、ねえちゃんったらこわいかおしてる。
「みてないよ、ねえちゃんがこうこうでつかってるっていうきょうざいのほんしか」
ママはオレが中学生になったらおしえてあげるっていってたけどそれまでまてない、いったいなにがかいてあるの、あんなにくるしそうなかおをしてる男の人は。
「その点に対しては母さんと意見は同じよ、これは下手に知って興味を持たれるより知らない方がいいわ。いや、本当は知らないまま死んだ方が幸せな事なの。でも知らなければいけない事なの。でもまだ時期って言うのがあってね、この件に関しては私どうしてもお説教臭くならないとどうしてもいけないの。お願いだからさ」
「でもだったらねえちゃん、オレに見せたくないような本をあんなとこにおいたの?ああもしかして今日ドタバタしてたから…」
「そ、そうなのよ。昨日読んでたんだけどさ、つい奥深くにしまうの忘れちゃってさ」
やっぱりあさドタバタするとろくなことおきないんだね
「それでりょうりぶはどうなったの?」
「今週はまだ部活も何にもないわよ、今週中にみんな入る部活を決めて本格的な活動は来週から。本当、遅刻しちゃダメよ。それから、学校までの道のりはきちんとね。私それがどうしても不安で…ね」
ねえちゃんのいうことはいっつも正しい。
そのことはママもかおるもふみかねえちゃんもみくねえちゃんもみとめてる。でもなぜだかわかんないけどすなおにしたがう気になってこないのはどうしてなんだろ。
「ちゃんとのこさずたべるように」
入学しきからいっしゅうかんごの金よう日。らいしゅうからきゅうしょくがはじまる。4じかん目と5じかん目のあいだの、おしょくじのじかん。
でもまだはじまってないから、オレは今日も家でひるごはん。でもこんな文字がはいってるかみきれをオレがいっつもよんでるマンガの中につっこむなんてねえちゃんったらもう……。
とにかく、おひるをたべおわって一人であそんでるとねえちゃんがふみかねえちゃんといっしょにかえってきた。
「ねえちゃんおかえりなさい!」
「あっ出迎えに出て来てくれたんだ、祐二君。いいなあ、薫ったら小学校終わって来ると疲れちゃうみたいでぐったりしててさ」
「幼稚園の時とは勝手が違うんだから仕方がないでしょ。祐二は元気ねえ」
「オレは元気だよ、ねえちゃんもかおるとおなじようにこうこうってとこになれなくて元気がないの?」
「ごめん祐二君、それ完璧に私のせい。一緒に帰る間私勝美とちょっと言い争いしちゃってね」
「私は、もうちょっと有意義なのがいいなって思うんだけど」
「ゆーいぎってなに?」
「今度の休みに私と勝美と美紅でレンタルビデオ借りて美紅の家で見ようって事になったんだけど、勝美が恋愛映画は気に入らないってさ」
「私にはどうも恋愛映画の面白さとかわかんないのよね」
「それは別にいいんだけど美紅もそうだって言ってたから私はあきらめたけどさ、でもやっぱり勝美の選んだのってどうかと思うよ。結局美紅が選んだ料理物の映画にしたんだけどさ、ちょっと勝美の選んだのって刺激が強すぎない?」
「だってさ、今私たち人生の大事な時期なんだよ。こんな所でつまずいて人生を台無しにするようなへまをしちゃもったいないじゃない。その事を知っておかなきゃいけないの。だから私はね」
「あのさ勝美、いくらレンタルDVDを見るのが一人っ子の美紅の家だからって調子に乗っちゃダメでしょ。薫や祐二君の前では絶対に見られないだろうからって」
「えっなになに、オレやかおるのまえで見られないようなのってなになに?」
「私のお母さんは今年で四十一歳で私は十五歳なんだけど、祐二君四十一引く十五っていくつかわかる?」
えーとまず1のくらいってのをひとつずつひいて、で引けないから上の40から10かりてきて、10ひく4で6で、それでさっき10かりてきたから30ひく10で20……
「つまり26?」
「うん正解だよ、えらいえらい」
「そうなの、世の中の女の人は普通大体それぐらいで、いや最近はもうちょっと後なんだけど」
「勝美!」
ああいつもにこにこしてるふみかねえちゃんがおこっちゃった、ねえちゃんだめだよおともだちのふみかねえちゃんをおこらせちゃ。
「ごめんねつい……でもねどうしても気になって仕方がなくて」
「それが勝美なんだけどね、本当勝美っていっつもそんなだよね。まあいつも真面目なのがいい所なんだけどさ、まだ部活も始まってないんだしさ」
