かつて世界を救った勇者は世界に見捨てられる

ゆうき±

勇者剥奪と新たな物語

第一話 勇者と魔王のその後

 山を越え、谷を越え、数々の厳しい場所を乗り越えて僕レウル・ラーガスは誰も立ち入る事の出来ない未開地の綺麗な花が咲き誇る場所に建てられた小屋にある鎖に繋がれた黒く濁った水晶を見つめる。

 

「もう、管理するのも面倒くさいし、目覚めさせるか……」


 そう言って僕は水晶に手をかざす。

 

「今をもって封印を解き放つ……鎖束解!」


 そういうと、周りにあった鎖が解け、水晶が地面に着くと亀裂が入り、やがて亀裂が全てに達すると水晶が割れ、それぞれの水晶の中から5人が姿を表す。

 そのまま地面に倒れそうだったので風魔法で5人ともゆっくりと寝かせる。

 少しして黒い服装に身を包んだ魔王ウルスラが白銀色の綺麗な瞳を向けてくる。


「なぜ貴様が封印を!?」


 驚いたように僕にそう告げるのも無理はない。

 だって僕がこいつらを封印したのだから……。

 その言葉と共にウルスラ直属の四天王が続々と目を開ける。 

 各々、僕をみるとすぐさま警戒態勢に入る。


「おいおい、敵対はもう辞めだ……それに戦った所でお前達は僕には勝てない……そうだろ?」


 まぁ、嘘なんだが……。

 一対一ならまだしも、四天王と魔王が相手では流石に勝ち目は低いかもしれないいのだ。


「やめよ」

 

 ウルスラはそう言うと、他の四人は後ろへ下がる。


 そうして僕は彼女達にその後の事を話した。

 魔王を封印して王都に帰った僕は王に全てを報告した。

 魔王を含め四天王を打倒したと伝えると、国王はこれを好機として一気に攻めようとしたが、国王と話し合い(主に脅しに近い)で魔族と条約を結ぶことになった。

 それをウルスラに伝える。


「本当に、魔族が虐げられぬ世界が実現したのね!?」

「あぁ、少なくとも僕がいた時はそうだった」

「よかった〜」


 膝を折り、心底嬉しそうにウルスラは綺麗な瞳から涙を浮かべている。

 四天王も嬉しそうに涙を拭っていた。

 その涙と表情からはとても世界を滅ぼそうとするようには見えなかった。


「一ついいか?」

「……何?」

「お前達は本当に世界を滅ぼす気なのか?」

「いいや、私達は滅ぼす気もない……そっちが勝手に攻めてきただけよ」


 魔王の意見を聞くと、王国と言っている事とまるで違う答えが返ってきた。


 王国の魔王軍について

 魔王が世界を手中に収め、人族を滅ぼそうとしている。

 魔王は卑劣で狡猾……。

 捉えられた人は拷問を受けた上に無惨に殺されている。

 

 魔族の意見

 向こうが攻めてくるから対抗しているだけ。

 被害が広がる前に攻め落とし、平和にしたかった。

 捉えた人間はこちらで丁重に扱い返している。


 と言う事らしい。

 なんとも意見がまるで食い違うというか、正反対だ。

 話をある程度まとめたところで最も気になっていた事を彼女に問いかける。


「ノウェムという魔道士を覚えているか?」


 ノウェム……王国最強の幼馴染の魔道士だ。

 彼女は三ヶ月程前に魔王軍の襲撃を受け、民を守るためたった一人で戦った。

 その後は捕虜として王国に降伏するように求めたが、王国は完全拒否……後日、彼女は遺体となって発見されたとされている。


「あぁ、ノウェムか……奴がどうした?」

「僕はどうしても彼女が死んだって思えないんだ」


 まだ現実を受け入れられないのに加え クレロール大森林で彼女に似た結界があったからだ。


「うん? あの子なら生きてるよ」

「本当か!?」


 ノウェムが生きている。

 そのことが嬉しいことこの上ないだろう。


「あぁ、魔族の防衛強化班だからねぇ~」

「……ん? ちょっと待て、防衛強化班? もしやクレロール大森林の結界ってもしかして……」

「あぁ、あの時の結界はノウェムが張ったものじゃ。 「きっとここで張っていれば、レウルが来るだろうからね~」って言ってたから」


 その言い方で納得した。

 ノウェムなら言いそうなことだ。

 道理で簡単に壊せなかったわけだ。

 

