第6話

 社員寮は古かったし前の家みたいに広くは無いが憧れのカウンターキッチンで部屋も三部屋。一つはわたしの部屋にしても良いとのことだったが私は剛士と寝ることにした。一旦携帯電話は解約して、新しい番号にしてすぐ親やほんのわずかな親しい友達のみ連絡した。


 親はびっくりしていたが私たちの決めたことなら、と。もちろんその時には義父母たちはわたしの親の元に来てお前らの娘は端ない娘だ! と怒鳴り込んできたとのちに母から書いたが父が追い返したとのこと。本当に申し訳ないと思ってる。親たちも今まで義父母が失礼言動があってわたしを嫁に出した手前我慢していたがとうとう父がキレたそうだ。



 そして数ヶ月してわたしは妊娠をした。社員寮に逃げてからわたしと剛士は夜に交わる回数は増えていた。不妊治療を始めようかと悩んでいたがその必要はなかったようだ。


 剛士はそれをきっかけに義父母に電話をしてくれた。冒頭30分は彼は何も言えないほど電話で怒鳴られているようだった。違う部屋でソワソワしていたわたしでさえもわかるくらい。彼はずっと耐えてはい、はいと答えていた。

 義父の気持ちが収まったのか剛士はようやく子供ができたと伝えていた。


「二人とも喜んでいたよ。帰ってきておいでと言われたけどやめといた」


 もうこの時点で女の子と判明はしていた。それも伝えたらしい。

 女の子だというと電話先でガッカリされたが初孫だからともあってか早く会いたいと。


 わたしに対する謝罪もない。しかも、女の子であることもなじられた。そもそもわたしの体調を案ずる声もなかったようだ。まぁ期待もしてなかったけど。


 そして義母が調べ尽くしたのか社員寮宛に毎日のように子育ての無駄なアドバイスの手紙を送ってくるようになった。開くのが怖くて剛士は開けてくれて、手紙だよ、と渡してくれたが文字が並んでるだけでも嫌になり、それ以降は彼も察して開けずに捨てるようになり、最後は寮母さんから拒否してもらえないかと伝えてくれた。


 だが臨月を前に管理人さんが実は拒否はできずに受け取っていたけど毎日来るものだから処分に困っているとこれまた剛士のいない時に持ってきたものだからわたしは困った。どっさりと。

 きっと一度返された手紙を見て憤慨したのか『お祝いの品あり』と毎回書いたあった。


「大変ねぇ」

 と寮母さんは私に全てを渡したことで肩の荷が降りたのかホッとしたようだがわたしはこの手紙の山を見てからどっと疲れがのしかかった。いや我慢してたのだ。

 義父母のことは離れて少しは気持ちは楽になったが、剛士の仕事は通勤時間が短くなって朝もゆっくり夜も早くなったが彼自身は変わりはない。家事なんてしない。わたしが結局全部やってた。その疲れと妊娠というもう一つの命を抱えて体調の波と不安と変化に身体は限界に来ていたのだ。


 きっとわたしが義父母の不満さえ無くなればわたしから愚痴られることもないだろうし、さらに実家からの干渉も無くなる、それだけのことなんだろう。彼にとって。


 そして数日後。陣痛と思われるものが始まった。出血も少しあって剛士に言うと

「まだやないか、予定日まで。大袈裟だよ。それに僕はこれから仕事あるし」

 とか言いつつも渋々病院に連れていってくれた。



「お父さん、なにをいいますの。もう生まれる寸前よ!」

 助産師さんが大きな声で剛士にいう。

「だって予定日までまだ日にちが……」

「あくまでも予定日です! さっきも奥さん置いて帰ろうとしたでしょ!」

「……今から仕事が。それに育休も予定日から1ヶ月でして」

「そんなの妻が出産するからって言えばいい話よ! 育休もずらしなさい!」

 ああ、こうやって言えたらな。さしたら苦労しなかったのに。

 そうか、助産師さんは他人だからか。第三者だからか。助産師さんだからか。

 家族が。いやわたしもある意味第三者だったのに剛士と結婚したことであの義父母たちと家族になってしまった。

 家族で口を出すと角が立つ。誰かが我慢する。

 でも第三者みたいに家族で誰かビシッと言えたら、そう、それが剛士だったのよ。彼が義父母たちに言ってくれたら。もっと早く。


 と思ってたのはほんの最初の方で痛みの周期はだんだん早くなりどんどん短くなって気づけば剛士の手を強く握ってた。痛そうだけど堪えてくれていた。


 そして子供は生まれた。可愛い可愛い娘だった。


 

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