第二話 新しい生活と苦労人
ウルスラが僕を見る目は明らかに可哀想な憐れむような瞳だ。
魔王を倒し、人類を脅威から救った英雄である僕が追放されたのはさぞ哀れに映ったのだろう。
「勘違いするな、役目が交代したんだ、後は次の勇者に任せる……ただそれだけだ」
これは本心だ……。
やるだけの事はしっかり果たした。
後は次に任せられた奴に任せるべきだ。
「もう邪魔をするつもりはない……僕はここで静かに暮らすからな……」
ここは未開の地……かつて何千、何万とここを開拓しようとしたが、余りにも厳しいため、僕以外誰もこの地にたどり着くことができなかったのだ。
それに僕はもう人と関わるのはうんざりなんだ。
「それじゃあ、私達は魔王城に帰るわ……」
「そうしろそうしろ」
ウルスラは転移魔法を使えるのである程度の場所には転移陣があれば移動できるから魔王城には簡単に帰ることができる。
「ノウェムはどうする?」
「僕は元気だと伝えてくれるだけでいい」
「わかった、最後にこれ……」
ウルスラは僕に紅い石を渡してくる。
「それは通信魔法だ、困った時は私を頼るといい」
ウルスラがそんな事をする義理はないはずだ。
何を企んでいるかはわからんし、後で何を要求されるか分かったもんじゃない。
「お断りだ、僕はもう面倒事はごめんなんだよ」
「いいから、持っといて!」
そう言って投げつけてくる。
投げるのはいいが、そんなスピード、普通なら受け取れんし貫かれるぞ。
そんな事を思いながら難なくそれを受け止めながらウルスラを見る。
「別に使わなくてもいい、だが放っておけんのだ」
「僕はお前より強いぞ?」
「うるさい! いいから黙って受け取れ!」
そういうと、魔王は転移して行ってしまった。
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僕の新しい生活が始まって数日後
あたりには花の匂い、草木が生い茂る土地なので自然豊かで落ち着く。
僕はこの土地で採れた花をすり潰し、お湯を注ぐ。
この花は毒がなく、そしていい味がして心が安らぐのだ。
「あ、私もお願〜い」
そう、僕は落ち着いた生活を始められる……筈だった……。
目の前には机に突っ伏した魔王が、ホットフラワー(勝手に命名した)をねだってきている。
「お前なぁ〜、魔王城はいいのかよ……」
「たまには良いじゃないか、もう敵対関係ではないのだし……」
毎日顔を出してるじゃないか……。
こいつは一度帰ってから毎日僕の所に来ている。
「毎日来ているのがたまにか?」
要れた
「細かい男はモテない」
ウルスラは花湯の匂いを嗅ぎそう言うと、花湯を少し口に含む。
憎たらしい魔王である。
「今日は、君に一つ伝えることがあるの」
「伝える事?」
「えぇ、君の後任の勇者だけど……何者かに殺されたわ」
勇者が殺された。
勇者が敗北したではなく殺されたという言葉は予想できたことだ。
過去の勇者は揃いも揃って死亡している。
理由は何も魔族だけでなく、盗賊など国家を脅かす者と戦う事もあるからだ。
普通、勇者は負けないと思っているだろうが、それは魔族と戦う時のみだ。
魔族にとって勇者は死神で魔王等の力が無ければ聖剣で一撃で殺されてしまう。
だが、それが人なら個人の力になる。
個人の力となれば、女神の祝福が無い一般人だ。
当然、訓練をしていなければ只の一般人が死線を潜り抜けて来た盗賊に勝てるはずもなく、特に女性勇者だった者は悲惨な末路だった奴もいると聞いた。
今回の勇者も女性だったが、殺されただけまだましだっただろう。
大体の勇者は魔族ではなく、おそらく人同士の戦いで殺されている。
しかし国は勇者が魔族にではなく、人間に負けたとは王国も都合が悪いのだろう。
