第三話 見知った顔と魔王らしくない魔王
「対称を捕捉せよ……
ウルスラを見るなり、エレナは魔法を発動させると複数の鎖がウルスラに向かって襲い掛かる。
両手両足、腰に鎖が絡まる。
エレナの得意な束縛魔法だ。
彼女の魔法は僕と最後にあった日より数段強力になっており、恐らく並大抵の魔法士では破ることは不可能だろう。
「ふん!」
ウルスラは身体に魔力を込めて力を入れると、縛鎖は甲高い音を立てて無理やり引きちぎった。
「この程度の力で魔王を捕らえようなどと……ふぎゃか!?」
どうじゃ!っと余裕に言おうとしたウルスラが足から地面に沈んでいき、体制を崩して変な声で尻餅をつく。
土系統魔法泥沼だ。
ウルスラはそのまま顔だけだし、エレナ達を悔しそうに睨みつけている。
「帰るわよ、ウルスラ」
そのまま地面に埋まり、顔だけ出たウルスラにエレナは屈んで言う。
「どうしてここがわかったんだ~!」
「どうしてって、その服私が作った物だから……」
何かを察したように「あっ……」というとエレナは僕の方を見る。
詰めが甘すぎる。
恐らくノウェムの探知系の魔法糸が刻まれたエレナ特製の服だろう。
「久しぶり、レウル、あの時以来だね」
「あぁ、久しぶりっていうか今それ言う?」
魔王ウルスラが地面に埋められたり、家が半壊したりした後に言う言葉では絶対ない。
「にゃはは、それもそうだね……さぁってウルスラ?」
エレナは笑顔で僕にそう言うと、再びウルスラに視線を移す。
「何で連れ戻しに来たか分かるよね?」
「………」
エレナの言葉にウルスラは頬を膨らませながらソッポを向いた。
「はぁ、ごめんねレウル……家とかその他諸々」
「本当だよ、いきなり死んだ幼馴染と感動の再会したと思ったら殺伐として、挙句家まで壊して」
「にゃはは、面目ない……」
間違いない、目の前にいるのは間違いなく幼馴染のエレナだ。
理由は様々あるが、彼女の一番の特徴として笑うとき、「にゃはは……」
っと笑うからだ。
でも、大切な人が生きててくれてよかった。
心の底からそう思った
「………うぅ……」
エレナを見ると顔を手で覆っていた。
よく見ると耳が夕日色のように紅く染まっていた。
久しぶりの再会を実感して恥ずかしいのだろうか……。
「……この垂らしが」
ノウェムは一瞬目を見開くと、彼女はムッとした表情でそういうとエレナの肩を叩いた。
「エレナ、多分幼馴染って意味でだと思うよ、こいつの場合……」
どうやら僕は声に出していたらしい。
にしてもそんなにおかしな事を言っていただろうか?
大切な人が生きてて嬉しく思い言葉に出すのがそんなにおかしな事だろうか?
「だ、だよね! うん、わかってたよ!」
手で仰いで言うエレナ。
どういう意味に捉えたのか逆に気になる。
「まぁ、久しぶりの再会ではしゃぐ気持ちもわかるけど、羽目を外し過ぎて自爆しないようにね~」
ノウェムがそう言うと、再びエレナはうぅ……っといって俯く。
「エレナ、私を埋めて放置か?」
地面に埋まったウルスラは不服そうに頬を膨らませながらこっちを見ていた。
その姿はとても魔王と思えない程、滑稽な姿だった。
「あぁ、忘れてた。 ノウェム、お願い」
「あいあいさぁ~」
ノウェムは指をくるりと回すと、ウルスラを中心に円が出来あがり、地が盛り上がるとウルスラ自分を覆った岩を破壊する。
どうやら鎖以外にノウェムが何かを仕込んでいたようだ。
道理でウルスラが動けないわけだ。
ノウェムは一度、拠点襲撃にきた魔王を拘束している。
とはいってもカノンがいたのと、僕がその拠点にいなかったので邪魔されて逃げられた。
その後、駆け付けた僕に戦況面で不利を感じたのか、撤退していった。
「何よ、その目は」
ウルスラは不満そうな視線を向けていると、エレナが笑顔で彼女を見る。
その笑みでウルスラは完全に委縮してしまった。
わかるぞ、この笑顔怖いもんな。
魔王としてどうかと思うが、実際彼女のこの笑顔は苛立っている時にする笑顔なのだ。
端から見ても怖いのだから睨まれている方はもっと怖いだろう。
っというか、エレナ覇気増してないか?
久しぶりだからか、あの頃より怖い気がしてならない。
「何でもないです」
ウルスラは何故か敬語で話しているという魔王らしからぬ威厳だった。
大丈夫か、この魔王。
「レウル、今日はちょっと用事があるから帰るよ。 ウルスラ、帰るよ」
ウルスラは逃げられないと悟ったのか、項垂れながら頷いて彼女の元へ歩き出す。
「それじゃあ、また遊びに来るね」
「あぁ、何時でも来い」
エレナにそう言うと、ノウェムは魔法を発動する。
点と点を魔力で繋ぎ、空間を瞬間移動できる魔法だ。
「久々に見たな、その魔法」
この魔法は疲れる。
空間をその場から繋げないといけないし、転移装置があったとしても自分で作らなければ転移できないという欠点がある。
加えて転移中に壊された場合、次に転移するか元の転移場所をイメージないと空間に閉じ込められるという難点がある。
幾多の魔導士がこれで何度も行方不明になっている。
ノウェムも一度閉じ込められたことがあるが、彼女は自力でこの空間に戻ってきた。
これはノウェムの伝説的な逸話として残っている。
過去数多の魔導士がなしえなかったことを彼女は若干14歳でこれを成し遂げた。
加えて空間に閉じ込められても戻ってこれる魔道具を開発した。
これは最初は学会の老害共が認めなかったが、彼女の逆鱗に触れた老人を実験台として空間に放り込んだことで証明された訳だが。
あの時は生きた心地がしなかった。
「それじゃ、またね~」
三人はそのまま空間に飛び込み、消えていった。
彼女達が居なくなり、僕は笑みをこぼす。
死んだと思っていた二人が生きていたのだ。
これ程嬉しい事はないだろう。
二人の事は昔から大好きだし、死んだと聞かされた時はとても悲しかった。
だからこそ、生きていたことが凄く嬉しい。
そうして僕は自分の家に戻るのだった。
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