第四話 濡れ衣とエレナの怒り
「……なぁ、何でここにいるんだ?」
僕は今、花湯を作りながら机に座っている三人に問いかける。
「いいじゃない、どうせやることないんでしょ」
「そうそう、気にしたら~負けだよ~」
「そうだそうだ~」
こいつ等……!
っというかどんどんこいつの口調子供っぽくなってるな……。
若しくはこれが本当の彼女の素なのかもしれない。
いつもは魔族の王としての威厳を保つため、あんな風に振る舞っているが今の彼女の方がどこか近づきやすさがある。
何だよ、ウルスラ……そっちの方が可愛いじゃないか。
そう思って花湯を置くいてウルスラを見ると、顔を真っ赤にして僕を見ている。
「どうした?」
「声、出てたよ~」
僕が問いかけるとノウェムが答える。
しまった声に出てしまっていたか……。
ウルスラは俯く。
「君ってそういう所だよね~、この女ったらし~」
「そ、そんなつもりは……」
「ウルはちょろいんだから、駄目だよ」
「ちょろくない!」
ウルスラはそう言うと立ち上がる。
「私は大人の女だ! ほれ、見てみろ……このスタイル!」
ウルスラは胸と腰を強調してきたが、全く意味をなしていない。
言っちゃあなんだが、顔も童顔で彼女は全体的に幼く見えるのだ。
「うわぁ~、凄いね~」
ノウェムの言葉にウィンクする。
「でしょ~!」
「それじゃあ、私も~」
ノウェムもウルスラと同じポーズをする。
ノウェムがやると何というか、ウルスラと違って目のやり場に困る。
ウルスラと大して変わらないが、出るところはしっかりでている。
「あ、スケベがいる~」
悪戯っぽい笑顔でそう言うと、僕は左手を前に出す。
「危ないじゃないか……」
僕は魔法を放った張本人のエレナに言う。
「変態成敗」
僕をジットリとした蔑んだ瞳で見てくる。
その眼、懐かしいけどやめて!「濡れ衣だ」
「じゃあ、どこ見てた?」
「それは……」
二人を見る。
男なら必然的に胸に視線が行くのは仕方のない事だが、それを言うと恐らくウルスラとエレナの逆鱗に触れる気がする。
助けてくれ、ノウェム……。
僕が視線を向けると、ノウェム真剣な顔で頷く。
これで、助かった……!?
そう思っているとノウェムは何を血迷ったのか、胸に手を当てて更に強調する。
「何してんの?」
「ん~? レウルが熱い視線向けるから~、サ~ビス~」
こいつ、馬鹿なの?
恐る恐るエレナを見ると、エレナは先程までの蔑んだ顔が嘘のように笑顔で僕を見ている。
ヤバい、これは本気で怒っていらっしゃる。
「あの、エレナさん?」
「何かな?」
顔は笑顔なのに低い声で返答してくる。
「誤解だって……」
「何が?」
こうなると、ちょっと面倒臭い。
「ほら、いつものノウェムの悪ふざけだって……そうだよな!?」
「ん~? 私は~視線の所を強調しただけだよ~」
ほんとに何言ってんの!
半分面白がってるよね!!
「違うんだ、本当に」
「別にいいよ、このスケベ」
「スケベって……」
「仕方ないよ~、男の子は~大きな胸がぁ~、大好きなんだから~」
もう黙れ、ノウェム!!
彼女の一言一言がエレナの癪に障るので、本当に黙ってほしい。
エレナの方は今にも笑顔で襲ってきそうな雰囲気がある。
「僕がそんな胸で判断する人間に見えるか!?」
「見える」
「見える~」
「うん」
「ひどくね!?」
まさか全員に即答されるとは思ってなかった……っというか、ウルスラは僕の何を知ってるんだ!?
「お前は便乗するなよ」
「いや、お主……カリンにもそんな視線向けてたじゃない」
おい、この魔王更に火をつけたぞ。
っというか、あいつの顔面白そうにほくそ笑んでやがる!!
何と性格の悪い奴だ!!
明らかにその表情は分かっててやっている顔だ。
「向けてない! 本当だ!」
「いいのよ、嘘つかなくても」
「男の子だもんね~」
もう嫌だ、この状況。
「さっきから聞いてれば、好き勝手言いやがって!!なのです!!」
うわぁ~、もっと面倒臭いのが出た。
家の中から覗いていた黒と白の髪を左右に分けた少女が出てくる。
僕の契約した精霊の一人であるラナークだ。
「ご主人は小さな女の子が好きなんです!!」
「……は?」
代わりに弁明してくれるのかと思い感心していたが、こいつは何を言ってるんだ?
馬鹿なのか?
いや、こいつは馬鹿だったわ。
「少し黙ってろ、ラナ」
「はいなのです!!」
三人はラナの言葉で完全に引いていた。
エレナも怒るどころか完全にその目はヤバい奴を見る目だ。
何を言おうと今は言い訳にしか聞こえない雰囲気だ。
ここは話題を変えよう。
「ところで、三人はどうして来たんだ?」
「今日はお願いがあってきたの~」
「お願い?」
「うん、ちょっとヤバいことになっちゃってね~。 何人か子供を預かってほしいの~」
ノウェムが言うには未だ魔王が健在という事もあり、王国との戦いは避けられないらしい。
僕の結んだ条約はあっさりと水の泡となったというわけだ。
本当、ろくなことしないな。
たった一人の
「お願いできないかな~?」
子供を危険に晒さないのならここは安全という他ならない。
「ほら、ここなら、多分安全じゃない? だから……」
多分とか言うな多分とか。
完全にラナのいう事を信じてしまっている。
まずはその誤解を解きたい。
「多分じゃなくて安全だよ、安心して」
僕がそう言うと、ノウェムとエレナ・ウルスラは何やらひそひそと話している。
そうして女子三人の話し合いが終わると、ウルスラはこちらに近づいてくる。
「どうか少しだけでいい、子供たちを預かってもらえないだろうか? 敵対関係だった私が言うのは筋違いだってわかってる……だが、どうか受けてくれないだろうか」
正直、僕は受け入れたいと思う。
理由は罪のない子供達が戦争で幾度となく命を落としているのだ。
助けたいとは思う。
だけど、一つ聞きたいところがある。
「一つ聞いていいか?」
「なんだ?」
「お前は人族の罪のない子供を殺したか?」
こいつがもし、人族の子を殺していたとすれば虫のいい話だ。
これに関しては彼女の返答次第では断る。
「殺してないとは言わないわ」
「ならこれは受け入れられない」
その言葉を聞いて僕は受け入れる事は出来ない。
あの光景を見てしまっているから余計に受け入れる事が出来ないんだ。
炎に包まれる村の光景、僕が駆け付けた頃にはたくさんの兵士や老若男女加えて子供まで一人残らず殺されているのだから。
「魔族の子供を安全な場所に避難させて人族の子供を殺す奴の要求は到底受け入れることは出来ない」
ウルスラに対して怒りが湧いてくる。
「今日は帰ってくれ」
「……ノウェム、ゲートを開いてくれ……すまなかったな、さっきのは忘れてくれ」
そう言うと、ウルスラの魔力が消える。
ノウェムの転移魔法で帰ったのだろう。
振り返ると、エレナが一人悲し気に立っていた。
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