魔族に倒されたと僕達勇者以外にはそう報道していた。
「やっぱりまた例の盗賊か?」
ウルスラは花湯を飲むとカップを机に置く。
「あぁ、聞いたところによると
「幻影騎士団か……だけど、あの集団は」
「あぁ、貴様がいる時代に衰退したA級指定国家犯罪組織だ」
かつて僕はその集団を壊滅寸前に追い込んだ。
殺さず、皆気絶させ頭の奴とは話し合い(脅し)で命を見逃す代わりにこちらに着くという契約を交わした。
それから奴らは大人しく僕のいう事を聞き、生きていける報酬を渡していた事で彼等は善人として生きていたのだが……
「成る程、僕がいなくなった途端にこれか」
あの時殺しとくべきだったとは思わない。
実際あの組織は巨大でその辺の盗賊を統率していたからだ。
加えて僕が悪徳商人や貴族を一覧として渡して襲いその成果を全て彼らに渡していたのだ。
それらが全て無くなり、僕が居なくなったことで十分な報酬がなくなり飢えを凌ぐために再び悪事に手を染めたのだろう。
「それで? 君はどうする?」
「どうするとは?」
「干渉しないの?」
「言っただろ、僕は干渉する気はもうないんだ」
彼等やこれから被害に遭う奴らには悪いが、僕に出来る事はもうない。
否、干渉した所でこの問題は国が歩み寄るか、見捨てるかの二択しかない。
あの国がやるとすれば後者に違いない。
民を簡単に切り捨て自分達の保身に動く、それがあいつらの手口だ。
「ふ~ん」
「聞いてみたかったんだけど、魔族って内部での争いが無いのか?」
正直、人間の内乱は歴史を見ても日常茶飯事なのに対し、魔族はそうした内乱は過去に数えるほどしか起こっていない。
「完全にないとは言い切れないけど、人族よりは圧倒的に少ないわよ」
もしかしたら人族とは違い、魔族は個人の力で従えるからか逆らう奴が存在しないのかもしれない。
そう考えれば、人族と違い統率が取れていると言ってもいいのかもしれない。
「っと言うより魔族はそもそも戦いなど好まない連中が多いの」
「そうなのか?」
「あぁ、
その割には僕に対して躊躇なくぶっ放してきたけどな。
そう思ったが、煽った僕も悪いので言わないでおく。
「まぁ、多いってだけでいないわけではないのでそう言う奴は必然的に魔王になりたがるから、それを阻止するって意味で戦いの好まない穏健派から強いのを複数名出して魔王になっている」
「因みに穏健派以外でなったことのある奴はいるのか?」
「あぁ、私の前の奴はそうだった……人族と全面戦争しようとして先陣切って…… そして、死んだ」
先陣切るだけ良い将だ。
あのクソ王は後ろでふんぞり返っているだけだったしな……。
思い返してみれば、面倒事はノウェムか僕に来ていたように思える。
成功して当たり前、失敗したら叱責で誰かが責任を取らされ最悪は処刑される。
自分では何もしない無能な王、それが人族の国の王だった。
「まぁ、先代魔王ので人族が攻撃するきっかけを与えてしまったので私は貧乏くじもいい所だよ……」
彼女の先代の
そう思うと同じ苦労人として親近感がわいてくる。
そうしていると、ウルスラの後ろの空間が歪む。
ウルスラ以外にも転移魔法を使える魔族がいたのか……。
「だからさ~、そんなことで僕を使わないでくれるかな~」
聞き覚えのある気怠そうな声が聞こえてくると、空間から紅蓮の髪に透き通るようなそして熱い紅い瞳の少女と黒い髪に黒い瞳のローブを被った女性二人が歩いてくる
その姿は成長したとはいえ、見間違うはずがない。
僕の先々代の勇者で戦場で魔族に殺されたと聞かされていた幼馴染みのエレナと戦場で仲間を守るために単身で残った幼馴染のノウェムだ。
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