ベンシー-4 「待ってくれ!」

「待ってくれ!」

 ガスターが大剣を構えて今にも飛びかかってきそうなタイミングにそう声を出したのはベンシーだった。摩耶は思わずビクッと肩を揺らして構えを解いて顔の横のベンシーを見る。


「ひとつ聞きたい。ガスター、どういうことだ?なんで俺を殺そうとする。そこまで嫌がっているのによ」


 摩耶から見たら立派なガスターの構えでもベンシーから見たら普段とは違って威勢が無いようだった。


「言ったじゃないですか。決まったことだって」心しかガスターの声は弱々しかった。

「だから何が決まったんだ?」

「……我々の負け、ですよ。条約が結ばれたのです」

「はぁっ!?」


 ベンシーが驚きをあらわにする。摩耶にはその会話の深い部分までは読み取れないが、ベンシーが相当なショックを受ける内容なことは伝わった。


「ベンシー様も気づいていたはず。スレルド王国が新崎のようなこの世界の戦士を連れて追い打ちをかけてきた時、我が国はもう限界だった……。王は決断されたのです」

「う、嘘だろ……。もしそうだとしても、なぜ俺を殺そうとする!?」

「スレルド王国が要求した事項は……もう二度と『泉』を狙わないこと。そして我々国民と王の贖罪として、王の息子であるベンシー様の首を要求してきたのです」


 ガスターはキッパリとした態度のつもりで言ったのだが、声の端々に悔しさややるせなさが見え隠れしていた。

 動揺を隠せないベンシーは目を見開いていた。ガスターから言われたその事実は、今まで命懸けで戦っていた意味を無くすもので、さらに尊敬していたはずの父親と愛した国が自分を売ったように感じられたからだ。

 ある程度は状況を把握出来た摩耶が小声でベンシーに言う。


「お前相当ヤバいな」


 その言葉が聞こえないかのように反応しないベンシー。


「おい、聞いていただろう。もうベンシー様に味方はいない。最後のチャンスだ、お前も諦めたらどうだ?」

「味方がいないんだったら尚更……やめるわけに行かなくなったんだけど」


 摩耶が攻撃に備えて構えをやり直し腰を低くする。

 そんな摩耶の様子を少し呆れたような驚いた顔でガスターが数秒見た後、険しい顔つきに変貌し力強く一歩を踏み出した。

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