9 元勇者がいなくなって……

 勇者が殺された。

 勇者がではなくという言葉は予想できたことだ。

 ウルスラとの話でこのことに気が付いた。

 過去の勇者は揃いも揃って死亡している。


 理由は何も魔族だけでなく、盗賊など国家を脅かす者と戦う事もあるからだ。

 普通、勇者は負けないと思っているだろうが、それは魔族と戦う時のみだ。

 魔族にとって勇者は死神で魔王等の力が無ければ聖剣で一撃で殺されてしまう。

 だが、それが人なら個人の力になる。


 個人の力となれば、女神の祝福が無い一般人だ。

 当然、訓練をしていなければ只の一般人が死線を潜り抜けて来た盗賊に勝てるはずもなく、特に女性勇者だった者は悲惨な末路だった奴もいると聞いた。

 

 大体の勇者は魔族ではなく、おそらく人同士の戦いで殺されている。

 しかし国は勇者が魔族にではなく、人間に負けたとは王国も都合が悪いのだろう。

 魔族に倒されたと僕達勇者以外にはそう報道していた。


「やっぱりまた例の盗賊か?」


 ウルスラは花湯を飲むとカップを机に置く。


「あぁ、聞いたところによると騎士の幻影シャドウナイトらしい」

「騎士の幻影か……だけど、あの集団は」

「あぁ、貴様がいる時代に衰退したA級指定国家犯罪組織だ」


 かつて僕もその名前の集団を壊滅寸前に追い込んだ。

 殺さず、皆気絶させ頭の奴とは話し合い(脅し)で命を見逃す代わりにこちらに着くという契約を交わした。

 

「成る程、僕がいなくなった途端にこれか」


 彼らは代が変わったことを知り、僕が死んだと思いこんで再び国に反逆を開始したってわけか……。

 何というか、胸が痛むというか……何とも言えない気持ちだった

 

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