黒島摩耶-5 「お前らが悪くね?」

「お前らが悪くね?」


 摩耶の住む狭いアパートの中で家に入れたベンシーから話を聞いた摩耶の第一声はそれだった。ベッドの上に腰掛けて座る摩耶の隣には、路地裏に置いておいて帰宅途中に回収したリュックがあった。

 ベンシーは部屋の中にある一人用の椅子に座っていた。


「どう思ってくれても良い。ただ俺たちはメドロ様を復活させたかっただけだ」

「へぇ。それでお前らが負けて、お前が死んで万事解決みたいな空気になったんだな」

「空気だなんて軽く言うな」


 ベンシーは眉をしかめた。ベンシーにとってそれは生まれ故郷に殺されることを意味していたからだ。軽く言う摩耶へのイラつきもあったがその事実への苦しさもあった。


「悪い悪い。だけどスッキリしない終わり方だな。お前に全部押し付けるみたいに死なせてオールオッケーって、そうなるの? 今更お前が死んでも意味は無さそうだし」

「どうだろうな。俺だってスレルドの奴らを大量に殺したんだ。その家族に恨まれてるだろうし、そいつらの溜飲は下がるんじゃねーか?」

「えっ? そりゃなかなか……」と引き気味に摩耶が言った。

「幻滅したか? 今さら俺を見捨てても遅いが」

「うーん……まあ最初からロクなやつじゃ無さそうだって思ってたからなあ」


 そう言って摩耶はふう、とため息をついた。

 摩耶がベッドから立ち上がって部屋の電気を消した。明日の病院の清掃とスーパーのバイトがあって夜も遅かったからそろそろ眠りたかったのだ。

 痛みがまだ残る身体でベッドの上に寝転がる。


「いてて……。あ! そうだそうだ、お前目撃者がいても大丈夫って言ってたよな。それはなんで?」


摩耶の家に向かう途中でベンシーが軽く触れた話だった。


「ああ。ここの奴らは魔力が無いから俺たちのことを見てもすぐ忘れてしまうし写真や映像に映らないんだ。俺たちのは魔力で出来てる。それで俺の存在を記憶に残すってことは残す側に魔力の受け皿が必要なんだ。この世界の人間にそれは無いし写真なんかにも無い。俺が魔力を預けたお前みたいな奴は別だがな」

「じゃあ日本語喋ってるのは? まさか向こうの世界の共通語なの?」

「日本語なんてもんは知らないが、俺たちの声は意味だけが頭の中に入ってくるし俺たちの耳は声の意味だけが入って来るんだ。お前が別の言葉使っててもこうして会話出来ていたんだぞ」

「便利だな、なんとも都合が良くて」


 摩耶が布団の上で目をつむってしばらく休止状態に入り、そのまま明日のバイトに向けて眠りだした。

 しばらくして寝息を立てるようになった摩耶を見てベンシーは言った。


「よく寝れるな、こいつ。そういや名前も聞いて無かった」


 ベンシーは摩耶に近づいて毛布を少しはだけさせて摩耶の二の腕の筋肉を触ってみた。


「大丈夫だな。いざとなりゃすぐ殺せる……」

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