ベンシー-2 摩耶に急接近して振りかぶった右の拳を繰り出す新崎。
「はあっ!」
摩耶に急接近して振りかぶった右の拳を繰り出す新崎。その時、新崎の右腕と両脚の発光は消えた。素早い反応で摩耶の両腕を操ってガードしたベンシーは、凄まじいパワーによって後ろに飛ばされるもののすぐさま体勢を立て直した。
次の瞬間、新崎の横の地面から高さ五メートルの真っ黒な触手が生えた。吸盤のついていないタコの触手のようなぶよぶよで重いそれは、ふっくらした根元が直径一メートルほどあった。
そしてその触手が新崎の方へスピードと重力を乗せて勢いよく倒れ込む。
しかし新崎は光る左腕の拳を触手相手に目にも留まらぬ速さで打ち込んだ。重量があるはずのそれは弾き飛ばされて、反対方向にズシンと鈍い音を立てて倒れた。
新崎の左腕の発光が消失したが、新崎は力を込めると再度両腕両脚が発光しだした。
触手がまた動き出す。今度は倒れたまま横にスイングして円を描くように新崎を狙うが、新崎は真上に跳躍してそれを避ける。跳躍した際今度は使われた左脚の光が消滅していた。
そして右脚で着地して踏み込み、新崎の右脚の発光が消えると同時に新崎が摩超高速で接近した。
新崎は肉薄する摩耶に対して発光する右腕で殴りかかった。
ベンシーは慌てて摩耶の肉体を操って腕で防ごうとするが完全な防御体勢には間に合わなかった。新崎の拳が当たったことによって摩耶はよろめき、その隙を突かれて腹に新崎の左の拳を打ち込まれた。
「ごふっ!」
摩耶の口から空気が押し出されるような声が出た。そのまま後ろに仰け反る。
「てやぁ!」
新崎は振り返って回し蹴りし、仰け反ったままの摩耶の腹に炸裂した。
摩耶の肉体は道の端の塀に衝突してその塀に軽くヒビを作る。摩耶の背中にあるリュックが潰れ、中にある荷物のうち折り畳み傘が壊れてしまった。
うなだれるように地面に座り込む摩耶の身体とヘトヘトの小さなベンシーに、ボロボロの新崎が荒い息ながらもしっかりとした足で近づいた。
「もう終わったの。はぁ……。はぁ……。あなただってヘトヘトなんでしょ? その身体だって上手く扱えてないよ」
「まだだ! まだ俺は……!」
ベンシーは威勢よくそう言って、摩耶の肉体を制御して立ち上がろうとさせる。しかし摩耶の足はふらついていて思った通りに行かないようだ。
それを見た新崎の右手が発光し始めた。
「ベンシー。頑張ったのは認めるよ。今諦めてくれれば、命までは取らないから」
すると新崎の顔の近くにいた白い妖精が少し驚いた素振りで話す。
「えっ? いや、勝手に決められちゃうと……」
「お願い。ココ」とココと呼んだ小さな人間を見つめる新崎。
「……ベンシー次第だよ」
新崎が摩耶の方に視線を戻した。フラフラの摩耶の口を通じてベンシーの意見が出された。
「ハッ! 誰が諦めるかよ……!」
「……そう」
新崎の右手の発光がより一層強くなる。新崎の目には哀れみに似た明確な殺意があった。
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