30 宿敵との闘い

俺はネルド村から飛び出した後、近づいてくるカンク軍へと向かった。

迫ってくるカンク軍に近づくと、乗馬している敵兵の先頭集団に見覚えのあるやつがいる事に気付く。


(……うわ、お前もいるのかよ)


そいつと話すのも嫌だが、今はそんな事も言っている状況じゃない。

俺は仕方なく糞野郎が率いる敵兵の前に立ちはだかった。


「止まれぇぇ!!!」


俺の存在に気付いていたのか、敵兵の先頭集団は進軍の足を止める。

乗馬している糞野郎は俺を見下ろしながら話始める。


「ふん、また会ったな。忌々しい人間が」

「……バッカス」


バッカスは不敵な笑みを浮かべて続ける。


「ふふ、それにしても滑稽こっけいだな。お前は今回もエリナベル王国の時と同じように何もせずにネルド村から逃げだすのか? ……腰抜けにはお似合いの判断だな」

「……はっ……逃げるだと? 勘違いするなバカ、あの時はお前から一刻も早く離れたかっただけだ。……お前こそ、皇太子こうたいしであるのに先頭集団に選抜されているとは笑えるな。……あぁ、シャルロッテから婚約破棄されて帝国から見限られたか? ……可愛そうなやつだ」

「黙れ人間風情が!! 私は望んで先頭集団に志願したのだ! ……お前を殺す為にな!!」


バッカスは吐き捨てるように言うと、腰から剣を抜く。


「そうかよ。……だが、残念だったな。お前に俺は殺せない」

「ほざけ!! …………おっと、私とした事が愚かにも挑発に乗ってしまうとは……ふむ、すぐにお前の相手をしたいところだが、まずはネルド村を消させてもらおう。……おい! 準備は出来ているのか?」


後方に控えていたローブを着た威厳のある者に視線を向けたバッカスは何かを確認し始める。


「……はい。バッカス様。射程圏内でございます」

「わかった。すぐに行うがいい!」

「はっ!! 畏まりました」


バッカスは何かの指示を出し終えた後、俺に視線を戻す。


「お前には特等席とくとうせきで見せてやろう。……ネルド村の最後の時をな!」

「……な、何をする気だっ!」

「ふふ、わめくな人間。見ていれば分かる」


すると、先ほどバッカスが指示を出したローブ姿の者がネルド村に向けて右手を添えて――


『神の審判・ゴッドサンダー!』


――最上位の雷魔法を唱え、瞬く間にネルド村上空に黄金色の閃光が集まりだす――


(……魔法!? ……ヤバい、このままじゃラミリアとリーシアが!!!)

「……間に合え!!!!」


俺はすぐにネルド村に向けて右手を添え――


『ホーリー・ミラーシールド!』


――最上位の聖魔法を行使し、ネルド村を覆うように分厚い結界を瞬時に張り――


――ドゴォォォォォォォン!!!!

その刹那、俺が展開した防御壁にネルド村を一瞬で消し炭にするかであろう雷撃が激突する。


バチバチバチバチバチバチッ!!!!!

黄金の閃光を放ちながらネルド村に降り注がれる雷撃は、ものすごい威力で俺の防御壁を突破しようとしてくる。


「……グゥッ!」

(おいエイル!! あの雷撃を絶対に突破させるな!!!!!)

≪あわわ!! わかってま~す!!≫


俺が展開した防御壁にバッカスも驚きを隠せずにいた。


「何だとっ!? ……まさか、お前も魔法を使えると言うのか!? ……ふ、まぁいい。我が軍の前でそんな無防備な状態がさらすとは……愚かだなアーノルド!!」


バッカスはそう呟くと、馬に乗りながら剣を構えて俺の方に向けて駆けてくる。


(……待て待て!! 今の状態でお前の相手をする暇はないぞっ!)


こんな事なら剣を持ってこればよかったと反省しながら、俺は選択肢を迫られていた。

ネルド村に張っている防御魔法を解いて、自身を守るか。それとも――


「死ねぇぇぇぇ!!!」


――ズシュゥゥゥッ!

俺はネルド村に張っている防御魔法を解く事をせずに、俺はバッカスに思いっきり斬りこまれる――


「ぐあああぁぁ!!」


――ズサァ!

斬撃で吹き飛ばされた俺は仰向けに倒れるが……斬られた痛みは一向に襲ってこない。


「アーッハッハハハハ!! これで忌々しい人間はこの私が殺してやった! 安心しろ、ネルド村もすぐに私たちが滅ぼしてくれよう!」


馬鹿笑いしているバッカスの声を聞きつつ、俺は痛みが襲ってこない事に驚いていた。


(……あれ?)

≪もぉ~! アーノルドさ~ん、無茶をしないでくださいよ~! 念の為、私がアーノルドさんを守っていたので大丈夫でしたが、何度も防ぐ事は出来ないので気を付けてくださ~い!≫

(……た、助かった……のか!?)

≪ふっふっふ~そうですよ~! それはそうと、ネルド村に降り注いでいる雷撃も収まってきたみたいです~!≫


エイルの声で俺が展開している防御壁の方をみると、上空から降り注いでいた雷撃はみるみる小さくなっていき消滅していった。


「……よかった」


――ムクッ

俺は体を起こしながらネルド村を守る事ができて、心の底から安堵の声を上げる。

もし、自分の身を守る行動をしていたら、ネルド村は消え去っていただろう。


「……な、何っ!? 貴様……なぜ、起き上がれるのだ!」


俺は驚いたバッカスを放置しつつ、エイルに物申す。


(……てか、俺を守っている結界を張っているなら初めから言え!! このバカエイル!)

≪ひぇ! だ、だって~それを言うとアーノルドさん断るじゃないですか~≫


……そういえば、子供の頃にそんなやり取りをした事を思い出す。


(あ~……そんな事もあったな。まぁいいや。とりあえず、助かったよエイル。ありがとう)

≪ふっふっふ~どういたしまして~!≫


俺はエイルとのやり取りを終えて、立ち上がる。


「……残念だったな。俺は無傷の様だ」

「な、何故だ!」

「お前に説明するのも面倒だ。……お前の相手をする前に、まずは魔導士には眠って貰うとするか」


俺は先ほど雷撃を放ったローブ姿の魔導士に右手を向け――


『サファケイト!』


――ドサッ!

上位の窒息魔法を放つと、魔導士は瞬時に気絶して落馬する。


「ぐぬぅ……! 我が軍の賢者を一瞬で……何なのだ、貴様は!」

「……だから、お前に説明するのは面倒だって言ってるだろ? ……ほら、早くこいよ。お前の相手をしてやる」

「言われなくても殺してやるアーノルド!!」


すると、傍にいた兵士から声があがる。


「バッカス様! 恐れながら、ギルガス様はアーノルドという男は生きてアラバスト王国に連れて帰るよう言いつけられているはずです!」

「黙るのだ!! 父上には謝って殺してしまったと報告すればいい! ……こいつはここで殺さなくてはならない男なのだ!」


自軍と口論しているバッカスを横目に、俺は無事に雷撃から守る事が出来たネルド村を見て再びホッと胸をなでおろす。

そして、俺はすぐにバッカス達に視線を戻す。


「……どっちでもいいけど、遊んでやるから早くかかってこいよ、バッカス!」

「言われずとも殺してやる! アーノルド!!」


こうして俺の大っ嫌いな宿敵との闘いは今始まるのだった。

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