「それで、君の目的は何?」

「目的? 別にないよ」


 正直な話、別に理由なんて物はない。

 元々、協定を結ばせる気だったし、暴れる五人を止める為に封印したようなものだった。

 協定を結ばせ、害がなければ解放する予定だったのだ。


「ってか、さっきから思ったんだけど、ウルスラってそんな喋り方なんだな」


 先程からウルスラに対する違和感が半端じゃない……。

 いつもは我とか王族の様な高圧的な喋り方だったのに、今の彼女は普通の女の子だった。

 僕の指摘に恥ずかしかったのか、ウルスラの顔が見る見るうちに耳まで真っ紅に染まっていく。

 四天王もカノンを含め、「そこは突っ込むなよ」と言いたそうな顔でこっちを見てくる。


「………ぃ……」

「ん?」

「うるさあぁぁぁあい!」 


 ウルスラはそう言うと、こちらに向かって火の魔法を放ってくる。



 魔力を込め脳内高速詠唱をして魔法を唱えると、火の魔法が一瞬で氷漬けになる。


「おいおい、危ないじゃないか」

「うるさい!」


 先程の怒りに任せて放った魔法ではない分密度がある。

 面倒だな。

 僕は手に魔力を込めて彼女の攻撃を弾く。


「危ねぇな、殺す気か?」

「なら殺してやる! 白翼!」


 そう言うと、魔王には不釣り合いの白く輝く翼が現れた。

 

「何度見てもその魔法、魔王には見えねぇな……」

 

 目の前には神の使いの如く天使のような白い翼を纏った魔王がいた。

 魔法の翼を纏った魔王はこちらを見る。 


「さぁ、覚悟はいいかしら!?」


 この魔法は色々面倒くさい。

 彼女の翼から放たれる羽は固く、強化魔法を施されたいわば貫く為の羽だ。

 普通に喰らえば鎧など紙切れのように貫かれる。

 

「出来れば穏便に済ましてくれると嬉しいんだけど、一応魔族と条約を結ばせた功労者だぞ?」

「なら、君はもう用済みでしょ?」

「わーお、鬼畜~」

「魔王だからね!」


 白い翼から羽がこちらに向かってくる。

 この羽はそこらの攻撃魔法より威力が高いだけでなく、数も多い。


「氷魔壁!」


 氷の盾が現れる。


「魔吸」


 そう唱えると、彼女の羽が僕の氷の盾に当たる。

 羽は盾に当たるとそのまま羽の魔力を吸収し、盾を修復する。

 僕の魔力は尽きることなく、そのままを地面に突き刺す。


「見たぞ、その魔法……写魔しゃま!」 


 この魔法は受けた魔法攻撃を元に受けた魔法を構成する。

 一度受けなければならないという欠点はあるが、受けきればその魔法を一度だけ使うことが出来る。

 後ろから白い羽が生える。

 そうして白い羽同士がぶつかり合う。

 何度も何度も彼女の魔法と写魔でコピーした魔法がぶつかり合う。

 やがてウルスラの攻撃が止み、同時に僕の魔法も切れる。

 

「もうやめない? もう敵対関係じゃないし」

「そういう問題じゃない、これは意地……魔族の王たる私がましてや勇者に負けるだなんてあってはならないの」

「もう僕は勇者じゃない、それに今の勇者は違う奴だし君なら余裕で勝てる」

 

 嘘ではない、僕の次に選ばれた勇者は弱くはないが、強くもないと戦った僕は思った。

 あの子になら四天王でも聖剣無しならいけるのではないか思える。

 彼女は聖剣の真の力を未だ引き出せていない状態なのだ。


「それにこのままだとお互いっというか君が疲弊するだけだし、僕はもう世界を守る必要はなくなった……だから封印を解いた……それだけだ、後は好きにしろ」

「お前の大切な奴や仲間、国が亡ぶんだぞ!?」

「構わないよ、その役割は僕じゃない……勇者の役割だ」


 そう言うと、ウルスラは憐れむような顔をして僕を見た。

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