14 不穏な動き:リーシア視点
アーノルドから手紙が届いてからしばらくたった頃、アラバスト王国の城内にある調理場でとある話が出回った。
「リーシア、知ってる?」
「何がですか? カレンさん」
私は朝の仕込みを行いながら料理長であるカレンさんに尋ね返す。
「何でも不思議なポーションってのが出回っているのよ! 飲めば体の不調はみるみる治っていくって」
「へぇ……すごいですね。カレンさんも飲んだ事があるんですか?」
「それはもちろん! 私もいい年だからね。飲んでから体の疲れが綺麗さっぱり取れてすごく良いの。街の人もポーションの話でもちきりよ!」
満面の笑みを浮かべながら話すカレンさんを見るに、とてもすごいポーションなのかが伝わってくる。
(……まぁ、私は飲むことはないと思うけど)
私は子供の頃にアーノルドの不思議な力によって体調不良とは無縁の生活を送る事ができているからだ。
「それでね。その事で王国の偉い方達が話し込んでいるのを小耳に挟んだのよ」
「何ですか?」
「そのポーションが出回ってた事によって、王国の薬の売り上げが激減したっていうの!」
「まぁ……そうなるでしょうね」
「物騒な事にならないといいけど……それでね――」
それからカレンさんはその話で持ち切りになる。
私は朝食の仕込みをしながらカレンさんの話を頭半分で聞き流しながら作業を行うのだった。
それから朝食の仕込みが終わり、城内の大広間に料理を運ぶ。
大広間に到着し、作った朝食を大きな縦長のテーブルに置いていく
「ご苦労、下がって構わない」
国王様が既に席に着いており、近くには家臣の何人か座っていた。
私は軽く会釈をすると、撤退の準備をする。
「それで国王様、以前話していたポーションの件ですが……」
「あぁ、話は聞き及んでおる。あのようなモノが出回ってしまってはアラバスト王国の国益も下がる一方だ。……して、ポーションとやらの出所の調べは着いたのか?」
「もちろんでございます、国王様」
「さすがだな。それで、ポーションの出所はどこなのだ?」
「はい。ネルドという村で、エリナベル王国の領土にある片田舎でございます。ですが、我らの脅威ではありません」
「あの忌々しいエルフが治めている領土か……丁度良い。……兵達に出撃の用意を行うように伝令を出せ! 出撃の準備が出来たらすぐに出発させるのだ。……たかがエルフ族如きが治める田舎村風情に我らの国益に干渉してくるなど、身の程を知らせよ!」
「……畏まりました国王様。すぐに策を仕掛けた後、出撃の用意を済ませてネルド村へ向かいたいと思います」
私は先ほどカレンさんと話していた同様の話を家臣たちが話始めた事に気付き、片付けの手を止めていた。
(……はぁ、アラバスト王国に狙われるなんてネルド村も災難ね)
アラバスト王国は国益を脅かす存在には容赦することがなく、私の故郷であるフカミィ村も同等で数多くの村々に侵略を繰り返している国だ。
私も行く宛がなく惰性でアラバスト王国にいるが……おそらく、今回もアラバスト王国の国益を脅かすネルド村は滅ぼされるのだろう。
(……ん? ネルド村……どこかで…………)
「……あっ!」
思わず声が出てしまった。
何故なら、アーノルドから届いた手紙に書かれていた村だったからだ。
「ん? おい、そこの者、今何か申したか?」
「あ……いえ、失礼致します」
私はすぐに料理を置いていた台を押して大広間から出る。
(……で、でも何で……いや、考えていてもしょうがない……早く、早く知らせなきゃ!)
私は調理室に戻ると、カレンさんにすぐに問いかける。
「すみませんカレンさん! しばらくお休み……いただけませんか?」
「リーシア? 急ね。どうしたの?」
「それが――」
私は故郷の話とアーノルドの事、そして今アーノルドがいる村が襲われそうになっている事をカレンさんに伝える。
「――という事で、その事を知らせに行きたいんです!」
「アーノルド……確かリーシアがアラバスト王国に来た時、一緒にいた子よね?」
「はい!」
カレンさんは、私がまだ子供の頃から世話を見てくれた方で、アラバスト王国に来て右も左もわからない状態の私達を見守ってくれていた存在だ。
今は子供の頃から教えて貰った料理を生かして一緒に城内の調理場で働いているが、私はカレンさんを第二のお母さんと思って接している。
「……そう、だったらすぐに教えに行ってあげないとね。ここは私に任せなさい。気のすむまで休んでいくといいわ!」
「ありがとうございますカレンさん! それでは今日はこれで帰ります」
「えぇ! アーノルドによろしくって言っておいてね」
「わかりました!」
それから私はすぐに宿舎に帰り、身支度を整える。
アーノルドから届いた手紙を再度確認する。
「……やっぱり、ネルド村って書いてある」
(間違いない……早く知らせに行かなきゃ)
それから私はネルド村に向かってアラバスト王国の宿舎から飛び出したのだ。
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