「だからゴールデンウィークに入ったら休む」
「本当に?本当に?」
「部活がなければね」
ねえちゃんって、いつやすむんだろう。
日よう日とかもつうしんきょういくのテキストってのや文字ばっかりのむずかしそうなしょうせつとかってのをよんでばっかり。たまにきれいそうな本をよんでてもおりょうりのだけ。
たまーにおそとに出てもおかいものか、そうでないとしてもよくわかんないりくつをつけてなんだかよくわかんないたいそうばっかり。
ようするに、なにをやってもたのしそうじゃない。オレだけじゃなくふみかねえちゃんもそんなねえちゃんにむかついてるかんじ。ねえちゃんったらもう……。
「勝美って昔っから流行に流されなかったよね」
「なんかね、いろいろ追っかけてるのって疲れちゃうし。私がいいなって思ったら手を出すだけにしてるつもりでさ」
「だからさ、たまには気を緩めて思いっきり楽しまなきゃ。そういう機会から思わぬ何か発見がある物だよ。漫画だけじゃなく料理にも通じると思うけどなー」
「そうね、でも私は本気で楽しむつもりであれを選んだんだけど」
「そういう趣味ならばそれでいいんだけどね……ちょっとあれは薫だけじゃなく私や美紅にもちょっと刺激が強すぎて、ごめんね」
「地上波でやってたのでしょ」
「あのねえちゃん、ちじょうはっていっつも見てるテレビのやつ?」
「そうそれ。でもテレビでやってたのは午後11時半だったから見られなかったのよね」
「もう勝美ったらさ、どうしてもって言うんなら次一緒に見てあげるから」
あっねえちゃんがわらった。このまえに、あんないいえがおになったねえちゃんを見たのはいったいいつだろう。
「勝美、明日は土曜日だよ。明後日は日曜日だよ。祐二くんが待ってるから、じゃあまた明日ね」
「そうね。祐二待たせちゃってごめんね」
おかえりなさいねえちゃん、ほんとうにうれしそうだね。いっつもそのかおでいてくれたらオレもうれしいかなーっておもうんだけど、ダメかなあ。
「にんぎょうと小学生」。
それがどうしてもねえちゃんが見たかったやつのなまえらしい。
「ぼくこのまえヒカレンジャーのかつやくがみたいからねえさんといっしょにレンタルビデオやってとこにいったんだけど、そのときねえさんがいってたんだ。かつみねえちゃんはどうしてこんなのを見たがってるのかなーって」
そのことをおしえてくれたのはかおるだ。
なあ、それってどんなはなしなんだ?
「ああにんぎょうと小学生?それ、おれのとうさんがすきだったんだよね」
オレとかおるのはなしに入ってきたのは、大田ゆういちって言うオレのクラスメイト。
そのゆういちが言うには、にんぎょうと小学生ってのは六年まえにやってたドラマらしい。六年まえ、オレ生まれてたっけ……まあけいさんするとねえちゃんは小学校三年生ぐらいだよな、オレどころかねえちゃんだってごご10じにはもうねろってママからいわれてるんだから、見られなかったはずだよ。
で、どんなおはなしなんだ?
「小学校六年生のこんちゃんって女の子がとつぜんふとり出してさ。みんながデブデブってバカにすると先生がいじめちゃダメっていっておとなしくなってたんだけどさ、あんまりにもふとるのがとまらないからどうにもおかしいってことになって、それでしらべてみたらさ」
そのこんちゃんって女の子はふとったんじゃなくて、そのおなかにべつの子どもがいたらしい。
小学校六年生ってことは、ねえちゃんよりよっつ下ってことだよな。そんなんでママになっちゃうって、どんなことなんだろう。
「それでさ、そのあとのことはわすれちゃったけど、そのこんちゃんは子どもを生んでママになってさ、でそのこんちゃんのパパとママがさ…えーと…」
ゆういちのかおがあれーどんなだったかなってのじゃなくてああこれいじょういっちゃまずいなってなってることぐらい、オレでもわかる。
まあふみかねえちゃんやみくねえちゃんがいやがるのもわかる気がする。わからないのは、ねえちゃんが見たがってるってことだ。
でもこのビデオってやつのおはなしをするとぜったいにどなられるだろうからきかないことにする。たのむよかおる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます