黒島摩耶-1 夜の閑静な住宅街。普通の服に一般的なリュックを背負う一人の男が絶叫しながら屋根の上を跳ぶように走っていた。

 夜の閑静な住宅街。普通の服に一般的なリュックを背負う一人の男が絶叫しながら屋根の上を跳ぶように走っていた。


「うああああああっ!!!」


 彼の名は黒島くろしま摩耶まや。ただの一般人の摩耶にここまで跳ぶような力は無いはずだった。恐怖の色が摩耶の顔から滲んでいた。

 摩耶の顔の近くにヒラヒラと飛ぶ、小さな人間が話しかける。


「おい! 脚だけでも預けろ! 共倒れだぞ!」

「何それ!? 預けるって何! てかなんなのお前! 何これ!」

「いいから力抜け! 早く!」


 今、摩耶の身体は屋根の上からコンクリートの地面に落ちている状況だ。このまま地面に衝突したらタダじゃ済まない事は摩耶でも理解できた。

 摩耶はやけくそになって力を抜く。すると摩耶の脚にはドス黒い模様が浮かび上がって彼の意志に関係なく勝手に動き始めた。

 摩耶の脚は轟音を立てながら道路に衝突したが、脚は無傷かつしっかりと地面を両足で踏んでいて、そして膝をバネにして再度跳躍した。

 困惑しながら普段見ない視点からの光景で街を見た摩耶は、近くの屋根に自分の足が着地したタイミングで小さな人間に問いかけた。


「ど、どうなってんだよ!? これ!」

「俺がお前を操ってんだ! 逃げ切るまで黙ってろ!」

「逃げるって何からだよ!」

「お前がさっき見た奴らだ! ほら! 後ろにいるだろ!」


 そう言うので摩耶が首のみをパッと振り返ると、数十メートル向こうに摩耶より数段速く屋根の上を走って来る若い女の子がいた。

 ボロボロになった服と身体で息を荒らげながら必死についてきている。よく見るとその女の子の顔の周りにも一人の小さな人間が飛んでいて、身体には摩耶と同じように身体のあちこちに模様があったが、摩耶とは違ってそれらは黄色だった。


「ちっ! 逃げられそうにぇ!」と摩耶の近くの小さな人間が言う。


 摩耶が状況を必死に整理しようとしていると突然摩耶の肉体の自由が完全に消えた。意識と視覚などの五感はそのままだが、身体の黒い模様は侵食するように首にまで行き渡り血流のような黒い筋が通っていた。

 摩耶の身体は屋根を通って道路に降りたって、屋根から離れるように数歩歩いたら後ろを向いた。先程の追いかけてきた女の子もその屋根から飛び降り、摩耶と正面切って対峙した。

 女の子とおよそ六メートルの間隔を開けて、摩耶は本人の意志とは関係なく顔が歪んで言葉を発する。


「追っかけてきたのはお前だけみたいだな! 新崎にいざき!」

「ベンシー! 絶対逃がさないんだから!」


 新崎と呼ばれた子の両腕と両脚が黄色く発光する。まるで魔法のような事態に摩耶の意識が驚くのもつかの間、すぐさま新崎は突撃してきた。

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