12 シャルロッテと薬屋開業

俺がなんとなくした質問に対してシャルロッテは答える。


「アーノルド……宮廷に戻ってくる気はありませんか?」

「……へ?」


シャルロッテの意外な提案に俺は気の抜けた声を出してしまった。

俺はシャルロッテの提案に少し考えてから答える。


(有難いお誘いだが……)

「せっかく誘って貰って悪いが……今、この村を離れる訳にはいかないんだ」

「……そんな、もう宮廷にはバッカスさんもいないのですよ?」

「それは非常に嬉しいが……ちょっと違う理由なんだ」

「そうですか……あ、あのっ! できればその理由をお聞かせ頂いてもよろしいでしょうか?」

「……あぁ、少し前から俺が作っている薬があってな――」


それからシャルロッテに俺がネルド村で作っているポーションについて説明し、ポーションを求める人が予想以上に多くなっている事も伝える。


「――だから、俺が今この村を離れる訳にはいかないんだよ」


ポーションの説明を伝えた後、俺は申し訳ないと思いながらもシャルロッテの申し出を断る。

すると――


「なんという事でしょう! アーノルドはネルド村でもとても素晴らしい行いをしていたのですね! ……その、ポーション……というものを見せて貰ってもよろしいでしょうか?」


――シャルロッテはポーションというモノに興味を示す。


「わ、わかった。ほら、ラミリアも行くぞ」

「ウン! シャルロッテ、こッちきテ!」


俺が案内しようとすると、ラミリアはシャルロッテの手を掴み先に荷台を降りていく。


「ま、待ってください。ラミリアちゃん!」


(……ラミリアのやつ、シャルロッテの事を気に入ったようだな)


俺も二人を追いかけ、ラミリアと一緒にシャルロッテを医療所へ案内した。




医療所に入ると、オイドが緊張した面持ちで出迎えてくる。


「これはこれは……シャルロッテ様。この医療所に何か用ですか?」

「お邪魔致します。オイドさん……でしたよね。アーノルドからポーションの事を伺いましたので、……そのポーションというモノを確認したいと思いまして」

「なんとっ! シャルロッテ様もポーションにご興味をお持ちになりましたか! ……それではお見せ致しますので付いてきてくれるかの」

「お願い致します」


オイドはそう言うと、奥へと進んでいく。


(……緊張するオイドも見ていて面白いな)


俺は一人楽しみながらポーションが保管されている部屋まで付いていく。

部屋に入ると、オイドは小さなビンに入っているポーションを1つだけ手に取りシャルロッテに手渡す。


「こちらがポーションになります。シャルロッテ様」

「……ありがとうございます」


シャルロッテはポーションを受け取ると、小さいビンを上にかがげながら中身を見つめる。


「……綺麗……とても透き通ったんだ液体ですね」

「ちょっと飲んでみるか?」

「……よろしいのですか?」

「あぁ」

「それでは、頂きたいと思います」


シャルロッテは俺の事を信頼しているのか何の躊躇ちゅうちょもなく、小さなビンを密封しているコルク栓を取り――


――ポンッ……ゴクッゴクッ!

俺の作ったポーションを傾けて喉を鳴らせながら飲み込む。


「……ふぅ」


シャルロッテは少ない液体を飲み終えるとなびいた金髪を手で整えながら空いた小さなビンを見つめる。

その仕草は、何故か妙に色っぽく感じた。


「……っ!」


シャルロッテは目を見開きながら勢いよく俺に視線を向けてくる。


「……アーノルド! これは……すごいですねっ!」

「そ、そうみたいだな」


俺は少し驚きながら返答する。


「はい! ……旅の疲れが全て洗い流されたような感覚……といいますか、とても晴れやかな気持ちになってしまいました!」


シャルロッテは小さなビンを両手で握りしめ、目を瞑りながら天をあおぐように呟く。


「そりゃよかった。俺がこのネルド村に来てから、このポーションを作る事になったんだが……予想以上に人気になってしまってな」

「これほどの効果なのですから……そうなるのも頷けますね」


ポーションの効力を体感したシャルロッテも納得してくれたようだ。


「それで、今じゃポーションを作ってもすぐに売り切れてしまう状態なんだよ。だから今俺がこの村を離れる訳にはいかないんだ」

「……そうですか」


シャルロッテは俯きながら少し考えた後、すぐに顔を上げて俺に問いかけてくる。


「……でしたら! 私にも是非このポーションを広めるお手伝いをさせて頂いてもよろしいでしょうか!」

「それは嬉しいけど――」

「――な、なんじゃと!!! よよ、よろしいのですか、シャルロッテ様!?」


俺が反応しようとすると、オイドが割り込んできてものとても驚きながら聞き返していた。


「えぇ。このような素晴らしいポーションは多くの方の手に渡るべきだと私は思います」

「でもシャルロッテ……さっき自己紹介で君主って言っていたと思うが、宮廷の業務はいいのか?」


俺は気を取り直してシャルロッテに尋ねる。


「はい。宮廷からネルド村に出発した際に、宮廷の事は家臣の者に任せておりますのでご安心ください」

(任せてるって……悪用されないといいけど)

「……それならいいけど。でも助かるよシャルロッテ。丁度人手不足だったんだ」

「いえ! アーノルドの力になれるのでしたら、何でも協力致します!」


シャルロッテは満面の笑みを浮かべて答える。


「では、早速シャルロッテ様、一つ提案があるんじゃが――」


それからオイドはイスラ達が尋ねてくる前に俺達が話していた医療所を薬屋に改装する話をシャルロッテに共有する。


「――そうして薬屋を開くとより多くのポーションを提供できるようになると思うんじゃ!」

「なるほど……確かにその方が薬作りに専念できそうですね。……わかりました。それでは、まずこの医療所を薬屋に作り直すところから始めていきましょう!」


オイドの提案にシャルロッテも乗り気な様だ。


(……細かい事は面倒だからシャルロッテ達に任せておこう)


こうして、いきなりこのオンボロの医療所を薬屋として作り変える話がトントン拍子で決まるのだった。




◇◇◇




それからシャルロッテが引き連れてきた部下たちにポーションの話を共有し、ポーションの凄さを体験したシャルロッテ率いるエリナベル王国の全面協力で医療所の薬屋改装が進められた。

そして、瞬く間にオンボロ医療所は清潔感溢れる木の香りが立ち込める木材で作られた薬屋へと作り変えられた。


「……これはすごいな。あのオンボロ医療所の見る影もないんだが」

「ふぉっふぉっふぉ、さすがシャルロッテ様じゃ! 引き連れている方達の技量が違うのぉ!」

「ウン! 大きくてとてもキレイ!!」


オイドとラミリアも非常に興奮気味である。


「これぐらいはどうって事ありません。皆さん、ご苦労さまでした!」


シャルロッテは改装に注力してくれたエリナベル王国の部下に労いの言葉をかける。


「さ、アーノルド! これでポーションをより多くの国々に広めていきましょう!」


シャルロッテは俺に視線を向けて両手を広げて問いかけてくる。


「あぁ、そうだな!」


こうして、オンボロの医療所は大きな薬屋へと変わり、薬屋としての活動が始まるのだった。

……だが、この薬屋が後ほど起きる大きな争いのキッカケになるとは、この時の俺は知る由もなかった。

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