29 迫りくる敵軍

俺はリーシアの傷を治しながら周りの状況を見渡していた。


「……でも、エラルド軍があの門を突破してくるなんてな」


俺は粉々に粉砕された裏門を見ながら呟く。

すると、俺に抱き着いて離れないラミリアが顔を上げる。


「……あれ、私のせイ」

「は? そうなのか、ラミリア!?」

「ウン……。私、イスラに逆らう事ができなかったノ。それにリーシアお姉ちゃんもいっぱい傷つけタ……」


ラミリアは俯きながら答える。


「あ~…………なるほど、な」


確か、エイルがそんな事を言っていた事を思い出した俺は、裏門が粉々な理由とリーシアが傷だらけの理由も察していると、治療中のリーシアが声を上げる。


「アーノルド! ラミリアさんは悪くないわ!」


リーシアはそう言うと、遠くで倒れているイスラに向かって吐き捨てるように続ける。


「あのイスラって人が泣いてるラミリアさんに無理やり命令していたのよ。それに……ラミリアさんを裏切りもの呼ばわりするんだもの! 絶対に許せないわ!!」

「……そういう事だよな。……いや、俺も間に合ってよかったよ。……さ、もう大丈夫だリーシア」


俺はリーシアの傷を完治させると立ち上がり、リーシアに手を差し伸べる。


「ほら、立てるか?」

「……えぇ。ありがとう」


リーシアは俺の手を取って立ち上がる。

抱き着いて離れないラミリアを放置しつつ、火が上がっている民家の方に視線をやる。


「次は村の皆の方だな。……ほら、いい加減離れて手を貸せラミリア!」


俺はラミリアを剥がしながらそう言うと――


「……私、魔法使いすぎてもう動けなイ」


――顔を上げて何かをねだるような甘い表情を浮かべる。


「はぁ……わかったよ。ここに寝かせておくのもアレだし。……俺が背負ってやる」

「ウン!!」


俺は笑顔のラミリアを背中に背負い、俺達は急いで村中を回る事にした。


「あぁ……アーノルドさん。ありがとうございます!!」

「アーノルドさん、助かりました! ありがとうございます!」

「先生……ありがとうねぇ……!」


傷ついた村人の治療や燃えさかる建物を鎮火させていくと村人達から次々とお礼を言われていくが、途中から返答するのも面倒になったので軽く受け流しながら俺達は救援作業を続けた。




救援作業が終えた後、俺はそこらへんに寝転がっている兵士達をイスラが気絶している辺りに集めイスラも含めて全兵士を縛り付けた。

そして、一仕事終えた俺達は最後に薬屋で立ち尽くしていた。


「……せっかくシャルロッテが作ってくれた薬屋が、全焼だな。……オイド、お前の犠牲は無駄にしない」


俺が薬屋に向かって両手を合わせていると――


「たわけ!! 勝手に殺すでないわ!」


――薬屋の裏に隠れていたのか荷物を抱えたオイドが姿を現し、物凄い勢いで突っ込んでくる。


「……お、生きていたのかオイド!」

「当たり前じゃ! せっかく薬屋の大切な顧客リストや貴重品を一通り持ち出してやったのに、なんじゃその扱いは!」

「すまんすまん。……でも、酷い有様だな」

「……うむ、そうじゃのう」


俺とオイドは全焼した薬屋を見ながら呟く。

すると、リーシアが俯きながら話す。


「……あんなに立派だった薬屋のに勿体ないわね」


リーシアの言葉を聞いて背負っていたラミリアが反応する。


「……私のせい、ごめんなさイ」

「あ、そういった意味では……仕方ないです、ラミリアさん。気を落とさないでください」


リーシアがすぐに近寄ってきて、ラミリアの頭を撫でる。


「……ま、過ぎた事を悔やんでも仕方ないさ、全焼したとしてもまた作り直せばいいだけだし、そんなに気に病むなよラミリア」

「ウン……ありがとう、アーノルド」


リーシアに撫でられていたラミリアは俺をより強く抱きつきながら返事を返してくる。


「……して、アーノルド。これからどうするのじゃ?」

「そうだな。まずは皆の体を休ませ――」


――カンカンカンカンッ!

突然、正門の方から鋭い音が鳴り響く。

俺は正門の方にすぐ視線を向けると、見張り台にいた人が大声で村中に向けて叫ぶ。


「正門側の北方面から大勢の軍が接近中です!!!」

「……くそっ! 休む暇も与えてくれないのかよ!! ……リーシア、ラミリアを頼む」


俺はすぐに背負っているラミリアをリーシアに託そうとするが――


「私も付いていクっ!」


――ラミリアは俺を放してくれなかった。


「ラミリア……いいか。俺は今迫ってくる敵の軍と対峙するんだ。お前達を巻き込みたくない。……それにラミリアは魔力切れで動けないんだろ?」

「それハ……そうだけド」

「……また後で沢山遊んでやるから、ここでリーシアと待っていてくれないか?」

「ラミリアさん、私も一緒にいます。アーノルドの帰りを一緒に待ちましょう」

「…………ウン」


小さく声を上げるラミリアをリーシアに預ける。


「よし、良い子だ。……リーシア、ラミリアを頼む」

「えぇ! アーノルドも気を付けて!」

「分かってる!」


もう俺の判断ミスで二人を危険な目には合わせる訳にはいかない。

俺はキツめにラミリアに言い聞かせた後、すぐに正門へと駆け出した。





正門に到着した後、すぐに俺も見張り台に上る。


「敵兵は!」

「アーノルドさん! 北の方角から迫ってきます!」


見張り台にいた人は大勢の軍が迫ってくる方角を指差す。

帝国の旗がいくつもあがっていて、カンク帝国の兵士だと遠くから見ても分かった。


「……多いな」


エラルド公国とは違って領土の広大なカンク帝国軍は地平線を埋める程の規模だった。

……いくらなんでも、このネルド村一つに容赦なさすぎだろ。


「すぐに正門を開けてくれ、一足先に俺が出迎える!」

「そんな……危険なのでは!」

「このまま待っているだけだと、一瞬でこのネルド村は完全に包囲されてしまう。それだけは絶対に防ぐんだ!」


裏門なんてガラ空きの状態だし、包囲されたら一瞬で制圧されてしまう。

……だからこそ、絶対に俺が食い止めてやる!


「……わかりました。すぐに正門を開けますね」

「あぁ」


俺はすぐに見張り台から降りる。


――ギギギギッ……ドゴォンっ!

固く閉ざされていた正門はゆっくりと開ききる。


「アーノルドさん! どうがご武運を!」


見張りの人が見降ろしてきて声を掛けてくる。


「あぁ!」

(……それじゃ行くぞ、エイル!)

≪わっかりました~! ちゃちゃっとやっちゃいましょう~≫


俺はエイルの気の抜けた掛け声を聞きながら、迫ってくるカンク軍に向けて駆け出すのだった。

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