13 アーノルドの幼馴染:リーシア視点
ここはアラバスト王国の宿舎。
ある日、城内の食事を作る仕事をしていた私の元へ、アーノルドからの手紙が届いた。
「……あ! アーノルドからだ」
私はすぐに手紙の中身を確認する。
――――――――
リーシア・ラリエットへ
久しぶりだな、アラバスト王国では元気にしているか?
俺は何故か知らんが、エリナベル王国を追い出されたのでネルド村ってところに移り住むことになった。
お前の事だからまた前みたい
そんな感じだからまた何かあったら連絡する。
アーノルド・エドワースより
――――――――
中身を読み終えた後、私はため息交じりに呟く。
「……はぁ、アーノルドったら、また何か仕出かしたのかしら」
(でも、また何か理由があるんだろうな……)
アーノルドは数年前にもアラバスト王国の王子を怒らせ、王国から追い出されていた。
確か、困っているエルフ族に手を差し伸べたからだ。
(……アラバスト王国はエルフ族を嫌悪感を抱くほど毛嫌いしているのは知っているけど、それだけでアーノルドを追い出すこの国もどうかと思う)
アーノルドはぶっきらぼうで一見素っ気ない風に見られがちだが、私はアーノルドがそうでない事を知っている。
まぁ……ちょっと面倒くさがりな点もあるけど、私が今こうして生きていられるのもアーノルドがいてくれたお陰なんだ。
(あれはそう……私たちがまだ子供だった頃の話だ)
◇◇◇ ~10年前~
まだ私が幼い頃、フカミィ村という片田舎に住んでいた。
私は子供の頃から
「ゴホッ……ゴホッ……」
そんな私の隣の家に住むアーノルド君という私と同じ年ぐらいの男の子がいた。
「……お前、いつも寝てるよな」
「ん~……アーノルド君はいつも元気でいいね」
私は見舞いに来る元気なアーノルド君に皮肉交じりの返答をよくしていた。
「そんなに落ち込むなよ。リーシアがいつか動き回れるように、僕が何でも治せるような医者になってやるから!」
「……ありがとうアーノルド君。期待しないで待ってるね」
こうして私は体が治っては体調を崩してを頻繁に繰り返す日々を過ごしていた。
そんなある日、私の容体が悪化し命の危機に面してしまう。
「うぅ……苦しい」
「ちょっとまってろ、僕がどうにかする!」
「……アーノルド君、何をする気なの?」
「この村の近くに神殿があるだろ? その中にある
「……そんな、あの真珠はこの村を守っている真珠だってお母さんもいっていたよ?」
「ちょっと借りるだけだから大丈夫だって! ちょっと待ってろ!」
アーノルド君はそう呟くと、部屋から出て行った。
それから数日すると、傷らだけのアーノルド君が部屋に訪れた。
「アーノルド君!? ゴホッ……ゴホッ……大丈夫?」
「いや、リーシアこそ大丈夫かよ! でも、すぐに治してやるからな!」
アーノルド君はそう言うと、私の体に右手を添えて何か呪文を唱える。
しばらくすると、止まらなかった咳が止まり始める。
「……あれ? 咳が止まった……」
「ふぅ……もう、これで大丈夫だ!」
「な、何をしたの!?」
「あぁ、
「……割っちゃったんだ」
「うん。でもその時に、よくわからない女性の声が聞こえてリーシアの事を伝えたら力を貸してくれるって」
「……へ?」
(アーノルド君、何を言っているんだろう……)
アーノルド君が何を言っているかよく分からなかったが、ともかく何か力を手に入れて私を治してくれたらしい。
それから私の虚弱体質は嘘のように治り、外を歩き回れるようになるまで回復していった。
……だがそれからしばらくしたある日、私たちの住んでいたフカミィ村をアラバスト王国の軍が侵略してきた。
無抵抗な村人は理不尽に危害を加えられ、私の家にも軍が入ってくる。
「リーシア! 貴女だけでも逃げて!」
「そうだリーシア、ここは俺達に任せてアーノルド君と逃げるんだ!」
「いやっ! ……お母さん! お父さん!」
「リーシア、こっちだ!」
アーノルド君に連れられて家から出る瞬間、私達を守るように立ちはだかる両親が斬りつけられるのが視界に入る。
「いやぁ!!!!!」
「リーシア、立ち止まるな! 止まったら殺されてしまう!」
家から出た私は目から涙があふれて止まらない中、アーノルド君に手を引かれて走る。
多くの家から火が上がるのを横目に私はアーノルド君と二人でフカミィ村から飛び出した。
「待て!! そこの子供!!!」
当然のごとく追手が付いてきて子供だった私たちはすぐに追いつかれてしまう。
まさに殺されそうになったその時――
「やめろぉ!!!!」
――アーノルド君が叫ぶとアーノルド君の体が青白く光り、追ってきた鎧を着た大人たちがその場に倒れ込む。
「……なんだ、この力は」
アーノルド君自身もよくわかっていないみたいだ。
すると、より分厚い高価な鎧を着た大人が驚きながら歩みと寄ってくる。
「ほう……子供の分際で魔法が使えるのか。……面白い。お前達、この小僧をアラバスト王国に連れて帰るぞ」
「……嫌だっ! ついていくもんか!」
アーノルド君は即答で断るが、一瞬の隙を突いて私は一人の兵士に捕まってしまう。
「キャッ!! アーノルド君!!」
「リーシア!!!」
兵士はとても強い力で私は抜け出すことはできなかった。
「ふふ、小僧。この少女の命が惜しかったら私たちの要求を受け入れるのだ!」
「……くそっ!」
「アーノルド君!」
私は申し訳ない気持ちで再び目から涙があふれてくる。
「さぁ、
「……わ、わかった。でもリーシアに傷一つでもつけてみろ! 絶対に許さないからな!」
「あぁ、約束しよう」
分厚い豪華な鎧を着た人は不気味な笑みを浮かべながらアーノルドの申し出を受け入れた。
こうしてフカミィ村の両親を含めた大人は全て殺され、私の命と引き換えにアーノルド君と共にアラバスト王国へ連行されたんだ。
◇◇◇ ~現在~
あの日から私とアーノルドはアラバスト王国から逃げる事は許されず、アーノルドは私の命と引き換えに魔法実験を強要されながら私をアラバスト王国の大人たちから守り続けてくれた。
手紙を見ながら昔の事を思い返してしまう。
(……懐かしいな)
捕まってから数年たった頃、私の虚弱体質を治したアーノルドの不思議な力により、国の王妃を治した事によって周りの私たちの扱いが変わった。
それにより村で殺された両親に対してもそれ相応の償いをしてくれ、大人になった今ではアラバスト王国の城内で料理を作る仕事をしている。
(まぁ……アーノルドはトラブルを起こしていなくなっちゃったけど)
「って、もうこんな時間だ。……よし、今日も頑張ろう!」
私は身支度を終えて、アラバスト王国の宿舎から出て職場である食堂へと向かうのだった。
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