新崎みのり-1 するとさっきまで体力の無さそうな様子だった摩耶の身体が急に動き出して、困惑した表情で新崎に訴えかけた。

 するとさっきまで体力の無さそうな様子だった摩耶の身体が急に動き出して、困惑した表情で新崎に訴えかけた。その話し方はさっきまでとまるで違っていて、さらに摩耶の首元にあった黒い模様が消えていた。


「ちょ! ちょっと! 俺どうなるんだよ!」


 さっきまでと明らかに様子が違う摩耶の雰囲気に新崎は目を丸くした。一瞬あっけに取られた新崎だったがすぐさま状況を掴む。

 ベンシーが弱りすぎて制御が出来なくなったのだ、と。


「大丈夫だから。用があるのはそっちのちっこい人なの。ちょっと痛むかもしれないけど我慢してて」

「ちょっと痛むって、そんな注射みたいなこと言われてもさあ……」

「身体ちゃんと動かせる? できたらそのまま止まっててほしいな」


 新崎が歩み寄ると共に光の手が塀の壁際にいる摩耶に近付く。

 何がなんだか全く分からない摩耶だったが、一つだけやるべきことが分かったようだ。


 摩耶は全身の力を振り絞ってその場から思いっきり逃げ出した。「へっ?」と新崎は素っ頓狂な声を出しながらキョトンと摩耶を目で追う。

 身体はやけに軽くまるでチーターのように道路を駆けていった。その訳は摩耶にも分かっていた。摩耶の身体にまとわりつく黒い模様のおかげだろう。

 反応が遅れた新崎は追いかけようとした時既にだいぶ距離を取られていた。それでも追いかけてみるが体力が限界に来ていたのもあって見失ってしまった。

 走りながら追いつけないと悟った新崎は止まって呼吸を整えた。摩耶が走っていった方を睨む。


「はあ……。はあ……。な、なんなの?」

「僕にもわかんないけど……でも計画的って訳じゃ無さそうだよ?」とココが話す。

「だよね。私のこと怖くなっちゃったってことでもなさそうだしなぁ」


 すると新崎の後ろから新崎と同年代の女の子が走ってきた。その子も新崎と同じくらいボロボロで身体に這う模様は薄ピンク色だった。


「みのり! 大丈夫!?」

「茜ちゃん……。ごめん、逃がしちゃった」


 赤嶺あかみね茜は新崎みのりと同じ高校の同級生であり、幼なじみであり、共に戦う仲間だった。赤嶺の顔の横にも小さな女性の人間がいた。


「謝らなくていいよ。それに終わりは終わりなんだからさ。どっちにしたってベンシーはもう、ね」

「……そうだね!」


 新崎は安堵するような笑顔を赤嶺に向けた。その笑顔を見た赤嶺もつい笑みがこぼれた。

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